第十話 無法者
バステ「此処が食堂です。基本的には朝の中頃、それと同じタイミングに昼と夜で出されます。此処の施設寮は基本的に今貴殿方4名以外にはまだこれからという騎士が数名、そして代表として私が監視を兼ねて生活している程度です。」
食堂でそんな事を話しているバステは心なしかイラついている顔であった。
理由は簡単である。
さっきからわーわーとうるさいのだ。
ご覧いただこう。
ラニャ「これ、美味しそうですね。何て言うのかしら、うーん。」
ナーギャ「読みは出来るんですよ。えっと、多分豚肉の野菜三種和えだと思います。」
ラニャ「良いかもしれないですし、私はこれにします。ナーギャさんは?」
ナーギャ「私はこの根野菜の甘酢煮物っていうのに。美味しそう。お腹の子にもあまり影響がないと良いですけど。」
スリカ「えー、皆もう決まったんですか?私のはどうしよう?スラド、貴方はどうするんですか?」
スラド「え、僕かい?僕はね、この豚鳥の合挽きハンバーグにしようかなって。体力も付きそうだし、日頃から結構動くから重いものを、と。」
スリカ「うっ、参考にはなりませんか。じゃあ、私もラニャさんと同じのにしようっと。」
バステ「......決まったらここの円形食堂の中心カウンターにいる料理人に一言申してください。では、あまり騒がないように。30分ほどで一旦戻ってきます。」
三人「はーい。」
スラド「......はぁ。」
バステ「............スラドさん、宜しくお願いします。」
スラド「分かりました。バステさんこそお仕事頑張ってください。」
こんな感じである。
もうただの世話のかかる子供の集会みたいな雰囲気であった。
これにはバステも驚きを通り越して呆れるばかりであった。
流石にスラド辺りに頼んでおかなければ心配だったので一言お願いしてみた感じである。
だが、スラドにしてみても結構な面倒事であった。
そもそもの対応から分かるとは思うが、スラドは女性への応対があまり得意ではない。
寧ろ、下手に出てしまうくらいであった。
スリカに告白できたのもかなり頑張った結果であった。
なので、頼まれた故に断りはしないが、自分で何をするという訳でもなかった。
お待たせしました、頼まれていた料理でございます。
ごとっ。ごとっ。ごとっ。ごとっ。
ラニャ「へぇ、綺麗な色!それに見ても分かるくらい油が飛ばされているわ。これなら鶏のササミとあまり変わらないかも。」
スリカ「これ、ドレッシングもあんまり描けてないですし、塩分とかもそんなに配慮しなくて済みますね!よーし、頂きますね。」
もぐもぐっ、あ、美味しい!
本当ですね、油が飛んでて口当たりもサッパリ。
ナーギャ「あ、皆もう食べてる。私も頂きましょう。どんな感じの味付けなんでしょう。」
しゅぶっ、しゅしゃぁ。
ナーギャ「......優しい甘さ。それに何だか食欲が刺激される味付けだわ。特にこの芋なんてホロッとなるくらい甘酢が染みてて美味しい。」
スラド「私のは、思っていた通り、重そうだ。にしても、鼻に付くこのピリッとした刺激臭は一体。」
じゅぐっ、はむっ。.........ごくっ。
スラド「お、おぉ、何だこれは。口に広がる味の風味を一段階濃厚な味に上げている。それに全体へとほんの少しの辛味が加味されているのがとても良い。こんな味付け、外の村や町には殆ど無いな。」
ナーギャ「へぇ、そうなんですか。一口貰っても良いですか?」
スラド「え!?あ、いや、別に構いませんよ。でも、それを食べたあとに口に合いますかね。」
ナーギャ「もう、別に心配なんて要りません。それじゃ、あーん。」
スラド「なっ。わ、私が?」
スリカ「ちょっとナーギャさん?私の旦那さんに何しようとしてるんですか、もう!私があげます!はい!あーん!」
ナーギャ「えっーーーッ!!?.........あ、本当だ、美味しいです。それに確かに辛い。」
スラド「でも、あんまり食べ過ぎても駄目ですね、これは。ナーギャさん達は口が小さいからマシですが、男は口が大きい分腹への負担も結構有りますから。食べてて段々存在感が出てきましたよ。」
ラニャ「そんなに美味しいんですか?気になります、私にも下さい!」
スリカ「はいどうぞ!えい!」
ラニャ「..........辛ッ!ちょっと、私は苦手ですね、それ。」
えー!辛味に弱いんですね、ラニャさん。
結構大丈夫かと思ってあげちゃいました、すいません、ラニャさん!
