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始まりの場所 1


 それから一時間ほどで到着した『星の御殿』は、その名の通りの場所だった。


 「うわぁ……本当に星空みたい……」

 「これは……見事ですな!」

 「星祭りの時の夜空を思い出します」

 思わずぽかんと口をあいて見とれる颯太が言う通り、高い天井にちりばめられた細かな鉱石が地上の光を反射してキラキラと輝くさまは、良く晴れ渡った夜空そのものだった。

 右側の手前に岩が積み上がっていたが、少し高台になった地面はおおむね平らで、左右の奥へ向かって少しなだらかな傾斜を形作っている。

 左奥には、さっきトクサが言っていたでっかい川が流れているらしく、ごうごうと水の流れる音がしていた。


 「ここに野営を張る!各自持ち場につけ!」

 バクスターが部下たちに指示を出し、高台の上にテントを張り始める。


 だが、依那たちはその一団から離れ、奥へ……地底湖の方へと歩を進めていた。

 地底湖の傍まで来ると高台は途切れていて、そこからは急な下り坂が地底湖のほとりの小さな広場のような場所へと続いている。


 「……ここから先は、誰も入れるな」

 付き従ってきたエリアルドにそう命じ、アルは先に立って坂を下りていく。

 「……大丈夫?ステファーノ…」

 アルに続くオルグの後ろから坂を下りる依那の隣では、顔色の悪いステファーノをフェリシアが気遣っている。

 「姫様、では……」

 「ええ、お願い」

 エルフの従者二人は下に降りず高台に残るようだ。


 「シャノワさん、足元気を付けて。レティも大丈夫?」

 依那の後ろでは颯太が姫二人に手を貸している。

 殿(しんがり)のブルムがあたりを見渡し、ほかの人間がついてきていないことを確認して高台の上のエルフに頷いた。

 



 そこは、ひどく静かな空間だった。

 地底湖は思ったよりも小さく、水底が光を発しているのか、薄青く光っている。

 水辺へと続く、緩やかな傾斜を描く地面はあまり広くないのに、天井は『星の御殿』よりも高いくらいで、ただしこちらには『星の御殿』のような輝く鉱石はない。

 ただ、青い星のような水晶がぽつんとひとつ、薄青く光る地底湖の天井に光っていた。


 不思議なことに、すぐ近くのはずなのに、高台の上では聞こえていた水の音がここでは一切聞こえない。

 そして何より、この空間を満たすのは、恐ろしいほどの神気だった。

 

 「……これは……こんな……こんなことが……」

 「ステファーノさん?」

 震えながら青い水晶を、光る水面を見渡して、ステファーノはくたくたとその場に膝をついた。


 「まさか…こんな……()()()()()()なんて……」

 畏怖と感動に震えるステファーノは、依那の言葉に応える余裕もない。

 代わりにフェリシアが口を開いた。


 「………(いわ)の道を巡り、星の道しるべに導かれ、断絶の河を越えて聖なる泉に辿り着くべし………古い伝承の一節よ」

 「失われた伝説の一つだ。かつて、この世界の叡智のすべてを創生神から授かった、大賢者エノクが、()()()()()()()()()。始まりの場所。………それが、()()だ」


 「……え……?」

 アルの言葉に、オルグも依那も颯太も、弾かれたように彼の顔を見た。


 「なんで…そんな話をご存じなのですか?兄様……」

 レティの震える声に、アルは小さく笑った。

 「人の世にはほとんど伝わっていない話だが……俺はハンにいたからな。ドラゴニュートやエルフ、ドワーフたちには伝承として残っていた話だ。……オーガには残っていなかったようだが」


 「……ただの……伝説だと…思われていたんです。…そんな場所は存在しないと……大賢者エノクは伝説上の存在だと…」

 涙にぬれた瞳で、ステファーノは水晶を見上げた。

 「……でも、あった。()()()()。……だったら、エノクも実在の人物だったのかもしれない。彼と創生神の友情も、存在したのかもしれない……」


 「……始まりの場所……」

 アルとステファーノの言葉に、オルグは唇に指先を当てた。

 「なるほど……呼ばれた、というのは()()()()()()ですか……」

 「……え?」

 顔を上げた颯太に、オルグは続けた。


 「さっき、アルが言ったでしょう?()()()()()()()()()()()、と。私たちは地図にも載っていない、失われた巌の道を通ってこの洞窟まで来ました。……あそこで、右の道に意見が傾きかけたのに、我々は左の道を選んだ。ソータ殿、エナ殿の直感があったからです。…もしかしたら、我々はここへ()()()()のかもしれません」


 「……そっか……」


 確かに、いくつもの偶然が折り重なった結果だ。

 エルフたちが来なければ、いや、来たとしても依那がフェリシアを叱り飛ばしておとなしくさせなければ、あのタイミングで砦に着くことはなかった。

 予定通り、1日早く砦を出ていたら、オーガを助けることも、この巌の道を通ることもなかった。

 この道を通ったとしても、こっちに行きたいとあの時口にしなければ、ここへはたどり着けなかった。


 一つでも選択肢を間違えたら、あり得なかった結果だ。


 ……でも……


 「もし、何かに導かれたとして……なんのために?オレたち、()()()()()()()()()()()?」


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