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決着

今日二話目です。

 念話を終えたカズキは剣を大上段に構え直す。

 アビスより弱いなんてことはこの戦いで嫌という程理解した。

 チャンスはこの一度きり。僕の全てを懸ける。


 全身を魔力で強化し、真っ直ぐ駆け出す。

 一歩一歩ごとに大地が爆ぜる。


 アビスは闇を構えて待ち構えている。

 アビスの間合いに一歩でも入れば、カズキの身体は両断されると錯覚させる程の凄まじい迫力を放っている。


 だが、今さら怖気づくことはない。既に覚悟を決めてこうやって進んで、やると決めたんだ。

 アビスの間合いに足を踏み入れる直前に、神速の一刀が振り上げられる。


 このままでは、闇の一振りをまともに受けて死ぬ。

 踏ん張って止まろうとしても、一度付いた勢いを完全に殺すことなどできない。

 だから、今この一瞬だけ自らの身体を空間に固定する――


 カズキの身体が不自然なほど急に停止する。


「がっ……!」


 突然壁に衝突したようだ。身体がバラバラに砕け散りそうな激痛が全身を襲う。

 だがそれがどうした。これぐらいやらなきゃアビスに一撃を入れることはできない。


 闇がカズキの身体を斬り裂くために迫りくる。

 もしも、間合いを測り損ねていたら終わりだ。この一瞬が何秒にも引き伸ばされているようにゆっくりと感じる。刻一刻と闇が迫り、今にも触れそうだ。もう当たってもおかしくないくらいに近い。そして遂に、闇が振り抜かれた。


 ――まさに紙一重。

 

 躱した。


 空振りした。今だ。今しかない。


 大地を踏み砕き一歩前に出る。杭を打ち込んだかのように踏みしめ身体を固定する。腹に力を入れて、剣を振り下ろすための両腕に力を込める。そして、凄まじいまでの魔力により光り輝く剣をアビスへ向け一直線に振り下ろした。

 

 アビスは驚きに目を見開いた表情のまま、左肩に刃が食い込み、まっすぐにその身を断ち切る。

 そして――


『……終わりだ』


 闇による刺突がカズキの胸を貫く。


「がはっ……」


 刺し貫かれた胸から闇が全身に侵食してくる。不思議と痛みはない。闇が入り込みカズキの身体を破壊していくのがわかる。自分という存在が刻一刻と闇に塗りつぶされていき消えていく。自分が自分でなくなっていくような変な感じだ。これは、もう助からないかもしれない。


 わかっていた。アビスが刺突を放とうとしていたことは。

 速いだろ。空振りした後に防御しないで、そのまま流れる様に反撃してくる動きが速する。


 誰が死ぬとわかっていて足を踏み出すだろうか。例え相打ちになってアビスを倒せても死んだら勝利とはとてもいえない。


 躱そうと思えば躱せた。でもそうなると、せっかくのチャンスを無駄にすることになる。同じ手は二度と通じないだろう。

 

 それでも引くべきなのだろうし、アビスも引くと思っていただろう。カズキは魔王で悪魔なのだ。悪魔は自らの命を犠牲にしてまで他者を殺そうとはしない。自らが強くなるために他者を殺すからだ。だからこそ、アビスに一撃与えられた。


 カズキの手から剣が落ちる。


「まだだッ!」


 だらりと下がった腕に力を込め、闇を持つアビスの腕を黒く染まった手で掴む。

 僅かに残った魔力を振り絞り、一瞬、ほんの一瞬だけ、アビスを空間に固定し、身動きの一切を封じる。


「今だッ!! やれッ!!」


 カズキの合図でアビスの背後から、裂帛の気合を込め、剣と拳を振り上げたアリスと詩織が飛びかかる。


「はぁああああああ――!」

「やぁああああああ――!」


 全魔力を込めた最後の一撃。

 アリスと詩織の渾身の一撃は、アビスの身体を全身を闇に飲まれたカズキごと両断し、打ち砕いた。

 吹き飛ばされたアビスは地面を転がっていき、倒れたまま動かない。


 カズキの姿はどこにもない。アビスと一緒に吹き飛んだカズキの剣だけがさっきまでそこにカズキがいた証だ。


「なんで……約束したじゃないっ! 生きて帰るってっ……!」

「そんな……こんなの嫌だよ……」


 魔力を使い果たし、カズキの死という事実に、アリスと詩織は立っていられる力も精神力もなくなり、その場に崩れ落ちる。涙が溢れてきて頬を濡らして止まらない。

 だが、現実は悲しみに浸る時間をくれない。


『悲しむことはない。私をここまで追い詰めたのだ。誇っていい』


 アリスと詩織の前に傷一つないアビスが立っている。


「カズキさんが命を懸けたのに……無駄だったっていうの……」

『無駄ではない。あと少しで私を滅ぼせていただろう』


 アビスが手を前に出す。指先から崩れて細かい塵となって消えていっている。

 見た目は元通りだが、傷が治ったわけではなく以前満身創痍の状態だ。


「くっ……」


 アリスは剣を地面に突き刺し、それを支えに震える足で立ち上がろうとする。ただ立ち上がるだけの動作にも支えがないとできないほどに疲労している。立てても剣に寄り添っていないと倒れそうだ。


 詩織も立ち上がろうとするが、支えがなく倒れてしまう。カズキの仇が目の前にいるのに何もできないことに憤りを覚え唇を噛みしめ、アビスを睨みつける。


『無駄な足掻きはよせ。戦いはもう終わった。貴様らの負けだ』


 アビスが手を掲げると、闇が生み出されその手に収まる。そして、アリスの頭上に闇が振り下ろされる。

 アリスは目を見開いて最後の瞬間を見ていた。仇を前に目を逸らして逃げるような無様を晒したくなかったからだ。だからこそ、それを見逃すことはなかった。


 ――アビスの胸から剣が出てきた。


「いいや、僕達の勝ちだ」


 アビスの背後から剣を突き刺したカズキがいた。

 剣が刺さった場所から亀裂が入り全身に広がっていき、アビスの身体が崩れ落ちて消えていく。


『ハハッハハハハハハ――!』


 アビスは完全に滅びるまで笑い続け消え去った。

 今度こそ戦いは終わった。

 全ての魔王は滅んだ。


「――――っ」


 アリスが倒れ込むようにカズキに抱きついてきた。カズキも弱っているために踏ん張ることができず一緒に倒れ込んだ。カズキの存在を確かめるように力を込めて抱きしめてくる。


「くっ……苦しい。手加減してくれ」

「おかえりなさい」

「ああ、ただいま」


 そう言って微笑むアリスの頭を撫でる。


「カズキ――!」


 這ってきた詩織までもカズキの上にのしかかる。


「ぐぇ。重いんだよ。身体がもうボロボロなんだよ」

「情けないこと言わないで、女の子二人くらい受け止めて、馬鹿」


 悪態を吐きながらも頬が緩んでいる。

 アリスと詩織の嬉しそうな様子を見て本当に生きていて良かったと思う。


 三人とも命に別状はないが歩くこともままならないぐらいに疲労している。戦いは終わったのだから、別にいいのではないのか思ってしまうところだがそうもいかない。


「このままゆっくり休みたいところだけど、動けるようになったら逃げるぞ」

「「?」」

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