お好みは好き好きで
三月うさぎの家は庭先でパーティーでもしてるのか、長広いテーブルセットが用意されていた。
飾りつけが楽しい雰囲気で、警戒するのも忘れて誘われてしまう。
そして、テーブルには、三月うさぎとイカれ帽子屋が仲よく揃っていた。
「何よ、二人ともここにいるんじゃない」
重要なのは、それが当たりか外れのどちらかということだ。
「こんにちは」
たんさん席が余っているので、適当に座って、さりげなく仲間入りをしてみる。
「おや、お嬢さん。ワインはいかが?」
三月うさぎが親切に勧めてくれたけど、酔拳の気分じゃないから断ろうとしたら、テーブルにはお茶しか用意されてないことに気がついた。
「どこに、そんなものがあるの?」
「ああ、うっかり! ワインがナインだった」
「ないものを勧めるなんて、うっかりにもほどがあるわね」
「君だって、招待されてないのに席に座っているじゃないか」
「あら。会員制には見えなかったんだもの」
「そりゃ、ごもっとも。では、お近づきの印に、なぞなぞを出してあげよう。いいかい?」
「ええ、いいわ」
「では、まず一問。何が何すると何になるのは、なあんだ」
「何がなんですって?」
「ん? 何が何って、なんのことだい?」
「だから、私は、あなたの謎の何がなんなのかって聞いてるの」
「ほうほう。つまるところ、何かい。君は、そんなに俺達のナニがどうなっているのか知りたいってわけなのかい?」
横からイカれ帽子屋がにんまり入ってきた。
「いいえ、ちっとも」
やらしい予感がするので、この謎は解かないでおくのが正解だろう。
「おや、そいつはつれない」
帽子屋のがっかり感に、おもいっきり顔をしかめ返してあげた。
どうやら、このお茶会には長居しない方がよさそうだ。
「まったく、ナニなぜって、うるさいじゃないか。おかげで、こっちはちっとも集中できない!!」
ぷりぷりした声に怒られて、どこからだろうと探してみれば、テーブルの上にあるポットの中からだった。
ぱかっと、蓋を持ち上げて顔を出したのは小さなハムスター男。
特徴的な丸っこい耳があるだけでなく、ポットにでかでかとハムスター専用と書いてあるから間違いない。
そして、なぜだか、上半身が裸だった。
できれば、見えない部分で何か穿いていることを希望する。
「カリカリするのは前歯だけにしときなよ、ハムさん」
「そうだぞ、ハムさん。カリカリしてると、出るものも出なくなっちゃうぞ」
「失礼な。僕は出すんじゃなくて、出汁てるんだ。ただの垂れ流しじゃあ、旨みにならんのだからな」
ふんと憤慨したハムスター男は、言いたいことを主張しきって頭を引っ込めた。
「本当に、ハムさんは頑固な職人だなぁ。ああ、そうだ。アリスも一杯どうだい?」
今の流れで、専用ポットのお茶を勧めてくる三月うさぎはどうかしていた。
「とっても遠慮させてもらうわ」
「そりゃ、残念」
「ではでは、実は君、とっても暑かったりするんじゃないのかい」
脈絡のないイカれ帽子屋の気遣いに、怪しみながらも頷いて返した。
今日だけで、一年分の走行距離を突破した気分なのだから。
「だったら、僕らが仰いであげようじゃないか。どうぞ、こちらの席にどうぞ」
「あら、ご丁寧にどうも」
下心みえみえの何かを提案されたわけでもないので、了承して立ち上がる。
案内されたのは、さっきまでとは違って背もたれのない丸い椅子だったから、お行儀よく両手を揃えて座った。
「じゃあ、風をくださいな」
「ああともさ」
「おおともさ」
三月うさぎと帽子屋が揃って返事をしたと思ったら、おもむろに私のひらふわスカートを掴んで引っ張ってくれた。
「ちょっと、何してるのよ!!」
「ナニはしてないだろう」
「そうそう、僕らは約束通りに仰ぐだけ」
妙な理屈で二人してスカートをぱたぱた上下させ、これで精いっぱい扇いでいるつもりらしい。
「この変態ども、いい加減にしなさいよ」
「変態とは、お褒めにあずかり光栄です」
「いい加減とは、いい湯加減」
もう、何もかもが滅茶苦茶だった。
膝から手を離すと大変なことになるため、蹴散らすこともできそうにないし、お尻の圧も緩めることができない。
「俺達は、そっくりそのまま狂ってる。だから、ここでお茶会をしているのさ。なあ、三月のうさぎ殿」
「ああ、そうさ。だから、お酒の入る宴会はさせてもらえない。なあ、帽子屋の兄弟」
「「なにせ、俺達/僕達、足フェチだからー」」
「はあ?」
「谷間に魅力は感じない♪」
「ぞくぞくするのは、もっちり内桃♪」
「おいおい、三月うさぎ。足はすらりとしているから拝みたくなるんだろう」
「そりゃあ違うな、イカれ帽子屋。むっちりしているから触りたくなるんだろうが」
「いやいや、それこそ、いかれてるぞ」
「何おう」
「何ナニおう」
変態二人は私を忘れて足論争に夢中になっていく。
まったく話についていけなかったし、ついていく気もなかったけど、ついていたのはスカートが解放されたこと。
「足はバターに決まっている」
「いいや、甘ーいジャムだ。たっぷり見てから食べるんだ」
「そりゃあ、邪道だ。食べるから見られるってものだろうが」
論争はますますヒートアップしてるけど、私としては、みるみる興味がなくなるだけだ。
「いつまでも勝手にやってなさいな」
バカバカしくなって、お茶会を抜け出すことにした。
少し離れて振り返ると、三月うさぎと帽子屋がハムスター男をポットから引きずり出そうとしているところだった。
何を穿いているのか気になるところだけども、何も穿いてなかったら大変なので、このまま退散するのが賢明だろう。
「あんなお茶会、見たことないわ。ここに来てから、まともなことが一つもないじゃない」
ぶつぶつとぼやきながら歩いていたら、またまた不思議と遭遇した。
ドアのついた桃の大木。
不思議な不思木。
「お邪魔しない足はないわよね」
尻込みするなんてありえなかった。
どこに出るのか楽しみにしながら割って進むと、初めて見覚えのある場所に到着した。
「ここって……」
ドアがいっぱいある長いホールで、近くにはガラスのちゃぶ台まで置かれてあった。
「振り出しに戻るってこと? まあ、いいわ。今度こそ、ご利用は計画的にしないと」
まずは金色の鍵で小さなドアをカチャリと開ける。
それから、例のきのこをパクっとした。
「計算通ーり!」
ようやく、待望の胸きゅん庭園に出られそうだ。




