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急転直下

「それで、これからどうするの? 魔王を倒しに行く?」

「いや、こちらから攻めることはしない。変に突いて上位の魔王が出てきたら困る。だから、魔王が侵攻してくるまで待つ」

「ふーん。でも序列が上の魔王が攻めてきたらどうするの?」


 魔王について知らない人にとっては当然の疑問だろう。


「それは大丈夫だ。基本的に下位の魔王から侵攻してくる。悪魔は殺せば殺すほど力を増していくけど、自らより下位の魔王との力の差は国を一つや二つ滅ぼした程度では埋まらない。だから、傲慢な魔王達は自らの地位が揺らがない限りは、下位の魔王に獲物を譲ることにしているんだ」

「そうなんだ。魔王が言うと説得力あるね。じゃあ、初めに侵攻してくるのは第七位魔王ってことね」

「そういうこと。というわけで、どっかの町でゆっくりしよう」

「仲間探しはいいの?」

「あー、それね。わざわざ探しに行かなくても魔王が侵攻して来たら強い人が出てくるだろうし、いいかなって。……それにアリスがいるしな」


 最後ちょっと照れくさい事を言ってしまった感じがする。

 別に面倒くさいわけじゃない。そう、面倒くさいから探しに行かないわけではない。


「ふふっ。嬉しい事言ってくれるわね。カズキさんの期待に応えるために、私がんばるわ」

 

 力強く拳を握って微笑むアリスが眩しくて直視できない程だ。

 本当にアリスが仲間になってくれて良かった。かわいくて強い女の子が仲間になったらいいなぐらいに思っていたが、現実になるとは思っていなかった。二千年前は仲間になる人がいなくて脅迫して強引に戦わせたのに。……ん? なんで昔は駄目で今は大丈夫だったんだ? 


 昔は人の領域の七割近くが魔王に侵略されていたから、故郷や家族などを奪われた人が多く、恨みを買っていた。でも今はまだ魔王の侵攻が始まっていないので、悪魔の被害は深刻ではない。こういうのも関わっているのだろうけど、それにしては、随分すんなりと仲間になったものだ。


 何か裏があるなら納得ができる。例えば、仲間になったふりをして油断を誘い、寝込みを襲い殺すつもりとか。だが、アリスがカズキに向けてくる気持ちに嘘はないと思う。そう信じたいだけかもしれないが。何か他に少しでも信じてもいいと思える理由が欲しい。


「どうしたの? カズキさん、少し怖い顔をしているわよ」


 心配そうにカズキの顔色を窺うアリス。そんなアリスを疑うのは心苦しいが、確かめずにはいられない。

 とはいえ、どうやってそんなものを確かめればいいんだ? 

 悩むカズキの目にアリスの腰にある剣が止まる。


 戦神とか名乗っていた神が持っていた神剣だ。神の武器のため人には扱えないはずのものだ。理由としては単純に人が持つには大きすぎるからだ。一応使用者に合わせて大きさを変える能力があるが、人が持ってもその能力を使うことはできなかった。だが、例外もいた。それは神の力を与えた人――神人とでも呼べる人だけだ。


 そう呼べる存在は昔の魔王が駒として作り出した数人だけだ。つまり、アリスは昔作った神人の子孫というわけだ。それなら、あの強さにも納得がいく。

 

 二千年前にやったことが無駄に終わったと思っていたが、まさか神の力が遺伝しているとは。そして力を受け継いだ子孫と会ったことは運命と呼んでもいいだろう。もし、先祖から何か聞いていたら、あっさり仲間になったのも納得はできる。


「……なあ、その剣はどこで手に入れたんだ?」

「え? これは、先祖代々伝わるもので祖父からもらったものよ」

「その剣は誰が作った物か知っているか?」

「……カズキさん」

「な、なんでしょうか」


 少し怒ったように名前を呼ばれて、思わず敬語になってしまう。


「私は悲しいです。何故だかわかりますか?」

「えーと……わかりません」


 少し考えるがわからないので正直に答える。

 怒らせるようなことは何もしていないはずだけど、知らない内に何かやってたのかな。


「カズキさんに信頼されていないからです。私はカズキさんのためなら命を惜しみません。……この剣を私の先祖に渡したのはカズキさん、になる前の魔王ですよね? 知っていて私を試したわけです」

「おっしゃる通りです。僕が全面的に悪かったです。すいませんでした!」


 静かに怒るアリスに土下座で謝る。


「ああ、私の乙女心は傷つきました。それはもうズタズタのボロボロです。これはもう……責任を取ってもらわないといけませんね?」


 アリスは演技がかった口調と大げさな身振りをする。嘘くさい演技だがこの時の僕は冷静さを失っていたため騙されてしまった。


「責任でもなんでも取りますから許してください! …………あ」


 すごく低姿勢過ぎてなんでも受け入れてしまう状態だったため、思わずなんかとんでもないことを口走ってしまったことに遅まきながら気づいてしまった。


「ふふっ。嬉しいわ」


 その嬉しいにもう一つの意味があるのがわかる。自分の策がうまくいって嬉しいのだろう。女って怖ろしい。


「あのー……」

「――まさか、男に二言はないよね?」


 はい、以外は認めないと寒気のする笑顔が物語っている。


「……はい」


 目は口ほどにものをいうとはこのことだったのかと戦慄しながら頷く。それを見て、アリスは満足そうな顔をして、カズキの両肩を掴むと身体を持ち上げて立たせた。

 うわー、すごい。そんな細腕で軽々と持ち上げられるなんてやっぱりファンタジーだなあ、と思う。


「すまないな。もう大丈夫……あの、手を離しても……」

「誓いの…………ふふっ」


 恥じらうように頬を染めながらも万力のごとき力で肩を掴んでいる手は離れない。徐々にアリスとの距離が縮まっていく。


 別に嫌なわけではない。むしろ美少女に迫られてすごく嬉しい。奇声を発して踊り出してしまいたくなる程嬉しい。誰かに見られたら恥ずかしくて死にたくなるからしないけど。なんというか、急な展開に頭が追い付いていけてない。さすがに早過ぎませんかね、と思うわけですよ。


 出会って一時間も経ってないのに。こういうのはもっと時間をかけるものだと思っているわけでして。まあ時間なんて関係ないってこともありますけど、この現状がまさにそれだけど。流されるままになっている僕ってマジでヘタレだと思うよ。

 

答えが出なくても時間は進み、目の前にはアリスの柔らかそうな唇が、もう少しで触れそうなところで――

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