『穢れ』の後に
一方、レティに連行された依那は大聖女の礼拝堂で「清めの儀式」を執り行われていた。
とはいっても『穢れ』の影響がないか確認するような簡略的なものだったが、あのおとなしいレティがどうしてもと言って聞かなかったのだ。
「…『穢れ』の影響はないようですね…」
ほっとレティは胸を撫で下ろす。
「大丈夫だって言ってるのに~」
「ダメです!エナ様に万が一のことがあったらどうするのです!」
キッと言い返されるが、美少女は怒ってても美少女だわ~、などとオヤジくさい感想を抱きつつ、依那は話を逸らす。
「ところで、あの村の人ってどうなるの?」
「土地の穢れを祓わねばなりませんから、それまで村には戻れません。今日のところは王都の外れの草原に野営地を作ってそこに収容するそうです。…王都の小聖女のほとんどが、浄化と祝福のためコルヴェントに派遣されておりますので、なにぶん人手が足らず…」
―――コルヴェント。
広範囲で『穢れ』が発生したっていう東の地方か。
「そっか……じゃあとりあえず炊き出しだな」
「……たき……だし……?」
キョトンとするレティをそっちのけで、依那は聖法官を呼び止める。
「そ。炊き出し。あんな怖い思いしたんだもの、ごはんくらい暖かいもの食べてもらわなきゃ」
「で…でも、エナ様!」
当然のように言う依那に、レティと聖法官は困ったように顔を見合わせた。
「…実は、先ほどレティシア様がラウレス枢機卿に生き残った村人を聖教会で保護するよう進言なさったのですが…」
「……王都の公務局が貧民院に連絡するから、必要ないと……」
「先刻レティシア様が現地に向かわれたのにもご立腹で…ソータ様のお口添えがなければそれも叶わなかったかと…」
「…あんの~ハゲ親父ぃ!」
地を這うような依那の声に、レティは驚いて伏せていた顔を上げた。
「なんでもかんでも不要、不要って……困った人を救済してこその教会でしょ!?っざっけんじゃないわよ!それにレティ!」
ずい、と人差し指を突き付ける。
「レティもレティよ!なんであんなハゲ親父の言うことにいちいち従うの!正しいならまだしも、絶対おかしいでしょ!こんなの!」
「エ……エナ様…」
「……いい?人の言うことをきくのも大事だけど、大切なことはちゃんと自己主張しなさい。自分が正しいと思うことを自分が信じてあげなくてどうするの!レティはお飾りのお姫様じゃなくて、聖教会を代表する小聖女なんだから!」
「……わたくしが……」
呆然と見開いた菫色の瞳から、ぽろり、と涙が零れる。
「わたくしが…わたくしが意見を言って…よろしいのでしょうか…皆の負担にはならないでしょうか…」
「大丈夫。無茶言ったときは私が止めるから」
自信持ちなさい。颯太を命懸けで召喚した聖女様でしょう?あなたは。
ほろほろと涙を零し続けるレティの頭を撫でてやる。
ややあって、レティはロ―ブの袖で涙をぬぐうと、傍に立つ聖法官に向き直った。
「野営地に教会から人員を派遣して、寝床と食事の用意を。簡易の礼拝所と救護室もお願いします。万一『穢れ』に触れた方はすぐに治療できるように」
「!かしこまりました!」
涙声の、それでもしっかりとした指示に、ぱっと顔を輝かせて法務官が走っていく。
その背を見送って、はにかんだように笑うレティを見て、依那は今までで一番可愛いと思ったのだった。
そのあと。
宣言通り依那とレティは野営地での炊き出しに参加した。
『穢れ』を間近で見て、身近な人を亡くして恐怖と不安に震えていた村人も、お姫様と聖女様(一応)手ずからの炊き出しに驚くやら感激するやら。
泣いて平伏する村人まで続出して騒動にはなったものの、最終的には笑い声も上がり、初めての炊き出しは成功のうちに終わったのだった。




