魔王、先代を見上げる
「勇者、お前に見せたいものがある」
晴れて、勇者が(脅して)(強引に)魔王の仲間になった後、魔王がそう言って勇者を案内した先は、城の最上階の廊下でした。
「先代魔王の肖像画だ」
そこに大きく描かれていたのは、黒い鎧を着た大男でした。
甲冑の奥の瞳は赤くギラギラと輝き、見る者に威圧感を与えます。
「つまり、魔王様のお父様ですか?」
「うむ。ちなみに父は魔術や呪いをあまり使わず、パワータイプだった」
魔王は尊敬の眼差しで絵画を見つめます。
「そして、この鎧は受けた全ての魔法攻撃を無力化する。勇者は完全に己の物理攻撃力のみで戦わなければならないが、父は短剣使いよりも素早い動きで斧を振りかざせるため、打ち勝つのは困難だ」
「チート過ぎませんか?」
「それお前が言うか?」
魔王は眉をハの字に曲げます。
「誉め言葉として受け取っておきますね。変顔やめてください。ところで先代の勇者は、どうやって先代魔王を倒したんですか?」
「いや、父は引退しただけで、死んではいない」
魔王は肖像画を見つめ、
「今、母と隣国の『マカロ海を食べつくそう!~マリリア王国一ヶ月の旅~』に出掛けている」
「楽しそうですね」
「毎日ツーショット写真が送られてくる」
魔王と勇者は絵画の前を離れ、赤い絨毯の敷かれた階段を降りて行きます。
「……ところでお前は、一応王の命を受けた勇者なんだろう?」
「そうですね」
「捕らわれた姫と王子が今何処にいるのか、気にはならないのか?」
「いえ特には」
「冷たいなあ」
魔王はばさりとマントを翻し、
「まあ……お前は頭が良さそうだし、薄々勘づいてるかもしれないな」
「自分が冷たいことにですか? 確かに冷え性ですよ」
「そうじゃない。頭悪いなお前。……とりあえずキッチンへ行こう、ホリーがお茶を淹れてくれているはずだ」
勇者と魔王が台所に入ると、そこには少女と少年の姿がありました。
見慣れない人の姿に勇者が不思議がっていると、少年が二人の姿に気がつきました。
「はほふはは、ひゅーははは、ほはへひははい」
「外国の方ですか?」
勇者が隣の魔王に尋ねると、少年は慌てて口に詰め込んだクッキーを飲み込みました。
「魔王様、勇者様、おかえりなさい」
少年はふわふわした金色の髪を揺らし、二人に笑いかけました。
「お茶の用意ができてますよ! このクッキーもすごく美味しくて、ボクたくさん食べちゃいました~」
楽しそうに語る彼、その目の色は左右で違っていました。
右は若葉のような緑色、左は蛍光色のような水色。左の目の中央には、白い星印が描かれています。
勇者がその珍しい瞳を見つめていると、少年はぽっと頬を赤らめ、手で顔を覆いました。
「あの……なんですか? 恥ずかしいです!」
キャーっと乙女のように恥じる少年の姿に、勇者は呆れて蔑むような冷笑を浮かべます。
魔王は勇者の態度に怯え、急いで少女の方に歩み寄りました。
「魔王様、紅茶はいかがですか?」
少女は華奢な白いその手で、カップを運びます。
彼女の胸の辺りまでのびた髪は、艶のある淡い紫色、その瞳は綺麗な薄い青色をしていました。
目と同色の簡素なエプロンドレスに身を包んでいます。
「ああ、もらおう」
魔王は少女の笑みに照れつつ、テーブルの前の木の椅子に座りました。
「お二人は、もしかして……」
その隣に座った勇者が、少女と少年を見て尋ねます。
「ホルテシア姫と、エドワルド王子ですか?」
その言葉に少女と少年……いえ、姫と王子は微笑みました。
魔王「冷え性って、デスクワークでもしてるのか?」
勇者「魔物の駆除ならしてました」
魔王「私の心が冷える冷える」




