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六名の守護者 episode plot  作者: マジキチスマイル
backstory
12/17

第十一話 鉄折りの拳


がぁんッ!どぎぃんっ!ばぎぃんっ!


鉄を鉄に叩きつけるような激突音。

これは、次にある見学の予定までの20分ほどある時間、無駄にしないようにとスラドが行っているトレーニングの音である。


何故こんな到底場に合わない音が鳴り響くのか。

理由は簡単である。

常日頃から色々と鍛えている、とスラドは言う。

そのトレーニング方法が、どう考えても異例の方法であるのだ。


その方法は、今日現在初めてそれを見たラニャが止めようとしてしまった程に、特殊且つ合理的、そして非人道的な手段であった。


手を、鉄に殴り付ける。

いや寧ろ、鉄を粉々にする勢いで殴り飛ばす。

飛ばすとは言っても、ガチガチに鉄線で固定された状態でスラドの胸元辺りに浮かんでいる状態の鉄の延べ棒を、ただひたすらに殴り続けるというものだ。

これは、最初にやろうと言ったスラド本人でさえ悶絶を耐えられないほどの激痛であった。


あの体に力が滾る感覚になった時、スラドの身体は、どうと言い様の無い噛みつかれるような筋肉痛に全身を襲われた。

それはつまり、あの力を使えるとしても、ただ使えるだけでしかなく身体は未々発展途上だという信号であった。

それは、激しい痛みを伴うトレーニング、特訓でさえもやってやろうと思わせるだけに、悔しい思いをスラドに与えた。


こんな柔な身体で、どうやって守りたい者を、スリカを守ろうものか。

いや、きっと無理だろう。

何と言っても、威勢だけで中身がなっていないんだからな。

ならば、作るのみ。

日頃から行えば、必ず見返りはある。

それが例え体に何かしらのデメリットを与えてしまったとしても、それ以上のメリットとしてバックする筈だ。

信じる力は、己の経験となる。

糧となる。

そう信じながらやるんだよ。

私は今までもそうしてきただろう?

だったら、その状況を、今度は意図的に自信の身に降らせるのだ。


それに耐えられるようになり、何とも思わなくなる日が、何時か来る。

そして、何の気のないつもりで、鉄をへし折れるだけの肉体に、作り上げて見せよう。

私は、きっと普通の者とは体か、或いはそれ以外の何かが少し違うのだろう。

どれだけやっても意味の無いと思われるこの行動、やっていて実感するのだ。

あぁ、きっと意味があるのだろうな、と。

そして、必ず何時か、何時の日か、それは来るのだ、と思えるのだ。

2年?3年?それは判らないが。


その為にも、バステさんに頼んでこのバルト公国の鍛治屋から借りて貰った鉄の延べ板、是非とも叩き折って感謝としたい。

いや、するよ。


さぁ、あと7分だ。

極限まで息を止めて。よし、落ち着け。

そしたら、右足を前に出して。そう、左足は後ろに鎮座させるんだ。

右手は前方の対象へと。掌を軽く開きながら突き出す様な体勢に。

左手、肘を軽く脇腹辺りに付け、ゆっくりと、全力で握る。

良し、良いだろう。


此処から。

ここから今度、体の奥に微かに感じる妙にざわつく感覚の何かを、目を瞑り意識する。

あぁ、あるね。

これだ、私の力の根源。

昔何かで聞いたね。魔力、だったかな。

そう、これだ。

体に纏い付かせるのを頭で念じろ。

そうなるように意識。

...............うん、良いね。


最後。

右手の先から右肘へと力を入れる。

そしたら右肘を瞬発的に右脇辺りに引く。

そこから、次に間髪いれずに前方の右足に可能な限り力を入れろ。

爪先から脹ら脛、そこから太腿へ、そして臀部から一瞬で後部の左足の太腿から爪先に力を伝道させ、直ぐ様往復で爪先、太腿、そして左臀部から、ここまでの段階で全体が捻られている背筋を瞬間で全稼働させる。

そして、広背筋から左肩の三角筋へ力を全て移す。

そこから、曲げられた左腕の肘を目線の先にある鉄板へ伸ばす様に直線にする。

ここの段階までに乗った全身の力を少しでも無駄にしないよう、鉄までの一本の軌道、左手を回転させ直進エネルギーを加速させながら乗せる。


そして、此処。

此処のタイミングでーー











あの時の力にスイッチを入れるッ。

このまま突き抜けさせるッ!