本当だよ。これなら僕があげとけば安心だったかもしれないね。
............何ですか?喧嘩売っているの?スラドー?
ごめんごめん!そういうつもりじゃ!
そんな、楽しげな食事の時間であった。
だが、やはり居るのだな、こういうものは。
スラドは先程から妙な視線に気付いていた。
誰かがこちらを見ている、と。
そして、
ラニャ「私は別に大丈夫ですから早く食べちゃいましょ--」
カキャアッ。
ラニャ「.........え、ナイ、フ。え、痛っ、ほ、頬がっ。」
「なぁなぁ皆さん方ぁ、僕達もその楽しそうな食事会、参加できないかなぁ?」
「あ、拒否権とかねぇから。強制な。おい、そこの男、さっさと席を退け。」
ナーギャ「え、な、何?!誰、貴方達!」
え、僕たちが誰か?いやいや、普通これ見れば分かるでしょぉ、こ、れ!
チャリリィッ。
スラド「.........ワース...上特三等。」
ワース「んーで!連れがミーガ中特三等だぁ。あんたは見分けが付くらしいな。利口なら分かるだろ?俺達は騎士でも精鋭、あんたらは剣もない鎧もないの雑、魚!ある程度見識ついたんなら、さっさと其処を退けや。退け。」
ミーガ「早く退かないと、あんたの横の女に、こいつを刺しちまうぞ。おい。」
スリカ「えっ私。......ス、スラド、貴方がどうにかしてよぉ。」
スラド「............うん、そうだね。こんな弱そうな精鋭、初めて見たよ。いや、人生で一度きりの雑魚かもしれない。」
シュキィィッ!
ミーガ「......お前、次は外さねぇッ!!」
ワース「雑魚、ねぇ。これを見てから言えんのかぁ?あぁ?」
しゅかぁっ。きぃぃぃぃんっ。
スラド「......鉄剣、か。」
ワース「そうだぁ!分かったら今からその首ー」
とっ。
スラド「その首ってのは、この首かな。」
気付いたときには、既にワースは懐に潜り込まれていた。
捕まれている自分の首元。
ワース「はっ、はひゃっ?ほ、ほはへぇっ!はひゃひひゃはへぇッ!!」
スラド「うーん、バステはこれを知っているのか。それにも依るんだがー」
ミーガ「てめぇッ!おらぁッ!」チャキッ
シュバァッ!
パシッ。
ミーガ「.........あ、お、お前、どう、やったんだ。その、ナイフ。」
スラド「投げられたから掴んだだけさ。君も出来るだろう?精鋭なら。素人の私にも出来るんだから。ほらっ。」スッ
シャバァッ!
ギキャァァッ。
ミーガ「......あ、俺のナイフ?え、なんで、俺の足、刺さっ?......痛ぇぇぇぇッ!!ワ、ワース!駄目だこいつ!何かやべぇ!」
バッ!
スラド「離したよ、早く消えなよ。」シッシ
ワース「ヒ、ヒギャァァァァァッ!!」
だっだっだっだっだっだっだっだっだっ。
綺麗な撃退であった。
それを偶々ワース等とすれ違いになったバステは見ていた。
思った。思ってしまった。
この男、可笑しい。
異常な動体視力、運動神経、精神面。
普段の彼とは全く違う。
そして、この戦闘力。
.........剣を持つ私より、もしかしたら強いかもしれない。
そう、思わせた。
ラニャ「凄い!スラドさん凄かったです!こんなに強い人なんて私の夫以来です!」
ナーギャ「助けてくれてありがとうございます。もし居なかったらと思うと、怖じ気が。」
スリカ「流石貴方よぉ!信じてた!」
スラド「まぁまぁ皆、そんなのはどうだって良いから。ほら、バステさんが来てるよ。」
バステ「......ッ!!...先程のは、私の言っていた新米の騎士ではありません。何かしらの用で偶々立ち寄ったのだと思いますので、御安心を。」
何故だ?何故通路に隠れている私に気付いた?
気配は無かった筈。
......まぁ、良いわ。
バステ「それでは、今から学校を一度見学しますので、一旦戻ってお子さんの面倒を見てからまた部屋の外で待っていてください。」
ラニャ「少し休まないと。あ、バステさん、軟膏とかは有りますか?頬を切ってしまって。」
バステ「私が持っているので良ければ。」
こうして、何とか、いや、圧倒的な幕引きで事は終わった。




