第十四話 強引に
バステ「.........書類を見通して知ってはいますが、改めて一応確認はします。」
スラド「えぇ、勿論。確認は大事ですからね。」
バステ「今回のような場合、受付の者ではなく、連れてきた者が自ら資格証を作ることになっていますから、すみません。」
バステ「それではまずひとつ目。御年齢はおいくつでしょうか。」
スラド「今現在でなら、今は24歳ですね。」
バステ「ありがとうございます。では、前職について、何か答えられる履歴はありますか?」
スラド「うん、あるね、ありますよ。此処に来る数日前までは、ラタト町という場所でしがなく妻と暮らしてました。その時に手紙の仕分けなどをやっていましたね。それと片手間に荷物の配達を。」
バステ「.........はい、分かりました。では次。貴方の得意な分野、苦手な分野等はなんですか?」
スラド「分野。......まぁそうですね、あまり陰湿な人とべたべたするのは好きじゃないですかね、分野...じゃないんですけどね。好きなことなら、まぁいくつかは有るんですが、分野というなら肉体労働とかは得意です。」
バステ「鍛えてるだけはありますからね。ではまた次。これまでに何かしらの違則的な問題などを起こした経歴などは有りますか?言葉だけで構いません、心象と印象から私の偏見でどんな人間かは判断します。」
スラド「はは、それは助かる。......えぇ、有りますね、一つ。それも結構重いかもしれないことを。」
バステ「.........はい。」
スラド「以前ラタト町に住んでるのはもう分かってるとは思うんですけど、実はあそこでは、ストリートファイトって呼ばれている賭け事が有ったんですよ。で、ある時金銭事情でどうしても金が必要になった私は、その賭け場にエントリーしたんですよね、実は。それで、なんだかんだとあって、その賭けの稼ぎ頭だったミゲルって男を、半壊させてしまったんです。」
バステ「.........その手で?」
スラド「えぇ、まぁ。まぁ、その瞬間から暫くは生きていたみたいなんだけど、暫の時が立ってから耳にある情報が入ってきましてね。ミゲルが、脳障害で直後に植物状態になって、急死と。」
バステ「.........人を、殺したと言うことですか?貴方が伝えたいのは。」
スラド「えぇ。それがその時の結果起きたことだとしても、それがなければ死ぬことは無かったのです。であれば、これは見えない拳がミゲル、彼の頭を破壊したのと何ら変わらない。簡潔に言えば、私は犯罪者とも言えるのですよ。」
バステ「えぇ、確かにそうとも取れます。ですが、果たしてそうでなかったとしたら、では貴方は、どうなっていたのですか。」
スラド「.........私が。」
バステ「仮に貴方の拳がそのミゲルという男性を殺すことがなかったとしたら、その代わりにきっと貴方が倒されていたのでは?きっとそうなっていれば、ほんの少し、世界が汚れていたでしょう。貴方は、自分を犠牲に世の中を一歩、いや半歩前へ歩ませたのです。」
スラド「...ふ、そんな風にも取れるのかもね。いや、私には考え及ばず。」
バステ「殺したことのみが起きた事柄だとすれば、貴方は悪でしょう。が、欠けがえのない善なる心と目的が有るのならば、それは善となる。[殺し]は善とは訳しませんが、私から私情で語らせて貰えば、[貴方の行った殺し]は善です。」
スラドは感嘆とした印象をバステに持っていた。
これ程までに芯のある女性なんて、そう滅多には居ないだろう。
そもそもとして騎士であるということから、努力家であることも窺える。
素晴らしい人だ。
もしもスラドがスリカと会っていなかったとして、何らかの切っ掛けで彼女と会っていれば、間違いなく一目惚れていたと思った。
いや、実際今もスリカが居ることを頭で分かってはいながらも、本能が彼女に寄ろうとしてしまっていた。
駄目だとは分かっている。
そもそもこんな考えをしている自分に何処か嫌気が差す。
......だが、もしそんなタイミングが有るのならば、きっとそれは............
すっと立ち上がる。
バステ「...あの、どうしました?まだ最後まで終わってはいませんが。」
スラド「あっ......いや、駄目だね。はは。今更何を揺れているんだ、私は。もう遅い、遅いんだ。」
バステ「.........何がですか?教えてくれないと解りませんが。」
スラド「いや、何でもないですよ。何でも、ね。さぁ、早く続きを終わらせましょう。」
バステ「え?え、えぇ。」
何だろうか、今の彼の表情は。
何故かとても悲しい顔をしている様に見えた。
何か私に不備が有ったのか?
いや、だとしたら一言そうだと伝えてくれれば言い筈だろう。
一体。
バステ「...では、もう一度席に座ってください。」
がたっ。
バステ「それでは次の項目について確認ですが」
ドンッ!
ばたぁっ。
バステ「痛............え?」
突然であった。
机に置かれた紙を見つめるバステを見て何かが吹っ切れたスラドは、不意に彼女の両肩を握り自身ごと奥へと転がった。
二人の体勢は、自然と抱き合うようになっていた。
良く意味が理解できないままのバステにスラドは、
スラド「ごめんね、ごめん。少し、こうしていたいんだ。私も良くわからないんだ......」
バステ「えっ?......へぇっ!?あ、あのっ!奥さんも居るんですし!退きましょう!?あの、スラドさん?聞いてますか?あの、」
ぎゅっと、抱き締める力が強くなった。
お互いに感じる体温が温かかった。
スラド「......暫く、一分だけでいい、お願いです。」
バステ「えっと、はい。」
良くわからないが、バステの人生史上最も緊張する一分間であった。
何故スラドがこんな行動に出たのかは良く分かってはいないが、ただ、これを境に、バステはスラドに対して恋の感情を抱くようになった。
だが、寮に戻ってからも互いにこの事は無かったかのような振る舞いであった。




