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#1 呪術師との出会い

 この地球(アース)853は、紛争多発星域だ。


 僕がここに赴任して3年で、もう6度も大規模な艦隊戦が行われている。


 今回も、我々はこの宙域を守りきった。だが、連盟の奴らも諦めない。きっとまた、やってくる。

 味方も損害が出た。今度の戦いでも、1万隻中、42隻が失われた。0.4パーセント。数字上は些細であっても、そこには約4200人もの人命が失われた事を示している。家族を持つ人も、当然いることだろう。


 だが、僕は今回もこうして生き残った。

 これは決して、偶然ではない。


 僕は地球(アース)187遠征艦隊、駆逐艦7767号艦所属の砲撃手、ランドルフ。歳は27歳。

 この星、地球(アース)853に赴任して、もう3年が経つ。その間に艦隊戦が6回、少数艦艇による遭遇戦が20回も起きている。そのうち、一個艦隊、1万隻での6回の艦隊戦全部と、数百隻同士の遭遇戦を3回ほど、経験した。

 地政学的に、この星は場所が悪い。12光年離れた場所にある小型のブラックホールのそばに、ワープ航法に必要なたくさんのワームホール帯が集中しているため、いわば宇宙の大交差点となっている。おかげで、連合と連盟の2大勢力が頻繁に衝突している。

 で、3年ほど前、この紛争星域のそばにある、この星が発見された。


 ここは、我々が言うところの「中世」程度の文化、技術を持つ星。ここを我々、地球(アース)187の人間が訪れた時は、ここはまだ群雄割拠な世界。僕がいるこのセントバリ王国は、まさに国を一つ、滅ぼしたところだった。そんな無秩序な世界に、何百年分も先の文化と技術、そして秩序をもたらすべく、我々、連合側は、この星の人々との交流を始める。そして、自陣営への取り込みを図る。

