第七話 出会い
「ナーギャさん、この二人はこれから一緒にこの寮で生活していくスラドとスリカさん。突然で少し嫌かもしれないのだけれど、よろしく頼むわ。」
ナーギャが女騎士バステに検問所の付近を見掛けられ回収された時から暫くの時間がたったある時。
コツコツと鉄甲で扉をノックする音がしたので開けてみると、そこには見知らぬ二組の夫妻とバステがいた。
突然の訪問に最初は面食らってしまったが、悪い人ではないと感じ取り、バステを真ん中に置く形でナーギャはこの夫妻と話をしていた。
バステは三人とは言わなかった。
理由は単純で、一人とカウントする必要が有るほどの世話が必要としない赤子であるからだ。
そしてそれを理解した上で互いに簡単な話をしていく。
「スリカさんって人気者だったんですか?可愛らしいですしきっと男性からも支持が有ったりして。」
「えー?確かに告白をされることは有りましたけど、やっぱり誰の告白も受けませんでしたよ?だって、こんなにいい人が居るんですもの!」
「あはは、スリカは男性の扱いにかなり慣れてあるところが有るように感じるがね。」
「私もそう思います!それに比べて私と来たら、駄目な男と付き合ってしまったばかりに、罪の無い子供に苦労を掛けていってしまうのが見えています。」
「......やっぱりそのお腹、子供が産まれるんですね、ナーギャさん。」
そう、子供が産まれるのも時間の問題である。
とは言え、産むと覚悟は決めている。
名前だってどうするか決めているのだ、今更止めるなんて事はない。
ナガサワという立派な名前を決めてあるのだ。
「.........で!!いつ頃産まれるんですか!お腹の赤ちゃんは。」
「え?...詳細には分からないんですけど、多分頭痛と吐き気の頻度も高くなってきてるので、一週間中には産まれるかも知れません。」
「あら!お目出度いじゃないですか!ねぇ?スラド。」
「え!?あ、あぁ、そうだね。それにきっとナーギャさんが陣痛を迎えるときには、経験者のスリカが声援を送ってくれる筈だから、ナーギャさんも心強いだろうね。」
「もう!上手いこと言わないでくださいよ!確かに産みはしましたけど、その時の記憶なんてただただ痛いだけだったんですから。あ、でも勿論応援しますからね?ナーギャさんだってきっと頑張れますから!」
「ありがとうございます!スリカさんとは仲よく出来そうですね、ふふ。」
---あ、そうだ!これから産まれてくる子の名前ってどうするんですか?
---名前ですか?実は此処にもう決めてあって、ナガサワって名前にしようかなって思ってるんです!
---素敵ですね!私の子はスズキって名前なんですよ。意味はシンプルなんですけど、単純に私と夫の名前から決めたんです。
そんな半ば友達となった二人の事を寮部屋に置いて何処かへと行こうとするスラドを逃がさんと言わんばかりにバステが手で掴む。
そして一瞬焦った顔になったスラドは、いっそのこととバステの掴む右手を逆に掴み取り部屋から逃げた。
「あんな会話ばかりされては、男には居心地が悪すぎるんですよ。別に男が共感出来る話題なんてもの一つも無いですからね。」
「......私も女の身ではありますが、あの手の空気に慣れている訳ではありません。反って嫌いなのです。」
二人は部屋の扉を閉め、外の空気が吸える剥き出しの広い渡り廊下を歩いていた。
スラドは男であるため、バステは騎士であるためにその空気に堪えることが出来ず、逃げ出してきた状況であった。
二人して何とも言えない状況にびみょうな顔をして居るところに、一人の新米騎士が駆け寄ってきた。
「報告です!バステ下二等騎士殿!」
「どうした?......確か、この前入ったばかりのフォンス上下等騎士だったかな?」
「覚えていただき感謝です!その、検閲所で一人バステ殿に引き取らせたい女性が居るとの事です。何やらまだ小さな子供を連れているそうなのですが、どうだ?との事です!」
「え、まだ来るの。............ありがとう、フォンス上下等騎士。」
......はぁ、私は何時から面倒事を押し付けられるポジションになったのだろう。
昔はこんなことは無かったのだけれど、何時しか次第に任せられるようになっていって、居間ではこれである。
だが、別に悪い気もしないから受けてしまうのだ。
良いことのはずだ。
「その、スラドさん。私は今から2、3時間程で戻ってきますので、[寮内]で静かにしていてください。」
「分かりました、お気遣い感謝します。」
そういうと、バステは直ぐ様何処かへと消えていった。
ホッと一息突くと、スラドはバステが寮内を強調して説明したところに優しさを感じていた。
きっと部屋の中は居心地が悪いだろうから戻らなくても良いという事である。
素晴らしい気遣いだ。
というわけで、暫くの間寮内を歩き回ることにした。
「バステさん、か。いい人だったね。もし私がスリカに出会う前に彼女に会っていればどうだったろうか。」