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仲間になった

「ふぅ……」


 手を目の前に掲げ、数度握って開いてを繰り返し、感触を確かめると安堵の息を吐く。魔王の姿に変化しても大丈夫なのは知識として知っていても実際にやるのでは別の話だ。


 それであれ、どうしよう。能力を解除したのに、さっきから微動だにしていない。顔を伏せているから表情はわからないし。


「あー、……大丈夫か?」

「…………」


 近づいて声を掛けるが、反応がない。人族最強とか言っていたから、負けたのが余程ショックだったのかな。悲しい事に一番になんてなったことがない凡人だから、どういう気持ちなのか理解できない。


「おーい、しっかりしろー」


 アリスの肩に手を置き身体を前後に揺するが、やはり何の反応もない。


「…………!」


 そのまま揺すっていたカズキの手が不意に止まる。目を限界まで見開き、驚愕の表情である部分を凝視する。


 それは、アリスの豊満な胸だ。身体を揺らすことによって、こうたぷんたぷんとか、ゆさゆさって感じに幸せな効果音が聞こえそうな程揺れてカズキの視線が自然と吸い寄せられていた。しかも角度的に上から覗きこむことになって谷間がはっきりと見える。


 ……って、何してるんだ僕は!? ……まあ男としては見てしまうのは仕方がない。でもさ、さっきまで一応死闘を演じていた相手に向ける目としてはいかがなものかと思うんだよ。

 

 魔王としての威厳はどこにいったって感じだ。いやそもそも威厳なんかあったかな? 魔王の姿になった時は、それなりに様になっている感じはしたが、その後にこれじゃあ、全て台無しだ。


 その間もカズキの視線はアリスの胸に釘付けになっていた。不意に視線を感じ、嫌な感じがしながらも、ギギギと油の切れたロボットのようにカズキが顔を上げる。

 いつの間に顔を上げていたのか、カズキをじっと見つめるアリスと視線がぶつかる。


「………………」

「………………」


 表情が固まり、冷や汗が止まらない。

 傷心? の少女の胸を揺らして、しかも凝視するなんて変態みたいじゃないか。いやみたいじゃなくて、弁解のしようもなく変態だ。

 アリスがニッコリっと笑顔になる。


「あなた、名前は?」

「……カズキ、だけど……」


 墓にお前の名を刻んでやるてきなやつか? いやまだそうと決まったわけじゃないが、いざとなったら転移して逃げよう。


「カズキ、……カズキ、カズキさんね。

ふふっ……」


 少し俯いているため表情はわからないが、人の名前を呟きながら微笑む姿に、やっぱり駄目だったかと思う。


 不意に、アリスが飛び掛かってきた。完全に油断していた。アリスの広げられた腕がカズキの首に絡まる。左腕を負傷していたはずだが、驚異的な治癒力によって治っていたみたいだ。


 まさかこのまま、絞め殺す気か!? くっ、速く解かな――!? 

 両腕を上げようとしたカズキの動きが突然止まる。麻痺にでも掛かったように身体が硬直し指先一つ動かせない。


 そもそも魔王に毒の類は効かない。これは攻撃をされたわけではない。アリスがカズキに抱きついてきたのだ。そのせいで身体が密着し、胸にとても柔らかいものが当たっている。


 その感触を少しでも楽しもうとするが、アリスの身体が離れる。

 残念に思う内心が表情に出ていたのかアリスがいたずらっぽく微笑むと。


「負けたことなんて今までなかったのに、力で屈服させられたわ。……これはもう、カズキさんに私の初めてを奪われた責任を取ってもらわないと……」


 アリスは頬を赤く染め、しなをつくってくる。


「おいっ! 誤解するような言い方をするなよ。ただ戦って負けただけだろ」

「そうね。カズキさんにとってはそれだけのことでしょうね……。とにかく、決めたわ。私はあなたと一緒にいるわ。これからよろしくね、カズキさん」


 満面の笑みで告げるアリス。


「あ、ああ、よろしく……アリスさん」

「私の事はアリスと呼んでくれていいのよ」

「え、いやでも、一応年上みたいだし、それに君だって僕の事さんつけて呼んでるじゃないか」


 それ以上にかわいい女の子を――しかも会ったのはついさっきで、命を賭けて戦った相手だ――呼び捨てにするのは畏れ多くて気後れしてしまう。


「私はいいの。あなたに敬意と親愛を込めて、カズキさんと呼ばせてもらっているだけだから。カズキさんにはアリスと呼んで欲しいの、だめ?」

 上目遣いに言ってくるアリス。こう言われて駄目と言える男がいるだろうか、いやいない。

「……あ、アリス」

「はい!」


 名前を呼んだだけで、嬉しそうな顔をするアリス。ローブがパタパタと揺れているところを見るのに、尻尾を振っているのだろう。


 なにこれ、超かわいいんだけど。今すぐ抱きしめたいぐらいだ。つい少し前まで傲慢で敵対的な態度をとっていた彼女と同じ人物かと疑いたくなる。


 こうしてアリスが仲間になった。勿論、目的や異世界人という事も話した。


「ふーん。だから、他の悪魔と違ったのね。……ところで他に仲間は何人いるの?」

「いや、いないけど」

「え!? それなら二年間も何をしていたの?」


 何を当たり前の事を聞いているんだと思いながら返すとアリスに驚いた顔をされる。


「二年? 何を言ってるんだ? 僕は今日この世界に来たばかりだぞ」

「ん? でも他の勇者と一緒に召喚されたのでしょ?」

「一応はな」


 二人とも何かが食い違っている事に気付き、話を整理した結果。勇者が召喚されたのは二年前で、その間カズキは寝ていたことになる。


 二年間って長いな!? まあ人間が魔王の身体に馴染むのには時間が掛かったというわけだろうな。


 それにしても、二年か。詩織と日向に会いに行こうかと思っていたけど、二年間も音沙汰なかったら、会うのが気まずいというか、ただでは済まない気がする。……まあその内会うだろうから無理に会いに行かなくてもいいかな。

 

 自分でも思うがヘタレである。嫌な事はなるべくしたくないし、しなくてはいけなくてもギリギリまでしない性格である。

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