 そして僕は遠征艦隊の一員として、このセントバリ王国へとやってきた。


 だが、ブラックホール紛争星域の橋頭堡(きょうとうほ)ともいうべき場所にあるこの星を巡り、連盟軍の奴らは執拗にこの星目掛けて攻めてくる。

 今回も、1時間ほど一個艦隊同士の戦闘を行ったのち、去っていった。

 だが、今回は本当に危なかった。

 僕のあれがなければ、多分「43隻目の撃沈艦」になっていたはずだ。


「いやあ、今回も助かった」


 地球(アース)853に着いて、艦長から感謝される。他の数人にも、同様の感謝の言葉をもらった。

 だが、これは僕の力ではない。

 その力を与えてくれた人の待つ住まいに、僕はたどり着く。


「ただいま」

「おかえり、ランドルフ」

「はあ、疲れた……でも今回も、精霊のおかげで助かったよ」

「そうか。だが、また精霊が発動したのか。そなた、相変わらず、運がいいのか悪いのか分からぬな」


 彼女の名はイーリス。22歳。僕の妻だ。


「それじゃあ、すぐにやるぞ!」

「えっ!? 帰って早々に、やるの!?」

「当然だ、この後すぐに、何か起きてもいけない」

「そ、そうだね……じゃあ、お願いするよ」


 銀色の髪に、すらりとした身体の彼女は、僕のすぐ前に立つ。そして、両手で僕を顔を抱き寄せる。

 真っ白な肌の彼女の顔が、迫ってくる。僕の顔のそばで、つぶやき始める。


「デア シュピリッチ……アイザ ルガゼット マヌ エラ……」


 呪文を唱える彼女。そして僕の顔を引き寄せ、ゆっくりとキスをする。


「……終わった。これで、いつ危機が迫っても大丈夫だ」

「あ、ありがとう、イーリス」


 僕は思わず彼女をぎゅっと抱き寄せる。クールで白い顔の肌が、ほんのりと赤くなる。


「ゴハンを食べるぞ。もう用意してある」

「うん、そうだね……でも、もうちょっと……」


 お互い、抱きついたままなかなか離れようとしない。僕にとっては、いつまでも抱きしめていたいくらい可愛い妻だ。彼女はまさに、僕の天使だ。


 いや、正確に言えば、彼女は呪術師(シャーマン)だ。


 彼女との出会いは、2年半前のこと。


 その時、彼女は「奴隷」だった。


 ◇


 話は、2年半前に遡る。


 あの頃、僕は気の弱い砲撃手だった。いや、気が弱いのは今でも変わらないが、あの時は今以上に気を強く持てなかった。

 というのも、上司である砲撃長が、とんでもないパワハラ上司だったからだ。


「貴様がぼさっとしとるから当たらんのだ!! もっと気合を入れんか!!」


 駆逐艦内の砲撃管制室は、砲撃手が2人座り、そのすぐ上に砲撃長の座席がある。その後ろには、バリア展開要員がいる。これは、地上のシミュレータでも同じだ。

 このため、砲撃が当たらないと、その度に上にいる砲撃長が怒鳴り散らし、時折足で僕の頭を蹴飛ばしてくる。蹴られれば痛いし、何よりも屈辱的だ。

 そんな日々を過ごしていて、心が(すさ)んでいた頃だった。


 その日も砲撃訓練を終えて、宇宙港内に出来たばかりの司令部の建物を出て、宿舎である高層アパートに向かって歩いていた。

 が、ふと足を止める。そのまま僕は、宇宙港に併設されたこの街の外に向かって歩き始めた。

 今日だけで、17回も頭を蹴られた。艦長も砲撃手への暴力をやめるよう散々忠告はしてくれているが、あの砲撃長は全くやめる気がない。

 軍を辞めて、自分の星に帰りたい……だけど、今辞めたら、免除されている軍大学の学費を払わなきゃならない。全額免除まで、あと最低2年は軍人でいないといけない。

 だが、あの砲撃長の下でもう2年も続くだろうか?気弱な僕は、とても持ちそうにない。


 そんな時、僕はふとある話を思い出す。僕の乗る駆逐艦の乗員の1人が、この街の隣にあるセントバリ王国の王都サン・ティエンヌの街の中央に、いい店があると言っていた。

 といっても、それは奴隷市場のことなのだが、そこで気に入った女性を買い、宿舎に連れ帰ったという話を、その乗員がしていたのを思い出したのだ。


 さすがは、僕らよりも数百年は遅れた文化の街、あまりにも非人道的過ぎる。人が人を買うなんて、何という卑劣な行為だ。気弱な僕はそう考えて、特にこの時は、なんの興味も持たなかった。


 だが、今日はなんだかいつも以上にむしゃくしゃしている。何か、はけ口を求めたくなったというか、そういう気分だ。このため、気づけば僕の足は、思わずその奴隷市場に向いてしまったのだ。


 王都に入る。平民街を抜けると、見るからに治安の悪そうな場所に出た。

 奴隷市場というのは、この王国でも非合法とされる存在だ。だがそこは、その非合法なものであふれる街。周囲からは「沼」と呼ばれている。


 目印である2本の木のポールの間を通ると、そこから先は「沼」の街だ。こころなしか、ねっとりとした異様な空気に変わる。確かにここはまるで「沼」のようだ。周りを見ると、麻薬売り、犯罪請負い、売春宿、入れ墨屋もある。普段の僕なら、絶対に来ることなどない場所だ。

 その奥に、ひときわ大きな店が見えてくる。あれが、奴隷市場だ。


 すでに夕方。薄暗い「沼」の街で、周囲で最も大きなこのお店。たくさんの人がいてもおかしくないほど目立つ店だというのに、静かすぎる。それがまた不気味な雰囲気を醸し出している。

 や、やっぱり帰ろう。そう思った時、中から店主らしき人物が出てきた。


「いらっしゃい! あんた、あっちの街の人でっしゃろ?」


 宇宙港の方を指差しながら、僕に話しかけてくる店主。


「あ、ああ、そうだが……」

「あっちのお客さんも多いんですよ。どうです? せっかくですから、見ていかれます?」


 まるで、こちらの心を見透かしているようだ。まあ……見るだけならいいか。僕は思わず、その店主の誘いに乗ってしまう。

 中には、檻に入れられた人がたくさんいる。2段に積まれた檻に入っているのは、全て女性。聞いた話では、かつてこの王国が戦争を仕掛けて滅ぼした国から連れてこられた娘や、貴族の隠し子、そして金に困って売られた娘など、いろいろな事情で集められた娘たちのようだ。

 ここの買い手は、王国貴族が多かったようだが、最近はどうやら地球(アース)187のお客も多いらしい。進んだ文化を持つ我々の星の人間が、こんな未開の場所に足を踏み入れるなんて……などと言えた義理は、もはや僕にはない。


 たくさんの娘がいる。15、6歳から20歳前後の娘まで、いろいろだ。

 積極的に微笑んで誘う娘、目を合わせずじっと床を見ている娘など、まさに人が「商品」として売られている場所だ。

 しばらく巡っていたが、その店の奥で僕は、1人の女性に目が止まる。


 銀色の髪、真っ白な肌、すらりとした身体をした、妖艶で不可思議な雰囲気の女性。

 これが今の僕の妻、イーリスとの出会いだった。

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