がぎぎぎぎぎぎぎっ。


そんな、体の繊維が軋む音がした。


ーーーーーーーーーーーがぎぃぃぃぃぃぃっ!!


スラドの渾身の一撃が、鉄板を直撃した。

全身の筋肉を余すことなく稼働させ、それにより生み出した全エネルギーで体全身の繊維を伸縮。

その時の一瞬の状態のみが、あのミゲルをたった一撃で死に至らしめた狂気の筋負荷に耐えうる、唯一の瞬間であった。


それはつまり、あの力のーースラドのスキルーー本当の威力。


バギョォィィッ。


鉄が、折れた。


が、同時。


ボギャアッ。


スラドの左腕が、開放骨折となった。


スラド「ーーーーーーぁッ!!!」


スリカ「.........ス、スラド!?」


ラニャ「スラドさん、う、腕。それ、骨が。」


スラド「あッははッ。だッ大丈夫ッ痛ッ。」


ナーギャ「そ、そんなはず無い!私は知っています、骨の折れる痛みをッ!しかも、腕の骨なんてッ。私、今からバステさんを呼んできます!今日の見学に、スラドさんを来させるわけには行きません!」


スラド「それはッ、困るね。」


ナーギャ「......な、何でッ!?」


スラド「もう、来ているからね。見ていたんだろう?バステさん。」


スリカ「え?来てた?」


ばっ。


確かに居た。

そして、寮の中庭で冗談半分で渡した厚さ3CMの鉄を宣告通り叩き、いや殴り折ったスラドに、伝えきれない何かを感じた。


こんな男が、もしも騎士であれば。

もし、鎧も剣も使うことなく、五体の強度のみで鉄を割る人間が騎士であったならば。

間違いなく、間違いなく!


バステ「っっっ!!金箔の白銀板(はくぎんばん)を取れたでしょうにぃ!」


スラド「?!急に声を出したと思えば、そんな夢みたいな事を。有る筈がなーー」


ーーバフォォォッ!!


..................。


ガキャァァァァッ!


からからぁんっ。

転がる鉄。


ラニャ「なっ、え!?」


バステ「.........誇張じゃない!!私の振り下ろした鉄剣の横腹を、今!貴方は右手でへし折ったッ。こんなの、普通なら真逆。手首がイカれるか、或いは指が駄目になるはず。」


スラド「.........確かに、普通なら、ね。」


バステ「.........上位者と言える一等階級の騎士には、魔力と呼ばれる生物に宿る力を、意識的に引き出せる者がいる。私の家系でも、今貴方がやったそれが可能な者が一人居る。」


スリカ「え。これが出来る方が他にも?」


スラド「はは、やっぱり凄いな、国は広いだけあるよ。」


バステ「その者はッッ!!現在バルト公国で卒業していった騎士の中でッ!最強の男だ!」


バステ「名前は!.....バステ-エルメレト。この国で唯一、スキルを使う事の出来る男。私の、兄だ。」


スラド「.........なるほど、家族の者でね。」


ナーギャ「.........はっ!?し、出血が酷い!バステさん、話は後でお願いします!さっきので右腕からも出血してますッ!」


スリカ「......スラド、やっぱり凄いのね。だから、私はこの人を選んだのよ。そう、だったら、他の男なんてどうだって良い。」


凄まじい評価を、スラドは受けた。

そしてそれはつまり、自身が満足できるだけの相手が、そして自分等を危険に晒すほどの相手が、この時点で殆ど存在しないことを表した。


スラドは、思い出したように急いで処置をバステ等に施されながら、ぼうっとしていた。


私は、強くなったのか。

いや、そんなはずはない。

そもそも、人を相手にしている時点で規模が小さいんじゃないか?

それならば、人でなければいい。

もっと強い、私では到底勝つのも難しい様な物と、戦ってみたい。

魔物と。




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