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スフィカ 4


 「あ、アル兄!」

 乱戦のまま硬直している群像の中にアルの姿を認め、颯太は駆け寄った。


 「…えーと……」

 ちょうどスフィカの攻撃を身をひねって避けた瞬間だったのだろう。アルは不自然に身をよじった体制のまま硬直している。

 ほっといたら筋肉攣りそう。


 「……これ、どうやったら解けるんだろ…」

 悩みながら、アルの腕に触れる。と、淡い光がアルを包み、彼の金縛りは解除された。


 「……と。どうなってんだ?こりゃあ!?」

 たたらを踏んで体制を整え、アルは呆れたようにあたりを見渡した。

 「あ、戻った」

 「え、触ればいいの?」

 依那は一番近くにいたオーガの長に触れてみるが、何も起こらない。どうやら術者である颯太が触れることで解除できるようだ。


 「とりあえず、刺されそうになってる人は退避させよう」

 ざっとオーガの村を見て回る。スフィカに連れ去られそうになっていた子供も、アルが飛行魔法で救出した。


 「…あれは!」

 「アル?」

 そんななか、何かを探すようにあたりを見渡していたアルは、一軒のひときわ大きな小屋の前で足を止めると、開いたままの戸口から中へ駆け込んだ。

 「ちょっとアル兄!勝手に入っちゃ…」

 「ステファーノ!来てくれ!」


 アルを追って裏口と思しきその戸口の方へ向かうと。

 戸口のところに一人、中に入った土間のようなところに一人、黒いマントに身を包んだ男たちがいた。

 オーガではない。だが、砦の兵士でもない。


 「…戸口の外にも、もう一人いましたよね」

 どうやらその場所は台所のようで、水場とかまど、調理台の横には小瓶や小さい壺が並び、鍋がいくつか棚に並んでいる。日本の古民家なんかにありそうな光景だ。

 その土間で、物入のふたを開けている姿で固まっている男は、なにか白い包みを抱えていた。

 「じゃあ…この3人がスフィカに襲われてた人たち?」

 口許を布で覆った男の顔を覗きこみながら颯太は眉を寄せた。

 スフィカに追われて、ここへ逃げ込んだ……?いや、それにしては…


 「……ステファーノ。…()()()()()()?」

 物入れを開けた男の手から白い包みを奪い、アルは固い声でステファーノを呼んだ。


 「……これは……!!」

 その包みを見て、ステファーノは顔色を変えた。

 「これは……()()()()()()です!しかも、この色……間違いありません、()()()()()()です!!」

 「ええっ!」


 ステファーノの叫びに、依那と颯太も白い包みの中身を覗きこんだ。ラグビーボールくらいの大きさの、楕円形の卵。表面は乳白色で、うっすらオレンジ色のマーブル模様が入っている。

 「じゃあ……スフィカは、これを追って……?」

 「そうです。これで謎が解けました。彼らは盗まれた卵を追って来たんです。仲間想いのスフィカが、卵――それも次期女王になる卵を見捨てるはずがありません」


 「いや。それだけじゃない。こいつら、盗んだ卵を()()()()()()()()んだ。オーガの村をスフィカに襲わせるために」

 アルは忌々し気に男のマントと覆面をはぎ取り、硬直したままの男を土間につき転がした。

 マントの下は一目で騎士とわかる鎧姿で、何とか自由になろうとしているのか、金縛りになったままの身を震わせ、青ざめた顔には汗がびっしょり浮かんでいた。


 「……見ろ。()()()()()()だ」

 「えっ!」

 男の胸元、鎧の肩止めに輝く紋章。確かにそれは、カナンの旗に記されたのと同じ紋章だった。

 「なんで……カナン兵が……」

 「さあな。おおかた、住み着いたオーガをスフィカに始末させようと考えたんだろう。あるいは……あわよくば、俺たちもまとめて始末を狙ったのかもな」


 すらり、と抜いた剣を男の喉元に突きつけて。

 「……ソータ。こいつの金縛りを解いてくれ」

 「判った!」

 颯太は倒れたままの男に触れ、淡い光とともに男が自由の身になる。

 「貴様の名と、所属は。カナン兵なのはわかっている。誰の命令でこんなことをしでかした」

 低い声にこもった怒りに、びりびりとあたりの空気が震える。

 アルの身体から溢れる威圧に、男は転がったまま腰を抜かした。


 「わ……わたしは……ただ…ただ、邪魔になるオーガを…排除しろと……」

 ガタガタ震えながら、それでも男は必死で言い募る。

 「誓って……誓って、勇者や聖女に危害を加えるつもりは………ただ、勝手に住み着いたオーガなど、滅ぼしてしまえば……いいと…」

 「はぁっ!?いいわけないでしょ?何考えてんの!あんた!」

 「ひいっ!」

 イラっとして、依那は割って入った。


 「そうだよ!オーガだってカナンの国民なんでしょ!第一、やり方が卑怯だよ!スフィカ使うなんて!」

 「しかも、次期女王の卵を盗むなんて!!スフィカの団結力と仲間への忠誠心を利用するなんて、言語道断です!騎士の……いや、人の道に外れた行為です!女王スフィカが出てきたらどうする気だったんですか!」

 颯太と、ステファーノも後に続く。


 「いいですか、産卵直後の女王は身体はボロボロですが気が立ってます!それにこんな負担をかけて……女王が死んだらどう責任取るつもりですか!」

 「……いや、ステファーノ、それちょっと違うから…」

 一人だけ怒りの論点がズレてるステファーノの肩を叩き、アルはひとまず剣を収めた。

 「…まぁいい。名も所属も明かす気がないなら、貴様を砦に連行する。ロザリンド殿やシャノワ殿に見極めを願い、黒幕を吐かせてやる」

 男を立たせると、呪縛の魔法で腕の自由を奪い、アルは颯太に向き直った。


 「いったん、砦に戻ろう。オーガにも砦に来てもらう。どのみち、この惨状じゃここに住むのは難しいだろうからな。ソータ、みんなの金縛りを解いてもらえるか」

 「…う……うん。判った」

 「その前に、スフィカはどうしましょうか。卵を返すだけで、こちらに敵対の意志がないとわかってもらえるか……」


 『返シテ』


 大事に卵を抱えたステファーノがそう言ったとき。

 全員の頭に直接、聞いたことのない声が聞こえた。

 「…これは……まさか!」

 卵を抱えたまま、ステファーノは転がるように小屋から飛び出した。

 「ステファーノさん!」

 慌てて後を追った三人は、目の前に広がる光景に、息をのんだ。

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