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#8 事故

「あんた! ほんっっとにこの男のこと信じてるの!? だいたい、奴隷市場に行ってあんたを買った時点で、下心丸出しのど変態なんだよ! そんな奴のそばで暮らしてていいの!?」


 帰還した翌日、僕の部屋にカーリン少尉が押しかけてきた。僕の目の前でイーリスに向かって、僕のことを手汚く罵っている。

 が、イーリスはさらりとかわす。


「下心なんて、私は気にしない。それよりも、ランドルフは優しい。見れば分かる」

「は?この男のどこを見たら、優しい奴だって分かるのよ!?」

「外からは、分からない。でも私には、心が見える」

「……なんていうか、噂通り変わった娘ね。でもよかったわね、ランドルフ中尉殿。あなた、どういうわけか本当に気に入られてるのね」

「はぁ~……だから、最初からそう言ってるのに……」


 階級が上の僕に向かって、御構いなしで言いたい放題のカーリン少尉。僕はもう、ため息しか出ない。


「でも、カーリン、あなたの心も、優しい」

「は?」

「えっ!?」


 イーリスの意外な言葉に、カーリン少尉と僕が思わず同時に反応する。一体、このやり取りのどこに、彼女の優しさを感じたんだ?


「ななな何いってんのよ! 私が優しいなんて、どこを見たらそうなるのよ! この通り、私はキツい女よ! 自分でも分かってるんだから!」

「私には、心が見える。それにカーリンがここにきてくれたのも、私のことを心配してくれたから。それが、優しさの証拠」

「わ、私は本能丸出しの男が大嫌いなだけで、べ、別にあんたを心配してきたわけじゃないんだからね!」

「うん、分かった。そういうことに、しておく」

「と、ところであんた、そんな服しか持ってないの!?」

「ああ、これはここにきた日に、ランドルフに、買ってもらった」

「ったく、センス無いわね! せっかく可愛らしいイーリスちゃんが、こんなダサい服しかないんじゃ台無しじゃないの! しょうがないわねぇ、私がもっと可愛い服を選んであげるわよ!」

「うん、お願い」

「じゃあ、イーリスちゃん、行くわよ! あ、服代はちゃんと自分で出すのよ!」

「大丈夫、問題ない」


 あれ、なんだかカーリン少尉が少しデレたぞ。「優しい」と言われたのが効いたようだ。どんなに隠そうとも、顔がにやけてる。そしてカーリン少尉は、そのままイーリスを連れて、ショッピングモールに出かけてしまった。


 で、しばらくしてイーリスはカーリン少尉と共に帰ってくる。胸元の大きく開いた白いワンピースに、麦わら帽子という姿に変わったイーリスが、そこにはいた。


「どうかしら!?彼女の妖艶な雰囲気にぴったりでしょう! ほれ、そこのど変態男! イーリスちゃんをお返しするわよ! じゃあね!」


 と言って、カーリン少尉は帰っていった。

 帽子を脱ぐイーリス。ただでさえ真っ白なイーリスが、ますます真っ白な姿になった。

 うーん、これは天使だ。羽根でも生えてくるんじゃないかと思うほど、天使のような姿だ。いや、実際には呪術師(シャーマン)だが、この姿はまさに天使というほかない。


「カーリンが言っていた。これなら、ランドルフもいちころだと」


 ああ、悔しいがその通りだ。何というか、可愛いとか綺麗とかを通り越して、もはや神がかっている。思わず私は、彼女を抱きしめてしまった。


「イーリス……なんていうか、とっても似合ってる……まるで、天使のようだ」


 イーリスも、僕を抱きしめる。


「そうか、天使か。悪くない表現だな。それは良かった」


 しばらく2人で抱き合ったのち、リビングに行く。


「ところで、服を買っただけにしては随分と長いお出かけだったけど、カーリン少尉とは服を買いに行っただけなのかい?」

「いや、スイーツの店も、教えてくれた」

「スイーツ?」

「2階の奥にある、小さな店だった」


 ああ、あの女性に大人気で、男が近寄りがたいほどいつも女性だらけの、あの小さな店のことか。


「クリームが乗ったパンケーキ、チョコミントのチーズケーキ、ブルーベリーとイチゴのパフェを、食べた。初めての味ばかりだった」

「ええ~っ!? そんなにたくさん食べてきたのか!?」

「一つ一つが小さい。だから、食べられた」


 そういえば、そういう店なんだな。いろいろな味が楽しめる。どおりで女性に大人気な訳だ。まさに女性でなければ知らないところを、巡っていったようだ。ああ見えてもカーリン少尉は、女子力が高いみたいだな。


