十八 曜子パニック!
時刻は午前十一時。この星は一日三十時間で、通常の昼食時間は十四時ぐらいらしい。ということは、まだ午前中が三時間ほどある。
数字を考え出すと、理解が追いつかない。一秒の単位から違うのだから、いっそ腹時計に委ねた方がいいのかも。
「お兄ちゃん、頭」
「頭?」
「…なでなでして」
「えっ?」
「お願い。最初はやっぱり…、お兄ちゃんがいい」
目の前では兄妹の微笑ましいやり取り。いろいろ誤解を招きそうな表現が混じっているけど、微笑ましいやり取り。
日頃から可愛い可愛いと連呼していた兄が、妹の頭をなでるのは特に不自然な行為ではない。
普通の兄と妹なら――。
「しょ、しょーがねぇなぁ」
「ひゃあ」
「な、何だ?」
「すごい! なでられた!」
こうして繰り広げられる、初めての儀式。私と薫は、どう反応していいのか分からず呆然としている。
曜子は…幸せだろう。
自分の身体を触られるという体験を、今ようやくかなえたのだ。大好きなお兄ちゃんの手で。
「つ、次はお姉ちゃんな。よろしく!」
「私?」
「ゆうお姉ちゃん、はい!」
しかし、元から人間の側にとっては困惑の極み。そう。恐らくは幸せいっぱいの光安が、それでも耐えきれないほどに。
現在、目の前では曜子がその小さな頭を私に向けている。
艶のある髪、つむじが二つ。別につむじの数は指定してない…と気をそらしながら、ゆっくり右手を近づける。表情が見えないだけ、まだ私は耐えられそう。
さらさらした感触。ほんのり温かい。
「お姉ちゃんにもなでなでされたー」
「よ、良かったな曜子」
ぴょんぴょん飛び跳ねる曜子。
あうぅ。これはいけない。くりくりした瞳も、澄んだ声も、渦を巻くつむじも、かすかな息づかいすら可愛いなんて。
半分目を泳がせながら、どうにか薫の腕をつかみ、そのまま託す。
薫の反応は…、卒倒寸前の状況を、私が後ろで支えていた。全身が紅潮して、その興奮がすごすぎて私が冷静になるぐらいだった。
………。
身体を触れあうってすごいことなんだ。
うん。
私だって、いつも彼とはくっついていたいもん。
「若井もやるの?」
「い、いや、さすがに遠慮しておく」
「私がなでなでしてあげるー。どう?」
「あ、あの…」
蚊帳の外になりかかった若井は、その曜子にヴァージンを奪われてしまった。
五十のオッサンでも、初めてはすごいらしい。五十のオッサンでも、顔を真っ赤にしてうろたえている。五十のオッサン、良かったね。
「満足したか、曜子」
「うん。だからお兄ちゃんにもう一度」
「もういいだろ」
「ダメー」
嵐のような儀式はまだ終わっていないが、本日誕生の二人にとって、本番はこれからだ。そして、まだやることは山ほど残っている。
五十のオッサンの絵面で、事務所はどうにか落ち着きを取り戻す。曜子が兄とじゃれている間に、できることは進めないと。
「薫、住民登録ってどうやるの?」
「普通は区役所に行くけど…」
日本と同じような方法を薫は提案するが、それは無理と言外に臭わせている。
それはそうだ。さっき肉体を得た二人を窓口に連れて行けば、無戸籍であるという事実が明るみに出るだけ。下手をすれば警察沙汰になってしまう。
まさか、私が造りましたと言うわけにはいかないだろうし…。
「そこら辺はお前が偽造するしかないだろ」
「偽造って言わないでよ」
「そうよお兄ちゃん、私たちのためなのに」
「す、……すまん」
今度は曜子になでなでされながらも、光安は話に割り込んでくる。どうやら兄者も少しは冷静になってきたらしい。隣で薫が物欲しそうな顔してるけど。
結局、そうするしかないのだろう。
住民データは例の身分証明と紐付けされているから、大元のサーバーに、こっそり二人分の情報を加えておく。あとは市のデータを修正して、これで転入の手続きは不要。神さまなので、種も仕掛けもないことをお許しください、なんちって。
