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開き直った庶民は図太いのです

 翌朝は見事な快晴だった。


 「うっわ~~!お城だあ~!」

 私室から中庭を望む回廊へ出て、改めて見る壮麗な城に依那と颯太は歓声をあげた。

 昨日はそんな余裕がなかったが、一晩経って腹をくくった姉弟は図太かった。案内されるままあちこちを見て歩き、素直に感嘆の声を上げる。

 「噴水でっか!!学校のプ―ルより広い!」

 「廊下だけでも教室より広いよね~」

 「お城の外は湖だって!湖上の城なんだって!」

 さすが王宮!と感心する二人に、レティシアは笑いを隠せない。

 「ですがエナ様、本当にお召し物はそれでよろしいのですか?ドレスもお似合いでしたのに」

 ふくらはぎ丈のワンピ―スの裾を翻す依那に、レティシア……レティは首をかしげる。


 実は二人への対応をめぐって朝イチでひと悶着あったのだ。


 なにしろ名実ともに庶民の二人。

 国賓扱いで、つきっきりでお世話される環境に馴染めるはずもない。侍女が様子を伺いに来る前からささっと起きてベッドを整え(颯太も自宅ベッドのような惨状は依那が許さなかった)着替えの手伝いもドレスも固辞し、動きやすいワンピ―スで妥協したのだった。

 レティシアからの呼び方も、拝み倒して「聖女様」はご勘弁願っていた。


 「むしろ、これでも長いくらい。パンツか、もっと短い方が動きやすいんだけど」

 普段からスカ―トなどめったに穿かない依那がこのくらい、と膝上までスカ―トの裾を持ち上げたとき。


 「ばっ……お前!女が人前に膝をさらすな!」

 「あ」


 たまたま通りがかったらしいアルトゥ―ルに怒られてしまった。

 「……だって動きにくいんだもん……」

 「だって、じゃない!」

 「おはようございます。お二人とも、よく眠れましたか?」

 言い合う二人を無視してオルグレイは颯太に話しかける。

 「おはようございます。オルグレイさんもアルツ―ルさんも早いですね」

 「どうか私のことはオルグ、と。…アルトゥ―ルのこともアルとお呼びください」

 「……助かります…」

 何気に「トゥ」の発音が難しくてちゃんと名前を呼べてなかった姉弟はそっと視線を逸らす。

 「兄様、お二人に何か……」

 「ああ、ただご挨拶に伺っただけだよ」

 少し心配そうな顔をするレティに微笑んでそっと頭を撫でる。……と。


 「レティちゃん助けて!この赤毛うるさい!」

 「赤毛とはなんだ!赤毛とは!」

 口喧嘩で劣勢になった依那がレティに抱き着いて助けを求める。

 「まあ。エナ様もアル兄様もいつの間にか仲良くなられて!」

 「「仲良くない!」」

 「……ぶっ……」

 見事にハモった二人にオルグが噴き出す。

 

 聞いたところによると、オルグとレティは兄妹で現国王の子であり、アルは現国王の兄で、亡くなった前国王の息子らしい。つまりこの三人はいとこ同士だが、幼いころから兄弟同然に育っているという。

 ちなみに、召喚のとき依那がブチ切れて投げ飛ばしたのはアルだった。…そりゃ睨まれもするだろう。

 「髪の色だけ見たら、赤毛とレティちゃんが兄妹かと思った」

 「王様、青っぽい灰色だったよね、髪とおひげ。…お母さん何色だったんだろ」

 「……遺伝ど―なってんだろね」

 一通り王宮内を案内してもらい、依那の部屋で休憩しながら、依那は自分の髪をひと房つまんでため息をついた。

 「………コレ、帰った時には戻るかなぁ……」

 もともとは普通の日本人らしい黒だった依那の髪はいつの間にか少し赤みがかった金茶色に変化していた。

 「このまま帰ったら小田ッチに殺される……」

 「それ~~」

 暗めのアッシュブロンドに近い色に変化していた颯太も、鏡を覗いてため息をつく。依那と颯太の通う学校は中高一貫校だが、風紀の小田先生は厳しいので有名なのだ。

 界を渡るときに肉体が最適化されるとか聞いたが、髪の色なんかどう関係するのだろうか。

 「小田ッチ様というのは敵国の方でしょうか?」

 「……ああもう、レティちゃん可愛い!!」

 二人のバカ話を聞いて本気で心配するレティが可愛くて、依那は悶絶する。


 見た目が可愛いのに中身も可愛いなんて反則だ!


 「……午後はどうすればいいのかな?」

 「王宮魔導士がよろしければお二方にお会いしたいと申しておりますが…」

 依那に抱き着かれて真っ赤になりながらもレティは律儀に答える。

 「騎士団もお二方にお目通りを願っておりますし、聖教会もお話をしたいと。父もよろしければ晩餐をご一緒にしたいと申しております。晩餐会などではなくごく内輪のものですが」

 つまりは、予定は目白押しなわけだ。

 ため息をついて、依那はレティを離した。


 「じゃあ、片っ端から片付けちゃいましょう。……その前に、行きたいところがあるんだけど」

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