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試練のもう半分


 一方、チュチュの領域では。


 「聖女の試練?」

 チュチュとラピア(レプトの名前だ)を問い詰めて詳細を聞き出した依那は、呆れたような声を上げた。


 「……はいですー」

 『 …はい… 』

 しらを切ろうと頑張った(一応)ものの、簡単に論破されたチュチュは引っ張られたほっぺたを撫でながら落ち込んでいる。

 「ううう…今回の聖女は強すぎなのですー。聖女って、こんなんじゃないと思うですー」

 「あ”あ”?」

 思いきりドスを効かせて睨み上げてやると、チュチュは正座したまま、ぴゃっと飛び上がってぶんぶん首を振った。


 「なんでもないのですーごめんなのですー、チュチュが悪かったのですー」

 「……まぁいいけど」

 ため息をついて、依那はチュチュの隣で身体を折りたたんで(正座のつもりらしい)座っているラピアを眺める。

 「………で?その試練ってのは、ラピアの本体見極めれば合格なの?」

 そう聞くと、チュチュとラピアは顔を見合わせた。

 『 まだ 終わり ちがう… 』

 「()()終わったとこなのですー」

 依那を見上げて、二人は口々にそう言った。

 

 「普通は、ラピアが脅かしてー、わざと見失ったふりして、その隙に聖女を『時の泉』に行かせるのですー。まさか、魔法なしで、一人でラピアに勝っちゃう聖女がいるとは、盲点でしたー」

 正座から解放されて、足を投げだして座り直しながらチュチュが言う。


 「聖女は、レプトの話、知ってたですかー?」

 「とにかくでっかくて速いってのと、攻撃や障害物すり抜けるってのと、酸を吐く、ってくらいかな。あと、銀の宝物を守ってるって…それくらい?」

 「良く知ってるですー!聖女はほんとに人間ですかー?」

 「エルフの友達に聞いたのよ」

 「エルフに友達いるですか!アーサーみたいですねー」

 にぱっと笑って、チュチュはぴょんと立ち上がった。そのまま、森の奥へ歩き出す。ついて来いということらしい。


 「前の勇者のアーサーは、エルフのお友達がいたですよー。フェリドというですー。聖女のお友達のエルフは、フェリドのこと知ってるですかねー」

 「あ……どう…かな?」

 無邪気に前を行くチュチュに、友達のフェリシアはフェリドの娘だと言おうとして……なぜか言えなかった。

 この森に入れないエルフ(亜人)のフェリドと、この森で生きるチュチュに面識があるかはわからないが、あまりにあっさり彼の名を口にするチュチュは、もしかしたら彼が闇堕ちしたことを知らないのかもしれない。

 だったら……この小さなドリュアスを悲しませることは言いたくなかった。


 「えと……どこ行くの?チュチュ」

 「『時の泉』ですー。聖女にはそこで、試練のあと半分をやってもらうですー」

 「『時の泉』って……?」

 「不思議な泉ですー。その泉に浸けておくとーいろいろ長持ちするですー。お菓子もくさりませんー。水浸しで食べられなくなるのが難点ですがー」

 「いや、やめよ!?そういうの浸けるのは!」

 わいわい騒ぐ二人の後を、ゆっくり静かにラピアがついてくる。

 やがて三人は茂みに囲まれた、小さな泉のほとりにたどり着いた。


 「これが……『時の泉』……?」

 思わずチュチュに確認すると、チュチュはちょっと複雑そうな顔をして頷いた。


 泉の大きさは、依那が落ちてきた銀の泉より一回り小さい。

 だが、あの泉が銀色に澄み渡っていたのとは対照的に、この泉は濁った緑色で……泉というよりは、()、という感じだった。

 しかも、なんだかおどろおどろしいというか……不吉な感じすらする。

 「……この泉も、昔はもっと澄んでいたですー。ここ20年くらいでだんだん濁って、暗い色になったですー」

 「…そうなの?」

 「昔は、底まで見渡せたですよー」

 「底まで……」


 言われて思わず依那は縁に近付き、泉を覗きこんだ。

 どんよりした水面は依那の姿を映すものの、とても深部までは見通せない。公園の池とか、防火用水とか、ああいうのを覗いたような感じだ。


 「それで……」

 どうすればいいの、と聞こうとして、依那は縁ぎりぎりに佇み、じっと水面を見つめるラピアに気づいた。

 いくら見つめても底はおろか1メートル下だって見えないだろうに、ラピアはただ一心に水面を見つめている。

 まるで――宝物を落とした、子供のように。


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