現時点の住所は、ここにしておいた。
新居が決まったら、その転居手続きは本人にしてもらう。この先は、普通の住人なのだから。
…それにしても、曜子に光安がやり込められる姿は、二人とも可愛すぎる。私も薫みたいになりそう…と思ったけど、血走った目の薫を見て冷静になる。上には上がいるようだ。
私と曜子と、薫はどっちがタイプなんだろう。いや、メスならいいのか? 曜子に翻弄される私が言うのもおかしいけど…。
「…は、はい。十五代目様、折り返し連絡させますので」
「よろしくお願いします、こちらはいつでも構いません。早ければその方がありがたいですけど」
「分かりました。失礼いたします」
次は…、住居の確保だ。
引き継ぎの時に受け取った連絡先に電話。受話器はなく、脳内スマホを使う。わけの分からないシロモノだけど、付与の力と必要なデータを脳内に取り込んで使うらしい。地球人類には、キャパ的に使用不可能だろう。
電話は、要するに担当からそのうち連絡があるというだけ。まぁこんなものだろう。というか、住居が必要なのは当たり前なのだから、平日のうちに動いておくべきだった。
二人の…ではなく、曜子の身体をどうするかばかり考えていて、うっかりしていた。
「ここでは、あれが電話なのか」
「そうよ。曜子もこういうのを使いこなさなきゃ」
「む、難しそう」
曜子と若井の身体は、もちろんこの宇宙に対応させてある。基本的に、この星の人類は地球人類の上位互換なのだから、当然のことだ。
とはいえ、曜子はまだ自分の口で食事をした経験すらない。コップのお茶を飲むことすら、恐る恐るという感じ。一度だけ、私の身体を貸したことはあったけれど、あれは私の意識も残っているから、今日とは比較にならないはず。
普通の人間が、赤ちゃんから徐々に学んでいくことを、十二歳で初めて経験するなんて、人類史上初だろうな。
…五十で初体験の若井の方がアレか。
「…はい、十五代目の高橋です。………はい、はい…」
五分ほどで、向こうから連絡があった。
通話のやり取りは割愛する。とりあえず、物件は二つともまだ残っていることが判明。
私の住居用に確保したマンションの一室は、国が契約した賃貸物件。私が気に入らない可能性があるということで、賃貸にしたらしい。マンションとしてはやや高級というレベルの物件なので、もちろん住むのに不都合はないだろう。仮にも神さまに、やや高級程度というのが妥当な話なのか検討の余地はあるが。
その辺の検討はどうでもいいとして、あくまで私が住む用途だし、国が借りているというのも引っかかる。一応、曜子も若井も十五代目の「友人」に過ぎないのだから。
「薫、この住所って分かる?」
「えー…、タカハシ?」
「これって本当に住所?」
「うん。…高橋って場所はあるから」
とある事情で買い取るぐらいの資金はあるけれど、その前にもう一つの物件を。
十四代目の住居は、アクミ市タカハシとある。まさか私だから…と思ったが、実在の地名らしい。
まぁそもそも、日本の高橋も、橋のある場所から生まれたわけだし、地名としてはありふれたものか。よく分からないのは、似たような言語体系が存在すること自体だが、存在する以上は同じような経緯をたどると、とりあえず納得しておく。
「高橋は…、街からかなり離れた所だったと思う」
「遠いの?」
「それはまぁ、アレがあるから」
「あー」
薫が指差したのは、ただの窓。言いたいことは分かるけど…。
あのポールの出番か。
二人はこの町の住民になったし、ちゃんと付与の力は使えるようにしてあるから、せっかくだし試してみよう。
ただ、ポール移動では地理感覚がつかめないよね。もしかしたら、そんな感覚は不要なのかも知れないけど。
