番外 地球人類の異端と化した男、神を語る
皆の衆、久しいな。
久々の語り手、緊張するものである。
「なんでお前が語るんだ。これは光安くんのなぜなに神さまコーナーだろうが」
そのツッコミは甘んじて受けてやるが、語り手、それが私の役割なのだから仕方あるまい。彼は――青原光安は、自らの意志で高橋裕美を捕まえてしまった愚か者なのだから。
「だいたい、今はゆうが語り手だから、お前の名前はオッサン声。それと、目の前の話し相手を彼とか呼ぶな、おかしいだろ」
ああうっとうしい。彼は彼と呼べばよい関係、目の前どころか一心同体、つまり彼の頭に巣食いながら彼を第三者として見下す関係だったというのに、いつの間にかこの彼は…。
「彼彼やかましい。いいか、絶対俺の外に放り出してやるからな」
ふ、それは裕美の力を借りてであろう。お前のような何もできぬ男が偉そうにうそぶくことではない。
「そうだ、お前だ。俺は、お前だ」
…………。
気を取りなおして、地球人類の代表である私が、神さまの実情について語っておこう。
「お前のどこが代表だ。こんなイレギュラーの権化みたいなヤツが」
やかましい、話が進まないではないか。執拗に邪魔をするならば、仕方ない、曜子を呼び出すと…。
「待った、曜子はお昼寝中だ。すまん、俺が悪かった」
分かれば良いのだ。全くこれだから高校生はバカで困る。
なお、光安の妹と称される曜子については、前作『手のひらの宇宙』を御覧いただきたい。うむ、これは宣伝である。語り手である私も大活躍しておるので、必ず読むのじゃぞ。
「任せてやったんだから、無駄話すんな」
おお語り手、バカにツッコまれるとは情けない。
二度目だが気を取りなおして、地球人類の代表であるわた…。
「しつこい!」
地球人類は、さまざまな神さまを語り、時に信仰している。読者の諸君の多くは地球人類と推定されるので、その辺の事情はある程度は理解していよう。
人類の起源と同時に、神さまらしき存在は空想された。それはホモ・サピエンスが一定の知能をもち、自分を人間と認識した際に、付随して生まれる疑問を解消する手段である。
自分たちが、ある世界の、ある社会の人間であると認識された時に、人間は考えるのだ。なぜ土があり水があり、なぜ山があり川があり、なぜ昼と夜があり、なぜ自分に手足があり、なぜ生まれて死ぬのか。果てしない疑問を解決してくれるのは、人間を超越する何者かなのだ。
「ずいぶん難しい話するんだな」
高校生には分かるまい、いや、高校生なら分かるだろうか。
ともかく、神は語られ続けている。地球の現代社会でも、科学だの何だのと虚飾をまとう神はそこら中にいる。人間という御しがたい生物は、知る由もない過去の偶然を、必然として語る欲求を免れない。
…まぁいい。それはあくまで「語り」でしかない。
神は目の前の世界の疑問を解決する存在。神は、語る者たちには不可能な何かを実現した存在。つまり神は、少なくとも地球の神は、地球を改変する力をもっていることになる。
それが地球という単位なのか、太陽系なのか銀河系なのか、あるいは宇宙そのものなのかは大きな問題ではない。外部から干渉し、変えてしまう力。それを行使する存在が神だ。
そして、そうした存在は、どうやら複数実在したらしい。神は確かにいた。しかし神が地球を実際に改変した記録はほとんどない。これは断言できる。なぜなら、地球の過去のすべてを知る能力をもつ女、裕美がそのように確認したからだ。
地球が含まれる宇宙において、神の力を行使した記録は、ほぼ最近二十年に限られている。要するに、裕美と、母親、そして裕美の二人の姉だけ。しかも、二人の姉の力は限定的だから、残りの二人が大半の犯人である。
なお、宇宙によっては神が独自の社会をもつ例もあるようだ。
地球のように、親子四人しかいなければ、せいぜい家族会議で事は済むが、百人二百人の神を抱えてしまったら、そうもいかない。宇宙を改変できる存在を野放しにはできないのだから、人類同様に法制度を作り、代表のもとで統治するしかないのだ。
……では、裕美が呼ばれた「この」宇宙はどうなのか。
神さま社会の存在は確認できない。
そもそも、よその宇宙から「神さま」を迎えるような真似は、神さま社会があれば許されないだろう。なぜ自分たちに頼まずに、得体の知れない者を呼び出すのか、と。
つまり、それはこの宇宙の危機である。
高橋裕美は、本人にその気があればこの宇宙の絶対神となる。そして彼女の腰巾着が権勢を振るい、この星の人類は未来永劫苦しむであろう…。
「黙って聞いてりゃ何だそれは」
お前のようなバカに、この星の人類を左右する力があるという事実を伝えた。それだけのことだ。
また会おう。
「誰が会うか!」




