2話 椎名ヒノキ ※
今回の文字数は2540文字です。(読了目安5分)
※後書きにキャラ絵あり(後光大地)
椎名ヒノキには、物心がつく頃から変わった感覚が備わっていた。
それは何とも説明しづらく…
その感覚に気付いた当時の幼いヒノキには、到底説明できなかった。
曖昧な感覚は、何となくこうすると良い結果を招くとだけ理解していた。
だからいつもその感覚にヒノキは従った。
寧ろそういうものだとすら思い込んでいた。 また、皆誰しもそういう感覚があるとも思っていた……。
しかし、その思い込みはヒノキが11歳の時に体験した出来事により、まったく違うのだと気づかされた。
その日、なんとなくその感覚が起こり、いつもの通学路を逸れて、別の道から小学校に向かった。
そして
教室で一限目の準備をしてる頃、異変は起きた。
教師や生徒が大騒ぎを始め、誰かが大声で叫びだす――――――……。
「さっき十字路の大道理で車が歩道に突っ込んだって!!」
……その大道理は、小学生達が使う通学路で大半の生徒が行き来していた。
ヒノキの傍では、6丁目の班の子が何人かが巻き込まれて今病院に運ばれたとか、突っ込んだ車も歩道を乗り上げて角のマンションの壁に埋もれた状態だとか・・・教室内で先に着いた生徒や違う通学路だった生徒達が騒いでいた。
ヒノキが困惑する。
「……何でみんなそこを通ったの?やばいって感じだったじゃん?」
ヒノキの近くにいたクラスメイトが意味が分からないという表情に変わった。
「お前何言ってんだよ?・・・椎名」
「え?……だって十字路を通ったらまずいって分かってたじゃん?」
「は?そんなの分かるはけないだろ!お前こんな時に冗談止めろよ!」
ヒノキの何気ない言葉に怒り出す。
いつの間にか、集まってきた他の生徒達もヒノキを囲むように……
「そうだよ、ふざけていい時と悪い時もわかんないの?」
「椎名君家も大道理通った先だったよね?
自分が早く大道理通って巻き込まれなかったからて調子に乗ったこと言わないでよ!」
「最低!」
「5年生と1年生の人が救急車で搬送されたって!怪我した子達だっているんだよ!」
「……1組の船田も車に轢かれて大怪我したって、さっき先生が言ってた。」
「うそっ、胡桃ちゃん………」
教室内の温度が下がったように静かになる。
誰もが言葉をなくし、事故の恐怖におびえだした頃……
「………そんな………だって」
うわ言を呟くヒノキ……思考がぐらついて足元が覚束ない。
その時だった廊下から泣き叫ぶ声が聞こえてきたのは、現場に居合わせひき逃げ事故を間近で見てしまった生徒達が学校に到着した。
誰かがヒノキを突然突き飛ばそうと――――――手を上げる。
ヒノキが解っていたようにそれを避けた。
―――――すっ――――――ガンッ!!ガタ―――――ン!!!
「!?」
ヒノキの後ろに立っていた女の子が巻き込まれて机に殴打した。
誰かが叫ぶ、悲鳴が上がる。
ゆっくりと
奇異な者を見るような目で、次々とクラスメイト達がヒノキを見て――――――…
「お前……キモチワルイ…」
ビクッと肩が揺れるヒノキ。
「……――――――っ!」
眩しい光が、視界を覆う。
体が暴風の中に飛ばされているように風圧に押されていた。
一瞬、走馬灯のように過去のトラウマを思い出して、ヒノキが辛そうに顏を歪める。
あの感覚が自分だけが持つものだと理解したきっかけ
――――――過去の日の出来事。
あの後、自分の不用意な発言に愚かさに気づいた日でもあった。
事件以降、ヒノキを遠ざけるようになったクラスメイト達、それ以降、若干の人間不信になってしまった。
ツキン
「……………。」
また、あの感覚が起きた。
フォン!
光の中のスカイダイビングが治まり、浮遊感が突然終わりを告げる。
突然現れた世界――――――…
「わっ!」
「きゃっ!」
「えっ」
「フゴッ」
「ユワッ」
「ショック!!」
「へブシッ!」
到着した生徒達が落下とともに叫ぶ。
「わっ!?」
「ぐぇえ!!」
ヒノキと大地も数秒遅れて到着した。
「…………ここは?」
そこは薄暗い場所だった。
どこかの国の遺跡だろうか?―――――隙間なくビッシリと築かれた石壁と天井から床に向かって左右対称に長方形の細長くつづく窓枠。
室内の広さは、跳ばされたヒノキ達が先程までいた教室より広かった。
「なっ…!ここはどこなの??」
思わず叫ぶ伊見先生。
余りの出来事に思考が停止しそうになるのをどうにか堪えながら、辺りを見渡す。
起きた状況に理解が追い付かなかった。
「夢じゃないの??何かのドッキリでも~~~誰かのイリュージョンでもないっ!?何コレ!!」
伊見先生の動揺を皮切りに生徒達も叫び出す。
ジャリッ
誰かが近づく
一連の騒動を見ていた人物が正体を現した……
「はぁ~~~い皆さんこんにわぁ!ようこそ異世界・オルトオープラへ、無事召喚されました。
おめでとう!」
室内の正面の暗がりから、女が上機嫌にそうにそう言った。
そして、よく見ると……
右脇に泥だらけの血が点々とこびりついた少女を抱えていた。
「……逃げて……勇者様」
抱えられた少女が微かな声で警告を促す。
「無理だよ~~?第8皇女ラピスラズリちゃん、だってぇ彼らはこれから無慈悲に蹂躙されるんだから?」
今だ状況が呑み込めないヒノキ達、一体何を言っているのだろうか?
……だが
「っ!」
見てしまう。
段々と暗がりに視界が慣れ始めた頃―――――女の背後に十数人の兵士の遺体が転がっていた。
ヒノキ達が一斉に青ざめる。
「―――――私の糧となる為に恐怖をね?」
ニタァっと女が笑った。