第十二話 ギルド
スラド「.........私が?」
バステ「えぇ、私から推薦します。貴方にはその道が有るはずです。」
スラド「.........可能であるのなら。私も少し興味が有りましてね。」
何の話をしているのかを説明する前に、一つ言っておくことがある。
今日予定としてあった学校見学、一旦中止となった。
当たり前である。
骨折したものを連れ回せるか。
だが、では残りの者だけで行けば?となるかもしれない。
それに関しては、一人でも知らぬ者や目で見ていない者が居てしまうと、少なからずこれからのことに影響してしまうかも知れないとのことで無しになった。
現在は奥様方、というよりも女性陣だろう、彼女等は先程までの一連の騒動で疲れたこともあり部屋で休んでいる。
あれだけの事だ、下手をしなくても誰だって疲労に苛まれるだろう。
バステからの提案であった。
そして、スラドも部屋に戻ろうかと思った矢先。
バステ「あの、スラドさん。少し良いですか?」
バステが、スラドに声を掛けたのだ。
何だろうか、と思いつつも痛む体を気にすることなく付いていった彼は、その内に寮をバステと共に出ていた。
一体何なのだろうか、そう思いながらも、真面目な顔であるバステに何かしらの意図を感じ、あまり口を出すことはなかった。
石畳の整備されている町並みは、とても粗野な国外の村や町とは違っていた。
これ程までの労力を動かせるのは、やはり凄いなとスラドは感心していた。
それに気付いていたバステは、ちょんと肩をつつくとスラドを続行して引き連れていった。
町の建築物には独特の魅力を感じた。
赤色の屋根はその場所周辺に活力を感じさせる。
それとは違って茶色の全体色の建物は、どうにも食欲を刺激される臭いが滲み出ていた。
どれもこれもが新鮮であった。
スラド「凄いなぁ、国というのは。どこもかしこもこれ等の水準が適用されているのかい?」
バステ「えぇ。国と言うだけはありますよ。寧ろ、これだけの人間が住まう区域のレベルが外と同じとなれば、公国の貴族方は何をしているのだという物です。」
公国であるからには貴族がいる。
この国の広さは半径で言うと大体10km程度だろうか。
その全体図の中心にボンと有る大きな屋敷が有るのだが、そこに国を指揮する貴族が住んでいる。
貴族とは言っても、国民と近い距離感であり、日頃から人々に慕われている優秀な統率者であった。
それ故に国内の平和はまず崩れることはなかった。
少し話を戻そう。
スラド「ふむふむ、此処は一体何の建物なんです?私を此処に連れてくるのが外出の理由なんでしょう?」
バステ「えぇ、そうです。貴方......いえ、貴方という逸材に出会えたことを、私は誇りに思います。」
スラド「うん?一体何なんですかね。そもそも此処は...」
バステ「そうですね、入りましょう。話も始まりません。」
そう言うと、木製の重げな両扉をバステは押し開いた。
鼻に刺さるような木の臭いと、幾らかの控えめな酒類の臭いが立ち込めた。
此処は、ギルド。
騎士校を出た各階級の騎士達が、国から指示される様々な依頼をこなす施設であった。
だが、別に騎士だけがやる訳でもない。
ここでは、戦士と呼ばれる、依頼のみで生活の一部を、場合によっては全て賄う専門の職種がいる。
戦士として認められる条件に、下二等以上の階級の騎士から推薦を受けるか、或いはギルド自体が提示する幾つかの条件をこなす二つがある。
基本的には前者はない。
単純に、知り合いや身近な人間としてそのレベルの階級の騎士が居ないのが一つ。
そして、その者の実力、ないしは何かしらの能力等を、戦士たるレベルとして認めてもらえないのがある。
当然だ、無駄な危険を国民らに浴びせるわけにはいかない、本当に凄いと言えるほどの者しかこのルートでは資格を得ることはできない。
よって、騎士公認、別の名を「箔資格」と呼ばれる銀のプレートを持つものは、騎士からすらも一目置かれる程だ。
因みに、銀のプレートは、騎士で言う所の三等騎士が持つ銀カード、「シルバー」と同等以上の強さがあることを示す目印にもなる。
さて、真っ昼間と言える明るい時間に男を連れて入ってくるこの女は何だと好奇心込みに視線を向けてくるこの鍛えた体の男等は一体何か?
先述した戦士である。
早速と言わんばかりに入り口正面にすぐ有るカウンターに行こうとする二人組に馴れ馴れしく声をかけてきた。
「うっひぃ。あんたぁ綺麗だなぁ。酒注いでくれねぇか?ん?」
バステ「残念だがそんな暇はない。予定が有るからな。」
「んまぁ、そう固いこと言わねぇでよ。な?一杯だけでも良いからさぁ。」
バステ「......もし酒を注いで欲しかったらその[無箔資格]を公認の[箔資格]にしてから声を掛けるんだな。」
「.........聞いてりゃあんたぁ、さっきから偉そうな口利きやがってぇ。女だからって丁重に扱われると思ったら大間違いだ--」
バステ「...はっ。」
どぉん!
軽く勢いを付けた蹴りで簡単に転ける男。
周囲から笑いが響く。
あまりの恥ずかしさと屈辱に怒り狂った男は、背中に背負う寂れた一本の剣を引き抜く。
背中を向けて受付へ向かうバステに向かっていくつもりなのか、勢いよく床を踏みつけた。
「調子乗りやがってこのアマァァァ!」
バステ「.....ふ。」
おらぁぁぁぉぁ!!
ばがぁぁぁぁぁんっ。
がらごろぉ。
何故だろうか、男の振り下ろそうとした剣は、中心からへし折れていた。
周りの者達も訳がわからず唖然としていた。
その時。
ビチャビチャッ。
スラド「あはは、流石に鉄なだけあるね。バステさんの剣ほどではないけど、幾らか皮をやってしまった。これは痛いね。」
バステ「いいえ、硬さだけならあまり私の物と変わらないです。貴方の手が、硬さに慣れてきたのでは?」
スラド「そうかな?はははははっ。」
「「「「「.........嘘だろ。」」」」」
その時男は瞬間確かに見た。
とんっ。
.....................。
「ひ、ひひぃぃぃっ!?」
黒髪の優しそうなその男の眼が、黒く潰れた視線を自身に向けていたことを。
その時には、男は何かを急ぐように走って入り口から出ていってしまった。
スラド「はは、根性がない。」
あの男、何だ?
知らん、だがあの手、間違いなく異常だぞ。
鉄を折るって、そもそも骨が折れちまうぜ?
バステ「ふ。......それではスラドさん、貴方には今から戦士としての資格を付与します。」
スラド「え、戦士、ですか。それは?」
バステ「簡単に言えば、国民から出た騎士です。騎士等の受ける討伐依頼や防衛依頼などを受けることが出来ます。無論、報酬も確りと払われます。」
スラド「へぇ、それはいいな。」
こうして、10分ほどの沈黙を、二人はこの場に流した。
バルト公国所属専属ギルド戦士スラド、この度誕生。




