表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/33

決戦 1

決戦当日、日の出とともに目が覚めた。日の出と言っても曇っているため太陽は見えない。天気は良くはないが、晴れだろうと曇りだろうと関係ないので構わない。特にやることもなく約束の時間まで時間があって暇を持て余していたので、準備運動がてら身体を動かすことにした。アリスと詩織も少し落ち着かない感じだったから、決戦に響かない程度に軽く剣と拳をぶつけあった。


 そして、約束の時間の一時間前、カズキ達はとある山の茂みの中に身を隠していた。双眼鏡から見えるのはここから数キロ離れた荒れ地に刺さっている一本の剣だ。

 一時間も前にこんな場所にいるのは、アビスがいつ現れるかわからないからだ。それと、仕掛けた罠に巻き込まれないようにするためだ。


 さすがに早すぎたようでまだアビスは来ていない。一時間くらいとはいえ、気を張り続けたら疲れるので、交代で見張りをすることにした。

 カズキはアリスと交代をして近くの気を背にしてくつろぐ。手持ち無沙汰なので、棒状の物で先端にスイッチらしきものがあるものを手の中で回す。


『カズキ、間違えて押したらシャレにならないからそれで遊ばないで』


 隣に腰を下ろした詩織が注意してくるが、本当に押すとは思っていないため軽く嗜める程度だ。事前の話で今日は念話のみでやりとりをすることに決めておいた。戦闘中にアビスにこちらの作戦を気取られないためだ。


『勿論わかっている。これが失敗したらほぼ終わりだからな』

『わかっているならいいけど。それにしても、正々堂々とか言っておきながら、こんな罠仕掛けてるなんて鬼畜ね』

『魔王らしくていいんじゃないか? それに戦いというのは勝てさえすればいいんだ。死人に口なしていうしな』


 その後、他愛ない会話に花を咲かせて、交代を何回かして、約束の時間まで残り一分となった。


『見える範囲にはいないけど、いつ来るのかな?』

『時間ぴったりに来るんじゃないか? 時を操る魔王だし』

『おそらく前回と同じ様に突然現れると思うわ』

『そろそろ時間だな』


 カズキはスイッチに指をかけてその瞬間を待つ。いざその時が近づいてくると否応なしに心臓の鼓動が早くなる。額に汗の玉が浮かび、手汗が出てくる。手が滑らないようにしっかりと握りしめる。大きく息を吸い、ゆっくり息を吐く。そしてその時は来る――


『来たわ!』


 約束通りアビスが剣が刺さった場所に現れた。

 カズキがアビスの存在を認識した瞬間、スイッチを押した。


 次の瞬間、目を焼くほどの閃光と地を震わせる爆音が起きた。アビスがいた地点どころかその周囲数キロに渡って全てが吹き飛んだ。雲まで吹き飛ばしたが舞い上がった土砂で以前暗いままだ。


 とっておいた霊脈弾六発全てを昨日地中に埋めておいたのだ。ただ爆発させただけでなく、爆発に指向性を持たせて真上のアビスに叩き込んでやったのだ。その直撃を受ければカズキでも死ぬだろう。

カズキ達のいるところまで肌が焼けるような熱波が届き、目を細めて爆心地を見るが粉塵のせいでその姿は見えない。だが、確実に生きている。今ので死んでくれるのなら苦労はしない。


『行くぞ!』

『ええ!』

『うん!』


 アビスの能力を封じるために空間転移はできないので、抜刀して茂みから跳び出し駆ける。十数秒で駆け抜けて砂煙立ち上る地点に辿り着いた時、突風が吹き荒れ視界が開けた。

 爆心地にはアビスが変わらぬ姿で存在していた。


『そんな……無傷なんて……』

『いや、見た目は変わらないが、魔力量が結構減っている。確実にダメージは通っている』


 距離を取ってアビスと対峙する。


『これはどういうことかな?』

「これ、と言われてもどれのことを指しているんだ? ……この爆発なら、開戦の狼煙を上げただけだから気にするな。今から正々堂々戦ってやる」

『それはいいだろう。何故私の力が使えない』

「あんたの力はチートすぎるから使用禁止にさせてもらった」

『そうか』


 怒っている様子は見えない。むしろ、笑みは浮かべてこの状況を楽しんでいるようにも見える。


『囲んで攻撃する! 正面は僕がやる。何をするかわからないからあまり突っ込みすぎるな!』


 アリスと詩織が左右に散らばり回り込むが、気にした様子はない。まだ余裕なのか、それともこれで普通なのか。どちらにしろやることに変わりはない。三方向から一斉に斬りかかる。

 悠然と佇むアビスは無手だ。だからといって全く油断できない。


 アビスがおもむろに手を上げると、その掌から黒いものが出てくる。それは揺らめく炎であり、不気味に蠢く闇の塊であった。黒い闇が剣を型取りアビスの手に握られる。

 それを見た瞬間、背筋が凍りつくほどの怖気に襲われた。本能であれに触れてはいけないと悟る。


『あの剣に触れるな!』


 警戒を発して、カズキは予備で腰に下げていたもう一振りの剣を左手で抜き放ちそのまま斬る。アビスはあっさり闇でカズキの剣を受けた。切っ先が宙を舞う。剣が闇に触れると何の抵抗感もなく刀身が斬られた。いや、斬られたというよりは消滅したと言ったほうが適切かもしれない。


 剣先を失った剣の断面は闇が付いて黒く染まっている。まるで生きているかのように蠢く闇は急速に広がって剣を飲み込んでいく。慌てて剣を放り捨てる。見る間に闇に飲まれた剣は形を失い欠片一つ残すことなく消滅した。


 カズキの剣が消滅したのを見たアリスと詩織は攻めるのをやめて一旦距離をとる。

ちっ、アビスの闇に触れたら終わりか。これでは、かすり傷一つでも負えば死ぬ。まさに一撃必殺だ。しかも防ぐことはできない。全ての攻撃を避けないといけない。

なら、近づくことなく遠距離戦に持ち込むべきだろう。


『アリス、詩織タイミングを合わせて遠距離攻撃を仕掛けてくれ』


 カズキは剣を振るい斬撃を飛ばし、アリスは無数の光弾の斉射、詩織は拳圧による衝撃波を放つ。

 全て直撃した。アビスは迎撃することなくその身に受け、当然のように無傷でいる。


 生半可な攻撃では防御を突破してダメージを与えることはできないみたいだ。ダメージを与えるには、魔力を一点集中させた攻撃しかない。でも、アビスに攻撃を通すほどの魔力を放ち続けたらすぐに魔力が尽きる。剣や拳に魔力を収束させて戦えば、魔力の消費は抑えられる。だがそうなると、接近戦をしなくてはいけない。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