6話 レッダと鬼ごっこ3
暗闇の先を見据えるようにヒノキが眼を細める。
不可思議な現象にヒノキは違和感を感じたのだ。
なぜ…
「あのラインから先から真っ暗闇なんだ…」
そう、ダンジョン通路前方にて一定の距離から先が境界線でも引かれたかのように真っ暗だったのだ。
どういったメカニズムでダンジョン内部が薄明かりで光っているのか、
彼らには知る由もなかったが、このダンジョン建設時に何らかの方法を用いて、構造物全体がはっきり視認できるように魔鉱石を混合させて建造されているのは間違いなかった。
つまり…ヒノキ達を含めダンジョンに入った生徒達も入り組んだ内部で迷う事はあっても暗闇で前が進めず、自分達がどこにいるのか把握できないなどといった困惑はなかったのである。
そして、ヒノキが見つめる通路前方で暗闇が少しずつ浸食を始めていた。
通路に木霊するようにコツコツとヒールを地面に打ち鳴らし響かす音が近づく…
奇妙なのはコツコツという音と共に、微かにだがズルズルと何か引きずる音が重なっていた。
ヒノキ、大地、霧花、こよりが緊張をはらみながら様子を伺う。
「………ねぇ、逃げよぅよ…」
恐怖に耐えかね先程の怒りもしぼんでしまったのか、こよりが震えながら逃走を提案する。
「逃げたら、私達全員アイツに背を向ける事になる。恰好の餌食だよ」
まだ腰が抜けたように屈むこよりを庇うように、一歩前に出る大地、霧花も大地と並ぶ――…
「くっ…!」
ダッ
ヒノキがこめかみを抑えて小さく呻きながら突然駆け出したかと思ったら、これまた突然迫りくる暗闇ラインギリギリに止まり、壁に寄り掛かった。
「後光さん!二人を右側の壁に寄せて!」
戸惑うこよりと霧花に、大地が直ぐに反応し、ぶつかる勢いで二人を押しやる。
ダン!!
大地が行動を起こしてくれた事を確認すると、ヒノキが眼を閉じ深呼吸をする。
ヒノキの頬に汗が流れる。
その数秒後だった。あの女が暗闇から現れ―――――
「先手必勝!3人纏めて私の糧となりなさい!」
レッダが右手で大剣を振り上げながら、前方3人に直進スタイルで速度を上げ加速すした。
ヒュオッ!!!!!
垂直に握られた大剣、レッダの口がニヤッと笑う。
「あら――――――?」
彼女の眼前には3人の獲物が見えていた。
このまま串刺しにして光爆を仕掛けたら、ミンチになって吹っ飛ぶかしら?
想像する。
ダッ!!
と突如レッダの右横っ腹に圧がかかる。
不意を突かれたレッダが進路を強制的に矯正され――――――そのままの勢いで目標物と反対の左壁に激突した。
爆発を起こしたように壁が瓦礫となり粉塵が上がる。
レッダが数十メートル先の瓦礫に埋まる…
驚く3人をよそに、ヒノキがすぐさま支持を出した。
「後光さん!こっち」
大地が霧花とこよりの腕を掴むと、ヒノキの傍に走りよる。
暗闇のせいで全く先が見えない通路に目を凝らすヒノキ…
「3人とも直ぐに手を繋いで」
状況に頭が追い付かない霧花とこよりが戸惑いながら手を握りあい大地を見る…
「うん…大丈夫!」
大地がヒノキを信じ、こよりと霧花にそう答えた。
こより、霧花、大地の順で手を繋ぎ、そして、最後に大地の手をヒノキがしっかり握る…
「後光さん、絶対俺の手を離すなよ」
真剣な表情で大地を見つめるヒノキにうん!とこちらも真剣に頷く大地
暗闇の境界線に足を入れ真っ暗な世界に侵入する一同。
「…もう先に勝手に行ったらダメだからね」
「え?」
暗闇に浸かる瞬間、ぽつりと小さな声で大地がそうヒノキに呟いた…。
一方、瓦礫の中からレッダが体を起こした。
「…――――――はぁ?
何なんなの?
なんでこの私がこんな目に遭ってんの?
――――――――――――胸糞悪りぃぃぃぃ!」
ガァッッッ!!ガッガッ!!!ザン!!!
足元に積もった瓦礫に八つ当たりをするように勢いよく粉砕する。
短絡的な怒りが――――――レッダの意識を蝕む
今何が起きたのかよりも逃げた奴らを殺さないと気が済まない
ガッと、顏を自分が来た方向に向ける。
「こっのっ――――――!!!」
レッダが、ヒノキ達が消えた暗闇を鬼の形相で睨みつけた…
ヒュオオオ――――――――――――!!!!
閃光の勇者の本領発揮とばかりに、ブンと閃光が一閃された次の瞬間には、レッダの姿は無くなっていた。