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一 神さまの窓口、開店即休業

 どこにでもいる普通の高校生として、日本の某地方で暮らしている私。それなのに、突然見たことのない世界に呼び出され、連れ回され、途方に暮れ…。


「嘘をついてる顔だな」

「アンタはただのオマケ」

「当たり前だ」


 運命に翻弄されるシチュエーションに浸ろうと思ったのに、空気の読めない男ガ無粋なツッコミ。仕方なく私は、パイプ椅子ではなくリクライニング可能な事務用チェアーの性能を確かめるように背を伸ばして、特に何もない天井を見上げる。

 ここはそう、あの引き継ぎの場だった空間。

 時間通りに手続きが終了すると、速やかに無駄な装飾は片づけられ、姿を現わした空間だ。


「お前の好きなLEDだな」

「もっと上等な電灯じゃないかな」

「へぇ」


 ともあれ、高橋裕美は神さまになった。お約束だが、ひろみではなくゆうみだ。

 地球で誕生したのは十六年前。いつの間にか成長して、いわゆる平均的な女性よりはかなり大きな図体になってしまった。ついでにまぁ、オスが喜ぶような部分も成長したけど、メスの私が自己紹介するのもなんなのでその辺はご想像にお任せする。一応、人目は引くが人類の変種とされるほど特異な容姿ではない。


 そして私は、「神さま」だ。

 ……呼び出されて、この宇宙で就任したのは先週のこと。

 気の抜けた十四代目の声、上から目線の物言い、そして官僚対応、すべてが刺激的で、私はその夢のような提案を二つ返事で引き受けたのだ。


「毎週こうなのか?」

「さぁ…。いざとなればお人形さんで済ますかも」

「ふぅん」


 だいぶ嘘が混じったが、二つ返事だったのは間違いない。

 だって、地球ではおとなしく人類の範疇の力で生きるしかない私が、もしかしたら自己の力を開放できるかもしれない、そんな夢の空間………だと思ったから。

 地球における中二臭い自称、「宇宙の上位にある者」。本気の私なら、想像上の神さまがやりそうなことで、できないものは恐らくない。

 宇宙だって片手で握りつぶす者。

 そんな暴力的な表現でしか力を表現できないのは、我ながら少々残念な気がする。


「地球側が本体か」

「そりゃそうでしょ。それとも光安は移住する?」

「なんで俺だけ」


 読者に伝わりづらい会話が続く。リアルな会話とはそういうものだ。

 仕方ないので状況を整理してあげよう。神としての初仕事だ。人間でもできるのは内緒だ。

 ここは地球のある宇宙とは違う、別の宇宙。その中の、地球によく似た星にある、アクミという町だ。地球に似た気候環境で、地球に似た生物が暮らしている。町の名前も何だか日本語みたいだが、パラレルワールドではないから「もう一人の自分」がいたりはしない。偶然の近似に過ぎない。

 地球人類としての私には、もちろん縁のなかった町。しかし、この町には不定期営業の窓口があって、依頼により気が向いたら顔を出すことになった。

 そう。

 神さまの窓口、だそうだ。


「で、なんでお前は奥に引っ込んでるんだ。お前の窓口だろ?」

「あんたが受付。神さまは貴いから顔を見せないと相場が決まってるの」


 現在の私たちは、地球上からこちらに移動しているから、地球上から消えている。

 しかし、毎度毎度それも都合が悪そうだから、こっちには分身を送って済まそうか、と会話中だった。

 その気になれば、分身なんて何億体でも作れるし、分身だから何かができないということもない。窓口の営業時間も増えるだろう。みどりの窓口の合理化みたいな話。


「俺に受付やらせて、うまくいくと思うか?」

「行かなかったら、神さまの出番じゃない」

「その手間は無駄だろ」


 雑居ビルの三階、受付スペースと奥の二部屋という地味な空間に、いるのは私と青原光安の二人だけ。ちなみに光安、またの名をバカは、高校の同級生で、まぁその…………、要するに彼氏というヤツでござるよ。

 神さまを引き受けた以上、とりあえず巻き添えを食らってもらうのは必然の理。私を地球人類に留めた不届き者、………代わりのきかない大事な人だから。

 ちなみに、事務能力は皆無、愛想もない。所詮はその辺にいる、大してモテもしない高校生。

 モテてもらっては困るけど、そもそも今の彼はまぁ……。


「それにしても、誰も来ないっておかしいだろ」

「そう?」

「だって、お前に何でも頼めるんだろ?」

「何でも聞くとは言ってないけど」


 新任神さまは、そのうちお忍びで町をほっつき歩く予定。なので、ばれないように窓口では見た目を変えている。

 普通はお忍びの時こそ変装するものだ…というツッコミは要らない。窓口営業よりお忍びメインという指摘は、甘んじて受けておこう。

 まぁそんな裏事情はさておき、どうせなら派手に行きたいから、受付の光安はどっかの石窟寺院の観音菩薩の顔になっている。

 ついでに私は、京都は嵯峨釈迦堂の本尊だ。なんたって生身の釈迦だ。地球でやったらお叱りを受けるだろうけど、ここは釈尊の所轄外だろう、たぶん。


 先代の神さまが言うには、窓口は形を変えながら二千年以上存在するらしい。もしかして釈尊存命の頃から、こんな窓口があったかと思うと、シュールな話だ。

 その間に、神さまは代替わりすること十四度。代替わりの理由はさまざまだが、通常は自分より力が上の者が現れた時に交代する…と言っていた。

 なお、先代は「貴方が最後でしょう」と捨てゼリフを残して去った。

 御年二百歳の彼は、普通の男の子になりたいとマイクに向かってつぶやいた……のかどうか定かではない。

 一応は当人の了承を得るとはいえ、この世界がもつ力をフルに使って、無理矢理呼び寄せた者たち。役目を終えても戻ることはない。呼び寄せた側に戻すだけの力はなく、当人にもそんな力はないのだ。


「俺のバイト代は?」

「誰が払うの?」

「えーと、……ゆう?」


 まぁ私は自力で来たから問題ない。自力でやってきた神さまは史上初……じゃない、初代がいた。行ったり帰ったりするのは史上初、ついでに彼氏を同伴したのも史上初。神さまも堕落したものだ。

 ……堕落したっていいじゃない、人間だもの。いや、神さまだっけ。


「まぁ一応、私が雇用者でアンタは被雇用者」

「………」

「お前はクビだぁ」

「実家に帰らせていただきます」

「帰ったら、この宇宙の未来は保証できないけど…」

「そんな勝手な脅しがあるか」


 冗談はさておき、神さまはボランティアだそうな。

 人々の理不尽な不平不満を聞かされ働かされるのに無給とは何事か、と私は最初は憤慨した。いや、憤慨はしないが呆れた。一応は本気で呆れたものだが、先代の話を聞くうちに考えを改めるに至った。

 ボーランティア。なんて良い響きなのでしょう。


「宿題していいよな?」

「どうぞ」

「後で教えてくれ」

「バイト代は?」

「耳鳴りがするなぁ」


 要するに、神さまは無力だった。

 誰も神さまに期待していないし、誰の期待にも応えられない、それが先代までの神さまだった。衣食住を保証する価値もなさそうな、穀潰しだった。


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