魔王、命ずる
魔王が勇者に脅されていた、同じ時間。
魔王城の外では、複数の人影が動いておりました。
「大丈夫かなあ、あの青いマントの勇者さん。城へ一人で入ってから、なかなか帰ってこないよ」
黒いローブを着た魔法使いの女は、心配そうに城を見上げました。
「やはり、魔王にやられたのでしょうか」
戦士の女は隣で剣を磨きながら、魔法使いと同じ方向を見つめました。
「それだったら、全くバカだなあ。同じ勇者の王国出身者として恥ずかしいったら……」
赤いマントの勇者の青年は、石に座って呆れた表情を浮かべました。
彼ら三人は、同じパーティに所属する仲間。
自分たちも魔王討伐を命ぜられ、この城を訪れていたのです。
しかし、所属しているギルドの違いや報酬の関係等で、三人は先に城へ入っていった青の勇者の帰りを外で待っていました。
赤の勇者は、青空にむかってひとつ伸びをします。
「あいつ、全然帰ってこないし、もう死んだんだろ。そろそろ行くぞ、作戦を再確認だ」
そう言って、二人に向き直ります。
「まずは一人目の四天王、ホワイトスライムの攻略から」
「ええ。このスライムは物理攻撃が効かない。だからわたしが中心になって魔法で倒すわ。二人はひきつけて」
「おっけー。二人目、一本角の百獣王」
「最高の速度と力強さを誇る魔物ですね。それはワタクシがこの剣で斬ります」
「任せたぜ。三人目、大毒蜘蛛。これは俺が囮になる、王の加護のおかげで、俺に毒は効かないからな」
まさか四天王が全員同じ部屋にいるなど、そしてそれを既に勇者が倒したことなどみじんも予想していない三人は、順調に作戦を確認していきます。
そうして準備が整い、三人は少し緊張した面持ちで、魔王の城へと入っていきました。
一方、冒険者の訪れを知らない魔王たちは……。
「先程言ったの通り、この私が現在の魔王だ。二人は手下のホリーとエル」
「よろしくおねがいします。さあ勇者様、どうぞお茶でも」
「おせんべいもありますよ!」
「ありがとうございます」
四人は、絨毯に座ってお茶をしていました。
「改めて、よくここまで来た、青の勇者よ。仲間として歓迎する」
魔王は風格ある表情で、座布団に座って湯のみを掲げながら言いました。
「役割などは、また後ほど話し合おう。この城には使っていない部屋が沢山あるから、今後はここに住むといい」
「お心遣い感謝します。ええ、そうさせていただきます」
勇者は微笑み、手下の一人から湯のみを受け取りました。
彼はふと、その手下を見て、
「……ええと、貴女がエルですか?」
「いいえ、私はホリーです」
紫色の頭巾を被った手下は、そう訂正します。
魔王はおせんべいを食べながら、
「可愛い方がホリーだ。魔法が使える方はエル」
「そ、そんな魔王様、ボクもとっても可愛いですよ!!」
「は?! お前男だろう?! いいのかそれで!」
精一杯可愛らしいポーズを取る緑の頭巾の手下に、魔王は驚きます。
「なるほど、可愛い方がホリー、可哀そうな方がエルですね」
勇者は二人の名前を復唱し、エルが首を傾げた、その時。
ガシャンガシャンと、何やら金属音がドアの向こうから聞こえてきました。
「なんだ?」
四人がドアの方を振り返った途端に、バン!と勢い良くドアが、外側から開かれました。
立っていたのは、冒険者の三人。
三人は武器を構え、しかし四人の顔を見て武器を下ろしました。
「なんだあ、村人とさっきの勇者さんか」
「魔王はいないんですか?」
「四天王もいなかったし……どうなっているんだこの城は! おい、そこのザコっぽい手下!」
赤の勇者の言葉に、エルとホリーは反応し、隣を見ました。
「呼ばれてますよ、勇者様」
「呼ばれてますよ、勇者様」
「貴方方のことだと思うんですがね。そして魔王様なら隣にいますよ」
「そうだ、魔王は私だ。ちなみに四天王がいないのはコイツのせいだ」
魔王は食べかけのおせんべいを持った方とは逆の手を高く上げ、赤の勇者に向かって振りました。
赤の勇者は疑わしそうに眉をひそめ、
「お前みたいなモブ顔が魔王のわけないだろう。何だお前。操られた村人か?」
「おっとその台詞を勇者に言われたのはこれで十六回目だ。仕方ない、今回も私の力で……」
「魔王様、お待ちください」
魔王が立ち上がって言いかけたとき、それを青の勇者が阻止しました。
青の勇者はシャリンと剣を抜き、目を細め、
「魔王様が出る幕ほどではございません。ここは僕にお任せください」
静かな気迫を醸し出す青の勇者に、魔王は少し目を見開き、そしてゆっくりと頷きました。
「……わかった。お前に任せよう」
勇者「絨毯の上に座布団……?」
エル「和洋折衷で素敵ですね!」
勇者「いやそうでもないかと」




