表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
141/838

魔人の襲撃 2

ちょっと痛い表現があります


 

 霧をついて現れた魔物は、しばしあたりの様子を窺っているようだった。


 「テ……」

 やがて、そいつはゆっくりと動き出した。

 二本の後足で立ち上がり、高く頭を上げて咆哮をする。その魔物は――依那たちの世界では()()とよばれている、それにそっくりだった。


 「ティラノ―!?」

 咄嗟に転がるようにしてティラノの足の間を抜けた依那の真後ろで、ガチッ!と音を立ててその巨大な(あぎと)が噛み合わさる。

 一瞬でも遅れたら、間違いなく依那の身体は噛み千切られていただろう。


 「姉ちゃん!」

 「だだだだ大丈夫!!」

 どうにか体制を整え、剣を向ける依那を、ゆっくりと魔物が振り返る。完全に、依那を獲物(エサ)として認識している動きだ。


 「エナ姉さま!ザムルです!逃げてください!」

 結界の中から、レティが必死で叫ぶ。

 「姫様!駄目です!」

 ステファーノが叫んでいるのは、レティが結界を飛び出して依那の許へ向かおうとしているからだろう。


 「ザムル……」

 これが、ザムル。オーガの里を襲った、魔物か。

 確かに()()に群れで襲われたら、軍隊でもない限り、ひとたまりもなかっただろう。

 しかし、こいつが()()()()()()ということは。


 「やはり……オーガの里を襲わせたのは貴様か!」

 アルも思い至ったのだろう、剣戟の合間にファティアスを詰問する。

 その声を聞きながら、依那は必死で心を落ち着け、目の前の敵に集中した。


 「エナさん!ザムルの急所は、頭の角です!角を斬れば、ザムルは消滅します!」

 「つの……」

 ステファーノの言葉に、依那はティラノ――ザムルを見上げた。

 ティラノサウルスって角あったっけ?と思うが、ステファーノがあるというからには、ティラノにはなくてもザムルにはあるんだろう。

 どっちにしろ、この近さでは頭の上は見えないが。


 次の瞬間、ザムルは咆哮を上げて依那に襲い掛かってきた。

 「姉ちゃん!」

 「いいから!あんたはそっちに集中しなさい!」

 噛みつきに来た顎を飛び退って避ける。

 思ったよりスピードはない……と思ったところに、尻尾の一撃が来た。

 必死で避けたものの、撓る先端に思い切り横っ腹を殴られて、依那は吹っ飛ばされた。


 「かっ……は……」

 あまりの衝撃に目の前が暗くなって、火花が散る。


 「姉さま!!」

 「エナ!!」


 胃の中身が一気に逆流して、依那は血と一緒に嘔吐した。

 肋骨が何本か()()()()のが自分でもわかる。

 先端でこれなのだ。尻尾の直撃を喰らったら、即死は免れないだろう。

 ただ、遠くへ吹っ飛ばされたのが幸いして、ザムルの攻撃範囲からは外れたらしく、すぐさまの追撃は来ない。


 歯を食いしばり、気力を振り絞って治癒魔法をかけながら、依那は立ち上がった。

 「姉ちゃん!!」

 「自分限定でも……魔法使えて…よかったぁ…」


 一瞬で怪我が治癒し、痛みが遠のく。

 ついでに身体強化と痛み軽減を最高量でかけて、依那は落とした剣を拾った。


 ファティアスとアルは互角に戦っていて、キッチェがなんとか『穢れ』を抑え込もうとしているのを目の隅で確認する。

 ファティアスの相手をアルに任せたらしい颯太とオルグが、二方向からザムルに攻撃を繰り返し、手傷を負わせているが、あの巨大さと強靭さでは時間がかかる。

 もう一体召喚されたらおしまいだ。

 そして、これだけ離れるとザムルの頭にぴょこっと突っ立つ角が見えた。


 「……あ、もしかして……」

 ふと思いついて、慌てて依那はヨハンたちに持たされた四次元袋を漁る。

 果たして、目当ての()()は、そこにあった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