「カーリン、また私と、あの店に行きたいって」

「そうだな、ここは女性士官が少ないから、女性同士の知り合いも少ない。友達になってあげると、彼女も喜ぶだろう」

「そうか。なら、またカーリンとあの店に、行ってやることにする」


 店の話をするイーリスも、なんだかとても嬉しそうだ。カーリン少尉は口は悪いが、その分面倒見はいいようだ。イーリスにとってはいい友達になれるだろう。


 ところで、艦隊戦の後は3日間の特別休暇をもらっている。

 翌日も休みのため、僕はイーリスとで散歩に出かけることにした。


 セントバリ王国と同盟が成立して半年あまりが経つ。この王都サン・ティエンヌの脇に作られた宇宙港の街も、徐々に建物が増えている。近頃は民間人の交流が増え、民間人向けの住居や企業の事務所が建設ラッシュを迎えていた。


 ちなみに、イーリスは昨日買ったばかりのあの白いワンピースを着ている。手をつなぎ、僕と歩いているその姿はやはり目を引くようだ。彼女のまるで天使のような姿と、その横にいる気弱そうな不釣り合いな男。確かにこれは、目立つだろうな。


「そういえば、近所に公園ができたんだ。行ってみるかい?」

「公園か、行こう」


 そんな天使のようなイーリスを連れて、新しくできたばかりの公園に入る。

 ちょっと日差しが強く、少し暑い日。そこでは、アイスクリームを売る屋台が人気だった。


「なんだ、あれは?」

「ああ、あれはアイスっていうお菓子の一種だよ」

「アイス……」


 どうやら、イーリスの美味いものセンサーが、この店から何かを感知したようだ。いや、感知も何も、いかにも美味しそうなスイーツありますっていわんばかりのあのど派手な看板を見れば、反応せざるを得ないだろう。

 というわけで、早速その行列に並ぶ。しばらく並ぶと、僕らの番が回ってきた。


「イーリスは、何が食べたい?」

「チョコミントだ!」


 ……どうやら、昨日のカーリン少尉とのお出かけで、チョコミントの味を覚えたようだ。僕は無難に、バニラアイスを選ぶ。

 近くの木の下のベンチに座り、そのアイスを食べる。チョコミントのアイスをスプーンですくい取り、口に運ぶイーリス。

 だがイーリスは、こちらをじーっと見てくる。


「どうした?」

「……そっちのアイスも、気になる」


 というので、僕のバニラアイスをひと口あげることにした。スプーンでひとさじすくい取り、口にするイーリス。

 それを口にした瞬間、ぱぁぁっと顔が明るくなるのが分かる。


「……美味しい……」

「あれ? イーリスって、もしかしてバニラ味は初めてだったっけ?」

「バニラと言うのか。これは初めてだ。もっと食わせろ!」


 およそ元奴隷とは思えないな、最近、すこぶる図々しい。で、結局、半分くらい食われる。その上、自分のチョコミントアイスはちゃっかり全部食べ尽くす。


「しかし、バニラよりチョコミントの方を先に覚えるとか……」

「仕方ない! こんな味だと知っていたら、私はバニラを選んでた!」


 こうして、また新しい味を覚えたイーリス。そんなイーリスを連れてしばらく公園を散策した。

 真っ白なイーリスに、公園の芝生と木々、まるで印象派の描く絵画のような光景が、目の前にある。

 そして公園を一通りまわった後に、宿舎に戻ることにした。


 帰り道は、ちょうど建設ラッシュのさなかの民間人街。車も増えて、歩道にも何人か歩いている。

 建設中の高層ビルの横を通る。イーリスは、僕の左手をつないでいた。


 と、まさにその時だ。僕の耳の奥で、ピーンという音が鳴り響く。気づけば、僕はまた一歩下がったところにいる。


 えっ?ちょっと待って、ここで精霊が発動? 一体、何が起きるんだ? と、僕は僕の方を見る。右手で何かを取り出している。


 なんと、それは銃だ。こいつ、街中で銃を取り出しやがった。イーリスの手を振り払い、左手でその銃の出力ダイヤルを目一杯回す。

 おい待て、まさかこんなところで、最大出力で銃をぶっ放すつもりか!?周りには民間人もいるんだぞ、精霊め、何考えてるんだ!?

 そして目の前の僕は、銃を真上に向け、引き金を引いた。

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