選別の儀式 2
「選別を受けられる皆様は、前へ」
村長の声に、颯太、依那、レティ、オルグ、アル、ステファーノが前に出る。
「では、勇者様から。ここから小道を通り、あの扉を潜ってください。資格を得られば、ルルナスの森の入り口に出ます。霧が漂っておりますので、すぐにお判りになりますでしょう。……万が一、時期尚早とされた場合は、岩壁の前に出ます。その場合はもう一度扉を開けてお戻りください」
「は……はいっ!」
村長の説明を聞いて、颯太は剣帯を握り締めた。
「ソータ、森の入り口に出たらそこで待ってろよ!ちょろちょろすんじゃねえぞ!」
「判ってるよ!もう!」
うしろからアルが激励(野次?)を飛ばす。
目を閉じ、呼吸を整えて、颯太は顔を上げた。
「一番!沢井颯太、行きます!」
片手を挙げて宣誓し、小道へと一歩踏み出す。
左右の石柱の間に一歩踏み入れた途端、空気が変わった。
ひんやりとした空気が身を包み、急に呼吸が楽になる。
真っすぐに扉へ向かい、颯太は祠を見上げた。
石を組み立てただけに見えた祠は、近くでみるとちゃんと石組みのアーチが設えてあって、ところどころ苔むしたアーチの中に木製のがっしりした扉が嵌っていた。鉄の帯みたいなのがついてて、錬鉄のハンドルがついている。
深呼吸してハンドルに手をかけ――ふと見上げると、扉の右上の石のアーチのところに、白い花が咲いていた。
「………!」
思い切って颯太はドアを押し開けた。
一瞬、ふわりとした浮遊感があり――次の瞬間、颯太は霧ぶかい森の入り口に立っていた。
「…とお……った……?」
呆然とあたりを見渡して。
「やった!通った!姉ちゃん!」
大喜びで振り返った颯太は、わが目を疑った。
―――扉が、ない。
今通って来たばかりの扉も祠も、跡形もなくなっていた。
「え?え?なに?…なんで?…姉ちゃん!アル兄!?レティ!」
焦ってきょろきょろ周りを見渡すも、誰一人いない。霧ぶかい森の中に独りぼっち…………!
「姉ちゃ……!」
「っさいわ!」
半べそをかきながら大声で叫んだところで、後ろからスパーン!と良い音を立てて後頭部をしばかれた。
「!?」
「べそかいてんじゃないわよ!どっか行くなってアルにも言われたでしょ?」
「…ねえ…ちゃん……」
腰に手を当てて仁王立ちの依那に叱られて、それでも颯太は依那に抱き着いた。
「うわぁぁぁん、良かったぁ~!またオレだけどっか飛ばされたのかと思ったぁ~!」
しがみつかれて、ため息をつきながら頭を撫でてやる。
まぁ、気持ちは判らんでもない。
こっちへ召喚されたときの心細さを思い出したのだろう。
依那だって、颯太があの扉から出てこなかったとき、ぞっとしたのだ。……姉の沽券にかかわるから絶対言わないが。
「ああほら……べそかかないの!すぐにレティが来るんだから!笑われるぞ!」
そう言って、袖でぐしぐし顔を拭いてやっていると。
「…どうにか…通り抜けましたわ…」
「レティ!」
ふわりと霧を抜け、レティが顔を出した。
「エナ姉さま、ソータ様!」
「レティ、大丈夫だった?」
途端にシャキン!と頑張る弟が可愛いやら面白いやら。
「すごい!これが選別ですか!!どういう仕組みになってるのかなぁ!」
「わかったわかった、少し落ち着け」
しばらく間をおいて、興奮しまくるステファーノと呆れたようなアルが出てくる。
「どうやら、みな無事に通過したようですね」
最後に、オルグがホッとしたような顔で姿を現した。
「全員揃ってますね」
「はい!」
ソータが代表していい子のお返事をする。
「……たしかに、霧がかかってるね……」
「暗くないのは救いですが……エドラム」
あたりを見渡して、オルグは光魔法を使ってみたが、案の定何も起こらなかった。
「これ、どっち行けばいいのかな?」
「まずは、ずっと北へ。途中から案内人が現れると聞いておりますわ」
「案内人?」
首をかしげる依那に、レティは申し訳なさそうに目を伏せた。
「すみません…あまり詳細は伝わっていないのです。ただ、選別の扉を抜けたら北に向かい、霧の中で案内人に会うべし、と」
「まぁ…北に行けっていうなら、北に向かってりゃいずれ会うだろ」
「そうですね」
アルの大雑把な意見にオルグが苦笑し。
「オラ行くぞ!ステファーノ!」
「はぁい…」
まだ選別の仕組みに未練がありそうなステファーノを引っ張って、一行は北に向かい歩き出した。