「今から十四代目の家を見学するよ。それがイマイチだったら、不動産屋に行く予定」
「私はそれで構わない」
「よろしくお願いします、お姉ちゃん」
「か、可愛い…」
十四代目の住居は、彼が個人で所有していた。
そして…、さっき思い出したけど、彼を元の宇宙に帰す時に、こちらの所有物の処理をした。持ち運べるものは、すべて一緒に送ってあげた。そして、持ち帰っても使い道のないこの国の金銭と、不動産関係は私が引き取ったのだ。つまり、住居は既に私名義だった。マンションがキャッシュで買える現金も、そのせいで所持しているわけだ。
自分は住む予定がなかったから、処分を任されたぐらいにしか思っていなかった物件。十四代目も資産価値はないとつぶやいていた。あの河童様に最適化された住居がどんなものか…。
「戸締り用心、火の用心♪」
「一日、一善!」
「お前たちは本当に高校生なのか」
電話急げ…じゃなく善は急げ、ということで、さっそく出掛けることにする。
二人にとっては、初めてのお出掛け。事務所の外に出るのも初めてとあって、やや恐る恐るという感じだ。階段で足を踏み外さないといいけど。
第一ビルの前には、当然のように付与のポールが立っている。
「使い方は薫に教えてもらいましょう」
「え…、何もすることないよ」
ポールは一応何種類かあるらしい。ビルの前のポールは一番普通のもので、だいたい一キロ四方に移動可能。なので長距離移動の場合は、まずは上位のポールを目指す。
その辺はまぁ、遠くに行きたいとかアバウトな指示でいいようだ。
上位のポールは、かつての鉄道駅などに設置されている。そこからは、鉄道路線の跡をたどるように移動して、目的地の近くからはまた普通のポールと、そんな感じで進む。
面倒くさそうに聞こえるだろうが、それぞれの移動は瞬時だし、指示もアバウトだから、幼稚園児ですら出来てしまうはず。
ついでに言えば、処理の自動化も可能だから、一度指定してあればポール任せで済むらしい。だから貨物輸送にも楽々対応できるという話だ。
「到着しました!」
「ありがと、薫」
「ああん、やっぱりゆうちゃんが一番かも」
「はいはい。薫は浮気者、と」
直線距離は二十キロほどあったようだが、一分足らずで移動。この場では必要のない興奮に身を委ねる薫から手を放して、目の前の景色を確認する。というか、「かも」って何? もう曜子の方が上?
……冷静になろう、うむ。
今にも燃える男の赤いトラクターが走ってきそうな、田舎道。行く手には針葉樹らしき森が広がっている。住宅は数軒あるが、どれも日本の農家のような佇まいで、ビルに囲まれた神さま窓口とは別世界だ。
「街が嫌いだったんだな」
「でしょうね」
引き継ぎと帰還の際に顔を合わせた十四代目は、何というか、世捨人の雰囲気だった。どこかの淵に住んでいると言われたら信じてしまいそうなぐらいだったが、まぁ一応妖怪ではないから…。
ポールはこの辺りの数軒の共用らしい。
薫の脳内スマホの地図で確認して、道を歩いて行く。ハイキングにでも来たような感覚。もう既に、私はここを気に入っている。
「ここが入口」
「何て書いてあるんだ?」
「十四代目の名前。だから合ってる」
表札らしきものが、木に打ち付けてある。その字はこの国の文字ではないので、薫にも読めない。私はまぁ、直接名前は聞いているけど、もう忘れた。何度も言うが、私たちにはとても発音しづらいので、きちんと覚えるのは困難なのだ。
ともかく、所有区画に入る。左右には小さな畑があり、そしてその先には…。
「あ、あれ?」
「待て、結論はまだ早い」
「でも、表札もあるよ、お兄ちゃん」
畑の向こうに見えるのは、木造二階建と思われる建物。見栄えのする装飾は一切なし。やたら横幅が広い。屋根が…、これはもしかして、板葺き?
