第二話 望まぬ子供
「---鹿野郎がッ、ガキなんか作りやがって。養う余裕も養う気持ちもねぇんだよ!」
「~~ッ!!あ、貴方が子供を作った原因でしょう!?あんなに避妊はしてっていったのに、私の責任にしないでよっ!?」
「あ"ぁ!?出来るかどうかはお前次第だろうが、ナーギャよぉ?!俺だって避妊するつもりだったんだ、それをお前が足で挟み込んで離そうとしないから」
「はぁっ!!?挟んでなんかいないわよ!私が離れようとしたら貴方が倒れ込む形で無理矢理に押さえつけたんでしょう!?」
聞いているだけでも不愉快になるこの会話、どうやら原因は父親になるであろう男の方にあるらしい。
避妊をすることなく、勝手に種を内部へと撒き散らした、端的に纏めれば恐らくはこうだ。
可愛そうなことだ、こんなのが生まれてくる理由になってしまう赤子が。
ナーギャ「.........分かりました。貴方が育てる気概が無いと、そういうのであればっ。私一人で育てていきます。」
「......嫌々育てなくても良いんだぜ?堕ろしちまえばまた俺と一緒に」
ナーギャ「ふざけないでよぉっ!そんなの、私の体目当てだって分かりきっているじゃない!」
「なっ、んだとぉ?俺の何処にそんな今生が見え透いてたってんだよ?あぁ?!」
ナーギャ「....それなら聞きますけど、私と一緒になったとしても、二度と交渉はしないですか?」
「いや、それ、は。......断言は...出来ねぇ。」
ナーギャ「でしょう。だったらそれは、頭のどこかでただ快楽だけを欲しているって事なんです!もう貴方とは二度と顔を会わせることは無いでしょう。さようなら、タグス。」
タグス「...ッ、ま、待」
がたん。
扉を閉めると同時に、この家の中から人の営みは消え失せた。
たったひとつ、心構えを変えるだけで変わったであろう結果を、彼、タグスは自らの手で捻った。
自爆、としか言いようがない。
元々ナーギャとタグスが付き合い始めた最初の頃は、タグスという男はとても気の優しい男性であった。
町の女性たちからレターや告白を受けることもままあるほどに優れた青年であったのだ。
だが、ナーギャと付き合いはじめてから数年がたったある日、彼は既に人として廃れてしまっていた。
何をしようとしても上手くいかないことの繰り返しによる自身への疑心感が身体中を取り巻き、とうとう付き合っている彼女であるナーギャへ暴行や夜の無理強いをするようになったのだ。
元々気の触れやすい性格ではあった、環境が元凶であろう。
誰が悪いというわけでもない。
だが、結果的に別れる元となったのは所詮自身にあることに変わりなどなかった。
この後、タグスは全てを失った喪失感による孤独から逃げるように、台所の庖丁で手首と頸動脈を切り捌きこの世から消えてしまった。
何とも悲しき一家である。
勿体ないものだ、彼には戦闘における天才的なセンスがあったというのに、それに気付くことなどなく人生を終えてしまった。
ナーギャとタグスの間に設けた、設けられてしまった望まぬ子、名付けたのはナーギャ自身。
名は、[ナガサワ]。
後に英雄の一人として数えられることになる、静かな少年である。
「んぎゃっ♪おぶぇっ♪」
「ふふ、はいはい分かりましたよ~。ママはここに居ますよ~。可愛い可愛い、私の子。」
「大丈夫なんですかナーギャさん、一人で育児なんて。養育費なんか当てでも?」
「いいえありません。ですが、何がなんでも育て上げます、私は。きっと、必ず。......お金は、......分かりませんが。」
「...はぁ、だから心配なんですよ、貴女は。私も同じ女として、いや騎士である身として、厳しく育て上げようという貴女の気持ちは痛いほどに伝わってきます。ですが、気合いだけじゃ無意味なんです。何より、子供のためにならない。」
「......それはそうなんでしょうけど、頼れる人なんてそう簡単には......」
「このバステ-ロルナルス、バルト公国所属騎士の一員としての誇りを賭け、貴女へ協力します。金銭は保証できませんが、赤ちゃんに授乳も出来ない体には絶対にさせません。必要であらば可能な限り、食事は用意します。」
「......ッ......。......すいませんッ、すいませんッ、すいませんッ、すいませんんッ!」
「良いのです。私には外れの町から来たボロボロの貴女を保護する以外に、何一つ出来ることなど無いのですから。貴女の心を癒すことも、治すことも、出来ないのですから。」
ナーギャが数日掛け歩き続けてたどり着いたこの場所は、後に彼等の一軒家が立つことになる、人類生存エリアの中心地点であるナーブ湖の周囲を位置的に囲むように点在する国のひとつ、バルト公国であった。
治安は安全に統治され、良く訓練された騎士による巡回が国民を魔物から守り抜いている。
どうにかなるなどと甘い理想を抱いていた訳でもないが、このままではどうにかなるまでもなく事切れてしまうのは明白であった。
一縷の望みを掛けてたどり着いた時、外門の通過検問所をその時担当していたバステロルナルスの私情によりまぐれで保護された。
これが、ナガサワの将来を大きく揺らすことになるとは誰も思わなかった。
奇跡なのか、この時既にこの国にはナガサワを覗いた二名がバルト公国に辿り着いていた。
奇妙なものである。




