表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の姫君  作者: エル.L
2/2

第2話:執事と、ある執事。

BL要素を含みます。苦手、意味が分からない、という方は、お戻りする事をお勧めします。

 




 ふと、人の気配を感じて、私は目を覚ましました。





 「………サラ様………?」



 主が私を訪ねてきたのかと思い、すぐさま起き上がります。


 そして、スタンドの灯りを点けましたが…来訪者はどうやら、我が主ではなさそうです。



 「……………セバスチャン………」


 「あら、おはよ」



 ぼんやりと灯りの中に浮かび上がったのは、執事仲間のセバスチャン(男性です)の姿でした。



 「まだ夜ですが。というか、何をしているんですか、こんな時分に……」


 「野暮なこと訊くのね? わかってるクセに」



 そう言って、セバスチャンはニヤリと微笑みます。



 「……わかりません。というか、わかりたくありません」



 髪や頬に絡んでくるセバスチャンの指を払いのけて、私は彼を睨みつけました。



 「相変わらす冷たいわねー」



 今度は寂しそうに微笑んで、しかし、何を考えているのか、セバスチャンは私の寝台に上がってきます。



 「こらコラこらコラ」



 私は、そんなセバスチャンの肩をつかみ、寝台から突き落とそうと試みます。



 「なぁに?」



 セバスチャンは、顔色一つ変えずに、私の力に抗います。


 ニコニコと笑いながら、恐ろしい程の力で、あっという間に形勢逆転…。



 「それ私の台詞せりふです」



 組み敷かれ、覆いかぶさるセバスチャンを、さらに睨みながら、私は言います。



 「そんな怖い顔しなくても……」


 「黙りなさい。これが私の真顔です」


 「ウソツキ」



 囁きとも、吐息ともつかぬ声で、セバスチャンが言いました。


 同時に、首筋に何か生温かいモノが這う感覚が走ります。



 「セバスチャッ」


 「“お姉様”の前ではあんなに優しく笑うクセにっ……」



 耳元で、セバスチャンの歯がギリリと音を立てるのが聞こえました。


 それから、彼は私の胸倉を掴み、酷く締め上げてきます。



 「………セバス、チャン………?」



 カタカタと震えるセバスチャンの肩に、私はそっと、腕を回します。



 私はようやく、セバスチャンの様子がおかしい事に気がつきました。



 「……セバスチャン……どうしたのですか……?」


 

 体を起こし、セバスチャンから離れ、顔を覗こうとしましたが、彼はそれを拒み、私に縋りついてきます。






 私は、ギョッとしました。





 しょっちゅう、ふざけて私に抱きついてくるような性分ですから、彼の体つきは、嫌でも把握しています。


 口調や性格からはおおよそ想像できない程、セバスチャンは、男性らしく筋肉質な体でした。




 それが、弱々しく、今にもグニャリといきそうなくらい、痩せ細っていたのです。




 「………セバスチャン………」



 私は、もう、彼を抱きしめる事しか出来ませんでした。


 鼻をぐずり、ぐずりと鳴らす様子から、セバスチャンが泣いている事は、もはや明確です。



 「…………私っ…………自信が、無いの…………」



 嗚咽混じりに、彼は小さな声で、私に言います。



 「………フロラ様の………執事として、私…………」



 


 あぁ、そういう事なのか…。


 

 私は、頼りないセバスチャンの背中をさすりながら、彼の苦労を思います。




 ある日、突然に「次期女王」付きの執事となったその重圧が、セバスチャンの体や心を蝕んできたのだと思います。


 特にここ数ヶ月は、何かと王室の中が騒がしかった事もあり、それは殊更でしょう。




 私よりも長くこの王室に仕え、何事にも動じないような彼であっても、やはり、目に見えない


 「重厚な鎖」を背負うのは、簡単ではないようです。



 

 この2年間、セバスチャンはよく耐え、よく仕えてきたと、改めて感心しました。





 「………セバスチャン」



 彼を促しながら、顔を覗き、私は言いました。



 「今、次期女王が笑顔でいられるのは、誰のお陰でしょう?」



 わざと含みを持たせて訊ねると、彼は少し、困ったような顔をします。



 「過信なさい、セバスチャン。あの方が笑顔でいられるのは、他ならぬ


 貴方自身の、日々の積み重ねなのですから」



 「………タリン………」



 涙を拭きながら、彼は漸く視線を上げて、私を見つめてきました。



 「………言ってて、恥ずかしくないの?」



 せっかくの励ましの言葉も、残念ながら、その一言で無益にされてしまいました。


 もっとも、それは照れ隠しなのだと、セバスチャンの様子から窺い知れますが…。



 「えぇ、恥ずかしいです」


 「じゃあ何で言うのよっ!」



 相当照れさせてしまったのか、彼は掌でビシビシと、私の胸板を叩いてきます。



 「ハハハ。これでも、『特一等』の執事ですから」


 「キィーーッ! 最近まで私の方が格上だったのにぃっ!!」


 「そういえば、そうでしたね」



 私はセバスチャンをもう一度抱きしめて、見えないところで、意地の悪い笑みを浮かべます。



 「お詫びに、食事でも作りましょうか? せーんぱい(はぁと)」←確信犯


 「タッ……タリンのバカ〜〜〜〜〜〜〜ッ!!!」




 …何はともあれ、彼が元気になってくれたようで、良かったです。







































 【おまけ】



 「…………タリン」



 妙にソワソワしながら、主は私を呼びました。



 「はい」


 「……いや、あれだ。お前のプライベートに、私が口を出すのもなんだが……」


 「はい?」

 

 「………………せめて、見えない所に、な」



 主は私の首を指さします。


 私は、ドレッサーに振り返りました。










 「…………セバスチャァァァァァァァァァァァァンッ!!!」









 …いつの間に付けたのでしょう。



 私の首筋に、とてつもなくクッキリと、キスマークが刻まれているではありませんか。






 恩を仇で返す、とは、この事です。











 ――その後、セバスチャンはものすごく怖い目に遭ったとか、そうでないとか…。








 - Merci... -




 


タリンは、怒らせると2番目に怖い人です。

多分、1番はサラなんじゃなかろうかと…。


ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