魔人の襲撃 1
「クソっ!試練が始まったか!」
咄嗟にステファーノを背に庇ってアルが身構える。
「レティ!離れないで!」
「はいっ!」
依那と颯太もレティを庇い、剣を抜き放つ。
「ちっ…違う!試練じゃない!!」
「なにっ!?」
悲鳴のようなキッチェの声に、思わず気がそれた瞬間を狙ったように、黒い影がアルに襲い掛かった。
「くっ!」
重い剣の一撃を両手で剣を握って凌ぎ、素早く蹴りを入れる。相手も想定していたのか、身軽に空中で一回転してそれを避けた。
そのまま、少し離れた岩の上に着地する。
「……貴様……何者だ?」
アルの低い声に、襲撃者は小さく含み笑いを漏らした。
黒い服、黒いマント。黒い覆面で顔を隠し、見えているのは瞳だけ。
そして、その空洞のように黒く見えていた瞳が、ギラリと赤く光った。
「!気をつけて!魔人です!」
オルグが叫ぶと同時に、襲撃者はレティに向かって跳躍した。
「レティ!!」
咄嗟にレティを庇った依那の指輪が赤く輝き、二人を中心に半径1メートルほどの結界が発生する。
襲撃者の伸ばした手はその結界に弾かれて火花が散った。
「!王家の指輪か!!」
「まさか!」
苦々し気なその声に、アルは蒼白になった。
「貴様……貴様は……」
アルの様子に、襲撃者は低い嗤い声を立てると、大剣を翳した。
……蝙蝠の彫刻のある剣を。
「ファティアス!」
「覚えていたか、アルトゥール」
くっくっと笑いながら、ファティアスは覆面をはぎ取った。露わになるのは、苔色の髪と、赤い瞳、そして顔に斜めに走る深い傷。
その姿は、カイドウに聞いた、オーガの里の傍に住み着いた男の特徴と一致している。
「貴様…生きて……」
「あたりまえだろう?貴様の父の剣などで、私が倒されたとでも思ったか?相変わらずおめでたい頭だ」
怒りに震えるアルを嘲笑いながら、ファティアスは依那に向かって一歩踏み出した。
「なるほど。君が聖女殿。そして……この餓鬼の想い人、というわけか」
もう一歩踏み出すと同時にびきり、とファティアスの肩が盛り上がり、その両腕がめきめきと音を立てて変貌していく。
次の瞬間、その身体から沸き上がったのは。
「だめえええええっ!!」
悲痛な声を上げて、キッチェが飛び込んだ。ファティアスから湧き上がった『穢れ』に向かって。
「キッチェ!」
「『穢れ』はあたしがなんとかするから!!」
「そうだ、精霊は『穢れ』と遊んでいるといい。私がこいつらを始末するまで」
なんとかキッチェの加勢に向かおうとする依那だったが、聖女の力すら奪われているのか、『穢れ』を浄化する結界を張ることができない。
『穢れ』をその場に残し、また一歩踏み出すファティアスに、アルと颯太が斬りかかった。
「……ほう」
重く早いアルの斬撃に、驚いたようにファティアスの動きが止まる。
「これは驚いた。少しは腕を上げたようだな」
「貴様と違って、人間は成長するんでな!」
「ステファーノ!レティ!こちらへ!」
その隙をついて魔法具で結界を張ったオルグが二人を呼ぶ。
「オルグさん、レティをお願い!
レティを託して加勢に向かおうとした依那だったが。
「!!!」
アルと戦うファティアス、そして颯太との間の空間がゆがみ、そこから一匹の巨大な魔物が出現した。




