7話 レッダと鬼ごっこ4
レッダ・ボイコットという女は狂っている。
彼女は、人の命の尊さについて希薄だった。
殺戮を採取として楽しんでいる。
なぜそんな女に突如、殺されなくてはならないのか
異世界から召喚されたばかりのヒノキ達にはわからなかった。
だが、確実に
死神には見えた。
そして――――――時間が少し遡る。
生徒達が、一目散に召喚された広間からに逃げ出し…
レッダが動き出した直後、ある人物がレッダの前に立ち塞がった。
バッ!!!
「あら?子供が逃げないの?」
「私は子供じゃありません!一番の年長者です!」
レッダ・ボイコットの前に、伊見言葉が生徒を護る為に立ちはだかる。
「殺されるって判っているのに、私に向かって来るなんて頭悪いんじゃないの?」
バカにした目で、伊見を見るレッダ
「あははは!」
「私は、私が出来ることをするだけ…」
ちらっと、広間の前方を見る伊見、そこには、兵士達の亡骸、虫の息のラピスラズリ皇女
そして…二人の生徒の亡骸。
痛みを堪えるように歯を食いしばる。
「……母親が危機に瀕した時、
子供を護るため…どんな行動をとるか貴女は、知っていますか?」
「はっ?」
突然の質問に、不信を抱くレッダ
「私の母は、
大地震が起きたあの日。
一目散に幼稚園にいた私を心配して、走ったそうです。」
伊見が話し出した…
「…結果的に、私も母も無事でしたが…
母の体は左足麻痺の不全状態になりました。」
伊見の話に興味がないレッダが白けたように目を開く
「だからなんなの?」
「ベッドに横たわる母が私に会った時
最初に母が言った言葉は“無事で良かったーーー!!”です。」
キッと伊見がレッダを睨む。
スッ
両手を広げ、後ろの…生徒達が走っていた入り口を塞いだ。
「私を見て、
笑顔で両手を伸ばす母の姿は、今でも忘れられません。
なぜ母がそのような容態になったかと言うと私を心配して、
幼稚園に向かう途中に
解体途中の古い建物があった場所を通ったさい…解体途中の瓦礫が降って下敷きに巻き込まれたからです。」
伊見が微かに震える。
「……そこを母が通らなければ…
私を心配して、幼稚園になんか行かず
避難所に向かってくれていれば…
母は無事だった。
――――――母の姿を見る度に、何度も思ってしまう。」
伊見の長い話に段々イライラするレッダ――――…
「チッ!
―――――何なのさっきから!!だからなに?
くだらない話をして時間稼ぎのつもり?
あんたの母親がバカなだけでしょ?
くだらない!!」
伊見が唇を噛みしめる、少し口角を上げる…
伊見が長い自分の母親の話をしたのは、時間稼ぎのつもりだった。
「―――――確かに…私も母と大喧嘩した日に、何で私のとこに行こうとしたの!
助けになんて来なくたって一人で逃げればよかったじゃない、バカじゃないの!
とカッとなって聞いたことがありますね」
伊見が不敵に笑う。
「…そしたら母は、なんて答えたと思いますかレッダ・ボイコットさん?」
「はっ?」
突然質問され…名前を呼ばれ、一瞬驚くレッダ
まさか、フルネームで呼ばれるとは、思ってもいなかった。
この状況で、冷静に自己紹介を覚えているとは…
スッと伊見が一呼吸し
「“意味なんかいらないでしょ?伊見だけに!"って言ったんです!
苗字とかけてダジャレをね!!」
「…はっ?」
束の間
あっけにとられるレッダの前で伊見が笑った。
2人の尊い生徒達の姿を思い浮かべた。
一緒に過ごしてきた時間…
くだらない事を言ったり大騒ぎしたり、楽しかった記憶
そして、
後ろに逃げて行った生徒達との過ごしたかけがえのない記憶…
「あはっ!」
大体が、身長が低すぎてなめられすぎた思い出が多かった。
ちくしょう!人が気にしていることばかり言いやがってアイツらめ!!
覚えてろ!!
「……私も母の様になりたい…私も強い意志を持って、
子供達に
笑って何てことないぞっ!!て余裕を見せられる大人になりたかった!!」
キッ
真っ直ぐレッダを見返す―――――レッダに強い眼差しを向ける伊見
「だから私は――――――先生になったんだ!!
この職業を選んだんだぁぁぁぁぁ――――――!!
よくも!
私の大切な生徒を傷つけやがって!!
ふっざけんじゃね――――――よっ許さないからなっ!!!
