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初戦闘

「私を前に悠長に考え事とは、随分と余裕ね?」

「…………っ!」


 光の矢が雨のごとく降り注ぐ。避けることができないほどの密度と広範囲で迫る。咄嗟に魔王として慣れた力を使い、頭上に扉を開く。扉に当たった光の矢は中には入って消えていく。地面に当たった光の矢は爆発し、派手に光と音と粉塵を撒き散らす。


攻撃を防いだカズキが息を吐く暇もなく、光の雨と粉塵の中を何事もなく駆けてきたアリスが剣を一閃する。それを剣で受ける。意外と重い一撃に踏ん張ることなく後ろに跳ぶ。


扉が防いでいる範囲の外に出れば光の雨に撃たれ蜂の巣になってしまうが、問題はない。背後にもう一つ扉を開いてその中に入ると、すぐに扉を閉じて逃れる。


そして、少し離れた所に扉を開いて頭だけを出す。


「賭けをしないか?」


 アリスが手を向けると極光が放たれ、カズキの頭を吹き飛ばそうとする。慌てて頭を引っ込めて扉を閉め、また別のところに扉を開く。


「話くらい聞いてくれてもいいじゃないか! あっ、待って! 逃げるぞ!」


 再び攻撃しようとするアリスに、逃げると何とも情けないことを言うと、こちらに向けた手を下ろしてくれた。


 空間転移ができる僕が逃げに徹すれば彼女がいくら強かろうと、僕を捉えることはできない。つまり、彼女が僕を倒せる機会は今この場を逃せばないということだ。


「……それで、賭けとは?」

「ああ、勝った方の言うことを何でも聞くってのはどうだ」


 彼女が話に乗ってくれた事に安堵する。


「私に何をするつもりなのかしら?」


 アリスは自分の身体をローブに包んで隠しながら、からかうように言う。


「か、勘違いするな。目的の為に協力してほしいだけだ!」

「ふーん? じゃあ、エッチな事を命令する気はないと?」


 身体を隠していたローブを開いて腕に引っ掛けるようにして魅惑的な身体をカズキに見せつけてくるアリス。肩がむき出しで白い肌が眩しく、大胆に開いたドレスの胸元に視線がいってしまう。


 さっきまでは緊張して見ないようにしていたけど、僕だって健全な男だ。その豊満な膨らみを見るなと言う方が無理な話だ。とはいえ、今はそんな状況ではない。本能を押し殺しさりげなく視線を逸らす。


「…………当たり前じゃないか」

「今の間は何かしら」


 ジト目でカズキを見てくるアリス。


「る、ルールは、相手を戦闘不能にさせるか、負けを認めさせれば勝ちだ」

「誤魔化した」

「……で、受けるのか」


 あくまでカズキはしらを切る。


「勿論、受けるわ。私が勝つのは決まっているから」


 自信たっぷりに言うアリスからは、負けるなんて微塵も感じさせない。本当に勝ってしまいそうな雰囲気だ。というか、何で最初からこんなに強い人とあたるんだろう。涙出てきそう。


 でも、勝てば何でも……ごほんごほん。いや別に何かするつもりはないよ? 本当だよ? 美少女に対してヘタレな僕にそんな度胸も勇気もないから。


 とにかくアリスを殺さず、戦闘力が落ちるような大怪我を負わせることなく勝たなくてはいけない。対してアリスは、僕を殺す気でくるだろう。条件は厳しいかもしれないが、これからもっと強い魔王相手に勝たなければいけないのだ。ここで躓いていられない。


「まずは戦いの舞台を整える」


カズキが言うと同時に、世界が色褪せ音が消える。


「これは!?」

「別空間に転移しただけだ。これで外に漏れる心配はない」

「ふむ? 何か見られたら困ることがあるのかしら?」

「君が気にする必要はない。これで全力を出せる。勝つのは僕だ」

「いいえ、私よ」


 どちらも一歩も引かず己が勝つと宣言する。

 最初に仕掛けたのはカズキだった。


「――断ち切れ!」


抜刀と同時に手加減抜きで魔力を込めた斬撃を放つ。視界に映る全ての物を粉々に吹き飛ばす。聖剣を振り切った勢いのままに後ろを斬りつける。


 カズキが斬撃を放つ直前に素早く退避し、後ろに回っていたアリスが振るった剣と衝突し、凄まじい衝撃波が周囲に吹き荒れ地面が陥没する。鍔迫り合いしている間も神剣から発せられる白銀の輝きに皮膚が焼ける感覚と共に身体から煙が立ち上る。


 カズキは収納空間から氷できた透き通る刀を取り出し、開いている左手に持つ。


「凍てつけ」


 次の瞬間、冷気が刀から溢れ出し世界を凍りつかせる。全方位に放たれた冷気から逃れる手段はなくカズキの目の前には、球形の氷ができている。魔力で障壁を張って防いだのだろうが、これで逃げ場はない。

 

全力の一撃を叩き込もうと、聖剣を大上段に振り上げた瞬間――


「――――ッ!」


 氷の中からまっすぐ伸びる白光がカズキの腹を貫いた。


「この程度で死なないよね? 私に勝つつもりなのでしょう?」


 氷を斬り崩して悠々と出てきたアリスが挑発するように言う。


「はっ。なんだ? この程度で勝ったつもりか?」


 腹に穴が開いても不敵な笑みを浮かべ、剣を構え直す。

 表面上平気そうにしているがすげぇ痛い。普通の人間なら致命傷だし。転げまわって叫びたいぐらいだ。


 いや、しかし困った。予想以上に強い。生け捕りなんて甘いこと言ってたら負けるかもしれない。今傷を負っているのは戦闘経験が圧倒的に不足しているため、魔王の力を活かしきれてないからだ。身体に染みついた記憶や経験を自分の物にするには時間がいりそうだ。


 長期戦になるほど戦闘経験の差が顕著にでてくるだろう。だから短期決戦で決める。膨大な魔力にものをいわせた最大火力を叩き込んで終わらせる。これしかない。

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