襲撃 1
とうとう人死にが…
残酷表現があります
襲撃があったのは、その翌日――昼前のことだった。
シャノワと戯れながら歩いていたフェリシアが、不意に鼻にしわを寄せ、足を止めた。
「……なにか、匂わない?」
「フェリシア様?」
隣を歩いていたシャノワは判らないようで首をかしげるのみだったが、エルフの従者たちは同じように顔をしかめた。
「確かに……」
「なにやら、生臭いですね……何の匂いでしょう」
「生臭い……?」
回りを見渡して匂いをかぎ、、ロザリンドは顔色を変えた。
「これは……血の匂い?」
同時に、後方でカイドウとトクサが蒼白になった。
「ち……ちがう……これは……」
「血だけじゃない……これは……ヤツだ……ヤツが来る!」
「カイドウ殿……?」
どうした、とカノッサが声をかけようとした瞬間。
ロザリンドの真後ろ、カノッサとエリアルドの目前にぼたぼたと何かが落ちてきた。
「!!」
「こ……これは……!」
咄嗟に飛び退り距離を取ったエリアルドの足元に、ごろごろと転がってぶつかった、それ。
それは……昨夜先触れとして先行した、ヨハンの首だった。
「ヨハン!!!」
「う…うわあああああ!」
仲間の無残な姿に思わず悲鳴を上げるカノッサと、エリアルドの前の空間に亀裂が走る。
「抜剣!!ブルム殿は姫様方を!!」
恐慌に陥りそうな自分を必死に叱咤し、号令をかけながら、エリアルドはカノッサを連れ、間合いを取る。
亀裂は広がり、そこからゆらりと―――ー巨大で凶悪な魔物が姿を現した。
「ザ……ザム……ル…」
「そんな……馬鹿な……なぜこんなところに………」
ザムルはくちゃくちゃと何かを咀嚼しながら一同を見回す。
「そんな………」
その口からはみ出したもの。
それは、まごうことなきエンデミオン軍の手甲をつけた人間の腕だった。
「うわああああああああ!!!」
「よせ!カノッサ!!」
激情のまま、カノッサが斬りかかる。
闇雲に突進しようとしたカノッサに、現れた2体目のザムルが襲い掛かった。
「カノッサ!!」
誰もが駄目だ、と思った瞬間、風の刃がザムルの目を切り裂いた。
たまらずザムルが身を起こして咆哮し、その隙に鉄馬に乗ったザウトがカノッサを抱き上げ、離れたところに着地する。
「この馬鹿野郎!死にてえのか!!」
「やつら、ヨハンを!!!ヨハンを!畜生!ヨハンを!」
ザウトに怒鳴りつけられても、完全に頭に血が上ったカノッサは止まらない。
泣き叫び、剣も持たずに、素手でもザムルに一矢報いようと暴れる。
「落ち着かんか!馬鹿者!!」
そんなカノッサを鎮めたのは団長であるエリアルドの鉄拳と叱責だった。
「だ……団長……」
「無策につっこんでどうする!!ここでお前まで犬死して、殿下になんと申し開きするつもりだ!」
「だって……ヨハン…ヨハンが…畜生…ちくしょおッ!!」
「泣くのは後だ!仇を討つぞ!」
「……はっ!」
血が滴るほどに拳を握り込んでの叱咤に、カノッサも血と涙を拭って顔を上げた。