この狂気発狂イカレビッチ女――――――!!
おうおうおう!!!反撃じゃボケ――――――――――――!!!!!!!」
ダッ!!!
緑の上着のジャージを靡かせ、一直線に走った。
勝てないとわかっていても、一分一秒でも、生徒達が生き延びられる道を探せるように時間稼ぎがしたかった。
「うおおおおおおお――――――――――――!!!!!」
伊見先生が、捨て身で特攻した。
レッダ・ボイコットに立ち向かった…
現在。
召喚された広間からつづく、遺跡のダンジョンでは…
方向感覚も、内部構造も判別できない暗闇の中をヒノキ達が進んでいた。
ザリッ
ヒノキを先頭に一同が早歩き、立ち止まり、早歩き、立ち止まり…
を繰り返しながら、迷路のようなダンジョン内部をすすんだ。
「……。」
先程のレッダの奇襲を反芻するヒノキ
レッダが暗闇から奇襲を仕掛けてくるのビジョンを見た時
先読みをし、一手先に反撃を加えられた。
(上手くあいつの視界から俺は、見えていなかった…
これが意味する事は、この状況を打破するうえで大きいはずだよな?)
「…うっうう…ぐぅ」
暗闇がつづくせいか…
最後尾のこよりが恐怖のあまり声を漏らしだした。
後ろからあの女がいつ、迫ってきたらと
考えると怖くてたまらなかった。
「うううっ」
ガタガタ震える歯をどうにか必死に噛みしめて堪えるの精一杯だった。
(…絶対!あの女にビビッた姿は見せないもん!
復讐するんだから
ノリちゃんと明日香ちゃんの為にっ――――――絶対負けない!!)
こよりが怖さを払拭しようと鼓舞する。
…だんだんと――――――…
ダンジョン内のあちらこちらから逃げた生徒達の悲鳴が上がってきた。
「ヒェッ!」
つい声が出てしまうこより…怖すぎる。
「……。」
ヒノキが考える。
(変だ…生徒の悲鳴…暗闇なのになんで、あの女は生徒達の居場所がわかるんだ?)
慎重に注意深く先を選別して進みながら歩いているヒノキ…
あの感覚がなければとても、先に進めない程道が見えなかった。
なのに、生徒の悲鳴が次から、次へと聞こえる…まるで生徒達の場所を把握している様だった。
{あの女にはわかるのか?
暗闇の中で生徒の居場所がわかる方法…例えば
この状況、暗闇…あの女の話を聞いて、俺達はが恐怖し半狂乱で逃げた。
暗闇で叫んでいるから…居場所がわかる?
いや、確実じゃない…それ以外のような気がする…それ以外)
先頭のヒノキが立ち止まり、考え込んでしまった。
「う~ん…」
釣られて歩き出そうとしていた残りが突然、止まられつんのめりそうになった…
「きゃっ!!――――ちょっ!急に止まらないでよ、もう!(怒)」
こよりがラストでもろに反動を受け文句を言った。
「どうしたんですか?椎名君…何か不味い事でも?」
霧花が不安そうに、ヒノキに訊ねる。だが、ヒノキは何も答えない
「椎名くん?」
「ちょっと、休憩しよ~」
ヒノキの返答またずして、神経をすり減らし過ぎたこよりがへタッた。
ヨロッ…とその場に座り込んでしまう。
手を繋いだままなので霧花、大地も連れれて座った。
ヒノキだけが考えに没頭したまま立っていた。
「……。」
(つまり、暗闇で発見する方法、得な事?
俺達の方が不利過ぎる。
最初から考えよう…召喚されて、あの女が現れて俺達にした事…自己紹介…説明…勇者の説明、んで、自分が閃光の勇者と名乗っていた。
…閃光の勇者?)
ヒノキの中で、なにかが一瞬はまる。
「……あ」
広間でレッダ・ボイコットがした一連の説明。
召喚された理由、殺戮の惨状、自己紹介、ステータスの出し方――――――
フォン
一瞬、視界に光が映る。
「……絶対、負けないんだから!」
こよりがキッと睨みながら、自分のステータスを開きスキルを見出していた。
その時
ツキン
「――――――…!」
あの女が、眩しい光を伴いながらこちら目掛けて
ダンジョン通路を高速で駆け抜けてくるのが観えた――――――
…理解した。
答えは簡単だった。
何もわからず、召喚した生徒達がレッダの説明を聞いて唯一頼れるもの、それは
暗闇の中、こよりが出したステータスが眩しく光る。
ヒノキの背筋が凍った。