まさかこの宇宙にこんな景観があるとは。いや、どんな理想の田舎暮らしだ。
「ここのようだな。十四代目は農家だったのか」
「早く中に入りたい!」
「い、いいのか曜子。お前がこんなオンボロな家に…」
玄関の戸を開ける。見た目はボロ家だが、きちんと付与の力は効いている。鍵はない。今は私が所有者だから、何事もなく中に入ることができた。
内部は…、うん、まぁ、田舎暮らしの典型的な住居だった。目の前には、使われている気配のない土間。左側に居間があって、そちらは清潔に保たれている。恐らく、今風の台所が奥にあるはず。
生活に必要なものは一通り揃っているようだ。
二週間も空家状態だったのに、さっきまで住人がいたような雰囲気。例によって、付与のおかげだろう。素晴らしい。地球の空家対策にも使いたいところだ。
「部屋数は十分あるけど…」
「曜子、不動産屋に行こう」
「なんで? お兄ちゃんは気に入らないの?」
日本の常識に当てはめると、養蚕農家辺りに近い。蚕部屋や農作業用だった広大な空きスペースを、とりあえず部屋にしつらえてあるから、今居る全員の個室が用意できる。雨風をしのぐだけなら、という程度の部屋だが。
光安の評価は、まぁ仕方ない。古めかしいのはさておき、隣の家まで徒歩五分というのは、セキュリティという面で十二歳の女子の家にふさわしくないだろう。若井すら信用できないのに、他の侵入者があったら大変だ。
「曜子、自分の意志で選べばいいからね。このバカ兄貴の心配事なら、私がどうにかするから」
「はーい」
「ちょ、どうにかするったって」
「大丈夫。…曜子ならね」
二階への階段は、何ということでしょう、昔ながらの急勾配。ああ、あれはリフォーム後の決め台詞だったわオホホ。
できればこういう部分は改築したいけれど、その辺は見学が終わってからかな。
先頭で二階に辿り着いた曜子が、近くにある扉を開け放つ。すると、ガタッと大きな音がして、何かが倒れてきた。ああ、ここは倉庫だったらしい――。
「あ、危ない曜子!」
「うん?」
「…………」
倒れてきたのは、長さ二メートル以上もある厚手の木板。まともに当たれば曜子が危なかった…はずだが、というかまともに頭に当たっているが、曜子はきょとんとした顔で兄の方を振り返った。
そして次の瞬間、曜子が左手で軽く木板を押すと、音も立てずに板は元の位置におさまった。
「ゆう!」
「…ばれた?」
さっき肉体を持ったばかりの曜子は、それが人間としておかしいという自覚がない。なので、ものすごく自然に、人間離れした動作を見せてしまった。
目撃者となった薫は、口を開けたまま固まっている。若井は…、まだ階段を上り終えていないから、たぶん今の出来事は見えてなさそう。
「え、何かあったの?」
「あった」
「あったね」
本人は全く気づいていない様子。
それが分かるだけに、光安も強く言えず、困っている。このままだと私は、後でその不満を全部ぶつけられてしまうだろう。
「とりあえず、どこかの部屋に行きましょ。まだ全員上ってないし」
「はーい」
仕方ないので、場所を替える。物置に入るわけにもいかず、その奥の部屋を私が開ける。幸い、そこには何のトラップもなく、そのまま中に入っていく。
大きな窓のある部屋は、板の間になっている。使われた形跡はなく、床にはほこりが積もっている。明かりもない。この部屋には付与の力すら使われていないようだ。
「こ、これは…、汚い部屋ですよね?」
曜子は「汚い」と呼ぶ対象を初めて見たことになる。相変わらず人類には理解できない感覚だが、それもすべては一度きり。もう二度と驚かないなんて、ちょっと残念だなぁ。
「そうだぞ曜子。若井も初めて見ただろ?」
「うむ。なるほど、部屋というものは匂いがするのだな」
「こんな臭い部屋、初めてなんですけどー」
それぞれにわめきながら、全員が部屋に入った。
ということで、少しデモンストレーションと行きますかね。
「曜子、この部屋はものすごく汚れてるわ」
「は、はい」
「掃除して」
