武骨な男
団長に―!団長にフラグが立ちましたー!!
「ロザリンド殿!」
一方、ロザリンドを追って森へ入ったエリアルドは、すぐに彼女に追いついた。
「……どうしたのですか、ロザリンド殿…」
立ち尽くした彼女は俯いたまま、エリアルドの言葉にも顔を上げようとしない。
「……もしや、母上のことは禁句でしたか?」
可能な限り優しく声をかけてもぴくりとも反応を返さないロザリンドに、鉄面皮の下でエリアルドは途方に暮れた。
そもそも、武門の家に生まれ、堅物を絵に描いたようなエリアルドに、女性を慰めるスキルなどない。それなのに、何故彼女を追ってきてしまったのか。
何と声をかけて良いものか、いや、まず声をかけてもいいものなのか判らずに、エリアルドは、立ち尽くすロザリンドの隣で一緒になって立ち尽くした。
はたから見たら、まさに「何やってんの?あんたら」という構図だが、エリアルドに自覚はない。
かなりの時間が経って、とうとう先に動いたのは、ロザリンドの方だった。
「………エリアルド…様……?」
「なんでしょうか」
「あの………わたくしが言うのも何ですが…こういう時は、なにかしら慰めの言葉をかけるものではありませんの……?」
「いや、声をおかけしてよろしいものか、悩んでおりました」
クソ真面目な返答に、思わずロザリンドは苦笑した。
「…本当に……武骨でいらっしゃいますのね」
「はっ!人選を誤ったと自覚しております!」
「まあ!」
今度こそロザリンドは噴き出した。
「……ああもう……本当に、正直な方ですのね。エリアルド様は」
ひとしきり笑って、ロザリンドはため息をついた。
「……あなたのような殿方は初めてで……本当にもう、どうしていいのやら……」
「はい?」
囁くような独り言を拾いかねて聞き返すエリアルドに、なんでもない、と首を振り、ロザリンドは梢を見上げる。
「……わたくしの母は……殺されましたの。あるお家騒動に巻き込まれて……」
樹々に隠れて見えない星を探すかのように、じっと。
「…まだ幼かったわたくしは……商家に拾われて……いろいろありましたが、腕を買われてカナン軍に入ったのですわ。……良くある話です」
振り返って微笑むロザリンドの手を、エリアルドは衝動的に握った。
「良くある話ではない」
「……え?」
「あなたの人生の話ではないか。良くある話などではありません。いろいろお辛い思いをされたのでしょうが、あなたは今、立派に武人としてここに立っておられる。……尊敬します。ロザリンド殿」
「…エリ…アルド……さま……」
飾り気などない、ひどく真摯でまっすぐな言葉は、まっすぐにロザリンドの胸に届く。
………だが。
「……ありがとうございます。エリアルド様」
にっこり微笑んで、ロザリンドは野営地の方へ歩き出した。
「…早く戻りましょう。姫様にお詫びをしませんと。きっと気に病んでいらっしゃるわ」
「……あ……」
その背を呼び止めて、なにを言いたかったのか……。
自分でもわからぬまま、エリアルドはロザリンドの後を追った。
初めての感情に戸惑いながら。