融合
「オルグ!!しっかりしろ!オルグ!」
上半身を半分切断されて倒れ伏すオルグを抱き起し、アルは必死に血を止めようと傷を押さえた。
だが、そんな努力もむなしく、その指の間からオルグの命は零れ落ちていく。
転がるように駆け寄ったステファーノがありったけの治療薬を振りかける。
「……無駄……です……」
「オルグ!治癒魔法をかけろ!早く!!!」
囁くオルグの手を握り締め、必死で叫ぶが、もはや手遅れなのは誰の目にも明らかだった。
「オルグ兄!死なないで!!」
「…あ…たが……無事…で……よか…」
最期の力を振り絞り、取り縋る颯太に微笑みかけて、オルグはほとんど力の入らない指先でアルの手を握り返した。
「駄目だ………駄目だ!諦めるな!オルグ!俺を見ろ!オルグ!!」
「先に……逝き………あとの…とは……任せ………」
最期まで優しい穏やかな眼差しが、大切な従兄弟を映す。
「…泣か…な…で………レテ…を……たの……」
「オルグ!!!」
その言葉を残し、アルを見つめるオルグの目からゆっくりと光が失せ―――消えた。
「やだぁぁぁぁぁぁ!!!!オルグ兄!」
「姫様!!」
号泣する颯太の後ろで、声もなくレティが意識を失う。
「こん……な……こんな…のって………」
がくりと全身の力が抜けて、依那もその場に座り込んだ。
「……嘘……でしょ……?嘘だよね……?オルグさん……嘘だよね!?」
だって、さっきまで笑ってた。
元気に歩いてた。アルと話して、ため息ついて、いつもみたいに、優しく微笑んで……!!
「こんな…」
「キッチェさん!!なんとかしてください!!」
『穢れ』を祓い、ふらふらと戻ってきたキッチェに、泣きながらステファーノが絶叫した。
「殿下は…オルグ殿下は、こんなところで死んでいい方じゃないんだ!ぼくが代わりますから!だから、殿下を!!」
「……無理だよ……」
だが、キッチェは力なく首を振った。
「息があれば…まだ何とかなったけど……失った命は、どうしようもない。精霊だって、聖女だって、時は戻せないんだ……」
「…そんな…」
気を失ったレティを抱きしめて、ステファーノは泣き崩れる。
…………だが。
「……………まだ、だ」
血塗れのオルグを抱きしめて、その髪に顔を埋め、アルはぽつりと呟いた。
「……まだ、手はある。……諦めて、たまるか……!!」
ぶわり、とアルの気が異様な高まりをみせた。
「……え………」
アルからとてつもない神気が溢れだし、物理的な風となってあたりに渦巻く。
泣きながら顔を上げた依那は、アルの姿を見て言葉を失った。
オルグを抱きしめるアル。
そのアルの姿に、もう一人――――誰かの姿が重なって見えた。
「!まさか…あんた!駄目だよ!!」
血相を変えて止めに入ったキッチェが吹っ飛ばされる。
《 ……良いのか…… 》
「……ああ。構わん。こいつが助かるなら、俺はどうなってもいい。永遠の地獄だろうが、時の果てだろうが、何処へでも行ってやる」
誰かの声に、アルはきっぱりと断言する。
「!!駄目!アル!!」
何が駄目なのかもわからないまま駆け寄る依那の目の前で、アルに重なって見えた誰か、はアルの中に溶け込んだように見えた。
同時に爆発的な光があたりを包む。
あまりの眩しさに目を開けることもできず身を竦ませる依那を、気を失ったレティとステファーノを、颯太を、そしてルルナスの森を飲み込み、光はその光量を増していく。
何が起こったのかもわからぬまま、依那は意識を失った。