「えっ?」
無理難題のように曜子に押しつけ、部屋の隅にあった袋を手にする。
どうやら肥料の袋らしい。ごわごわした大きな紙袋だ。
「部屋中のゴミを、この中に集めて」
「え…」
「そう念じるの」
「はい」
曜子が目をつぶって、何か祈るようなポーズ。
すると、次の瞬間には床のほこりが消えた。
床だけではない。天井から壁から、一切のほこりが消えた。窓ガラスも光り輝いている。
「ということで、ほこりはすべて袋の中に入りましたとさ。曜子のマジックショーでしたー、パチパチ」
「パチパチ」
「…じゃねえ!」
例によって薫は呆然として、若井は何だか分からない表情で、光安は怒っている。
しかし怒られても困る。
曜子は私にとっても、可愛い妹なんだから。
「今のマジックは、人前ではやってはいけません。曜子、分かった?」
「ど、どうして?」
「この星では曜子にしかできないから。悪い人に捕まって、あんな目やこんな目に遭うから」
「そ、そ、そうなんですか?」
私が言うと説得力皆無だけど、それは私に記憶操作の能力があるからに過ぎない。なら、曜子にもその力を与えれば…という話は、やはり却下。十二歳にそこまでの能力を与えた場合、どうなるのか想像がつかない。曜子は大人びているけれど、根っこは十二歳相応という感じがするし。
とにかく、場所を改めて、曜子の能力について確認する。
曜子には、私の能力をうんと薄めた感じのものをあげた。一部は意図的に使用不能にしてあるが、基本は薄めただけだから、瞬間移動も念動力も使える。空を飛べるし、地中に潜れる。宇宙を旅することも可能。透視、時間制御もできる。
記憶操作は、危機管理用のみ。危険を察知した時に、相手の攻撃意欲を奪うだけで、意図的には使えないようにした。
「光安。これぐらいなら、曜子が危険な目に遭わずに済むんじゃないかなぁ」
「むむむ……。お前が監視するわけには」
「それじゃ自立じゃないでしょ」
「うーん」
さすがに星を破壊するような力はない。そもそも、十二歳の頭脳に私の能力を組み合わせれば、宇宙は一週間以内に消滅する。生まれたばかりの曜子に、そんな責任を負わせるわけにはいかない。
曜子は「宇宙のちょっと上位にある者」。せいぜい、悪い大人に囲まれても助かるぐらいの能力のつもり。
「えーと、つまり私は普通じゃない?」
「そう。私がものすごく普通じゃなくて、曜子は少し普通じゃない」
「は、はい。分かりました!」
曜子が分かったというたびに、微妙な空気が流れる。
しかし、一番強硬に反対しそうな光安が黙り込んでいる。妹の身を護るという伝家の宝刀には抗しきれないらしい。
さすが…とバカにする気にはなれない。彼がここまで真剣な兄だったから、妹はその意識を成長させた。立派な兄なんだ。
「…曜子ちゃんも、ものすごく、だと思う」
「私もそんな気がするぞ。時に裕美よ、私には何かないのか」
「ない。大人なんだから自分の身は護れるでしょ」
若井だって身体能力は強化してある。曜子の前では霞んでしまうのは仕方ないけれど。
なお、当面は二人が危機を感じた時には、私に通信が届くようにしてある。数少ない若井の危機は、そこで対処すれば十分だろう。
……薫にも、何かしてあげようと思うけど、こちらはこの宇宙と相談しなきゃいけない。改造人間の悲しみを背負わせてしまうのだから。
「ゆう、とりあえずメシ食おう」
「つまり気分転換したい、と」
「そうだよ。今日はいろいろありすぎなんだよ」
既にお疲れモードの彼氏の手をとって、十五代目神さまが号令。
普段なら恥ずかしがってすぐに離れようとするけれど、そんな元気もないらしい。弱った彼氏は可愛いな…って、今はそんなことしてる場合じゃなかった。
「近所に良さそうなお店があったら、そこで食べましょう!」
「なければどうするのだ」
「その時は薫に聞けばいいから」
「ちょ、ちょっと…」
まだ、二人がここに住むとも決めていない。二人が一緒に住むとも決めていない。
今はそう、先送りが大切だと思う。
※誤字修正




