襲撃 3
流血表現があります
異様な空気に、ザムルまでが動きを止める。
シャノワの腕の中で、ロザリンドの髪がざわめき、亜麻色から黒へと色を変えた。
ぱちぱちと空気がはじけるような音がして、血塗れだったその指先が黒く染まっていく。ボロボロだった軍服は破れ、肩も露わな黒いドレスへと変化していく。
「…ロザ……リン…ド…?」
呆然と膝をつくシャノワの腕から離れ、ゆらりとロザリンドは立ち上がった。
黒い髪が波打ち、顔を隠す。
両の腕は肘のあたりまで黒く染まり、爪が鋭く伸びている。女性らしい肉体はそのままに、両肩と胸元、ドレスのスリットから除く足にも黒い文様が浮かび上がり、足先も腕同様にふくらはぎのあたりまで黒く染まっていた。
そのロザリンドの身体に、白い稲妻が纏わりつく。
ゆっくりと顔を上げたロザリンドの頬と額にも黒い文様が浮かび、そして深い緑だった瞳は、血のような赤に染まっていた。
「ロザリンド……その……姿は……」
「……離れていなさい…」
呆然とするシャノワにそう告げ、ロザリンドは――ロザリンドだった者は、ザムルに向き直った。
「トゥルエ!」
その言葉とともに、すさまじい雷撃が3体のザムルを貫く。
「おお!!」
驚愕に身動き一つできぬ人々の前で、ザムルたちは地面に倒れることもできぬまま蒸発した。
それを見届けて、ふらりとロザリンドの身体が揺らぐ。
「ロザリンド!!」
身体のいたるところから血を噴き出し、ロザリンドはシャノワの腕の中に頽れた。
「ロザリンド!しっかりして!ロザリンド!」
「離し…なさい…この姿を見れば…判る…でしょう?わたしは…魔人なの。あなたとは…違うのよ」
泣きながら治癒魔法をかけ続ける、シャノワの腕の中から逃れようともがくも、重傷の上魔人化して大魔法を使ったロザリンドのダメージは大きい。
肌は裂け、傷の深い部分では骨が見えている個所もある。
「シャノワどいて!こっちの方が効くかもしれない!」
割り込んだフェリシアがエルフの治療薬を振りかける。
魔人の本性を現したロザリンドには、通常の治癒魔法が効きにくいのだ。
「あんた……よくこんな身体で…」
「おい!なんでこんな女助けるんだ!魔人だぞ!こいつは!」
「うるさいわね!今わたくしたち、その魔人に助けられたんでしょうが!」
怒鳴るカノッサに、フェリシアが怒鳴り返す。
「魔人だからって、命の恩人見捨てるつもりなの!それがあんたの騎士道!?」
「いや…だが……その…魔人は敵…で…」
衝撃的なことが起こりすぎて混乱しまくっているらしいカノッサは、常識と現実の間で動揺している。
「フェリシア殿!ロザリンド殿は!」
「少しずつ治癒が効いてきてるけど、まだしばらくは動かせないわ。人間だったら、尻尾の直撃受けた時点で即死してたわよ」
「わたしは…いい…から…逃げて!早く!」
肩を押さえつつ駆けつけてきたエリアルドに、ロザリンドは必死で訴えた。
「ここにいたら…みんな、殺されるわ…なんで…この子は…わたしに任せるって…言った…のに…」
「ロザリンド殿?」
「動かないの!大丈夫よ!ザムルはもう……」
いない、と言おうとしたフェリシアを嘲笑うかのように。
少し離れた場所で空間が割れ、新たなザムルが姿を現した。