魂の選別 2
「黒髪あんちゃんが赤毛大好きなのは判ったから、そーゆーのは帰ってからにしてちょうだい!じゃあ次、おでぶちゃん!」
「酷いなあ、もう」
文句を言いながらもステファーノはちょっとワクワクして泉を覗きこむ。
今度は、水面もそのままのステファーノの姿を映し出した。
「なるほどねえ……じゃあ、次はあんたよ!勇者!」
「オレ?」
自分で自分を指さし、颯太は泉の傍に跪いた。
「へっ?」
竜の剣を気にしながら泉を覗いた颯太は、水面に映る自分の姿に絶句した。
そこに映っていたのは、年の頃15、6歳の少年の姿。今よりも少しだけ大人びて、凛々しくなった颯太の姿だった。
「えっ?なにこれ、なに?」
「それが、本来のアンタの姿よ。勇者としての、アンタの姿」
颯太の肩にふわりと舞い降りて、キッチェは言う。
「アンタの心が成長したから。覚醒して、勇者としての自覚ができたから、それに合わせて身体も成長するの。大丈夫、今すぐじゃないわ。でも…そうね、近いうちにこうなるわね」
「これが………オレの本当の……」
キッチェの言葉にまじまじと水面を見つめて。それから、颯太は喜色満面で依那を振り返った。
「姉ちゃん!オレ、結構イケメンになってる!!!」
「そこか!!!!」
思わず依那は突っ込んだ。
「……でも、大丈夫なの?キッチェ……いきなりそんなに成長するなんて……」
確かに幼い身体のままよりは戦いに適しているのかもしれないが、まるで、生き急いでいるようで、依那は不安を隠せない。
「大丈夫、心配ないわ。創生神が勇者と聖女に害のある事するわけないもの」
「ならいいんだけど……」
そう言って、ふと依那はレティが成長した颯太の姿を見て頬を染めているのに気付いた。
……よしよし、弟よ。成長したお前の姿はレティの好みらしいぞ!
ちょっとにまにましたところで、キッチェに蹴っ飛ばされる。
「はい、次!聖女、アンタの番よ!」
「ったいなー、もう……」
文句を言いながら泉を覗きこもうとして。
「……がんばって……」
聞こえるか聞こえないかの声で囁かれる。
「……え……」
訊き返そうとしながら依那の視線は泉に映る自分の姿を捕らえる。
いつもの自分―――の姿に、ふわり……と知らない誰かの姿が重なった。
え?と思う間もなく、泉から伸びた手が依那の頬に触れ………次の瞬間、依那は泉に引き込まれた。
「姉ちゃん!」
「エナ姉さま!!」
「騒がないで!大丈夫よ!!」
そんな声が彼方に聞こえて。
抗うこともできぬまま、依那の身体と意識は泉の底に沈んだ。