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魔王転生

 随分と長い間眠っていた気がする。


 ゆっくりと意識が覚醒する。そこは見渡す限り草原だ。

 なぜ自分はこんなところにいるんだろう? 靄でもかかったみたいに記憶が酷く曖昧だ。少しずつ思い出していけばいい。まずは名前だ。


「……僕の名前は、風間、カズキ……」

 うん、名前は思い出せた。自分の身体を見下ろしてみる。紺色のブレザーの制服だ。僕が通っている高校の制服だ。他には……


 その時、何かがカズキの後ろに重い地響きと共に降ってきた。後ろを振り返ると、毒々しい紫の化物がいた。三メートルはありそうな巨体、細く長い四肢、硬そうな表皮、大きな翼、鋭い牙が並んだ凶悪な顔。それが二体いる。


「ニンゲン、メシ、メシダ、オレガクウ」

「ハラヘッタ、オレモ、クイタイ」

「ジャア、ハンブン、スル」

「ワカッタ、ドッチ、サキクウ」


 化物二体がカズキを食べる相談をしているが不思議と恐怖はない。なぜだろう? あごに手を置いて考える。そういえば、こいつら何か見覚えがある。化物の知り合いはいないはずだけど、そもそも地球上にこんな生物はいない。じゃあ、どこで見たんだろう? もう少しで思い出させそうな……


「オレ、サキ」

 首を捻っていると、カズキの身体が化物に掴まれ持ち上げられる。


「う~~ん」

 それでも唸りながら思い出すことをやめない。あと、もうちょっと、すぐそこまで出かかっている。


「イタダキマス」

 化物が大きく口を開けて、カズキを頭から丸かじりにしようと上半身が口の中に入り、その口が閉じられ、血肉を撒き散らす。


「ギャアアアアアア」

下顎が吹き飛んだ化物が悲鳴を上げて倒れる。その手から解放されたカズキは右腕を振るって付いた血を落とす。


「うん、思い出した。悪魔だ。下級悪魔だ。……おっ、他にも思い出してきた」

 目の前にいる下級悪魔を無視して記憶を探るのに集中する。隙だらけに見えるカズキへ無傷な方の悪魔がその爪で引き裂こうとしてくる。


「邪魔……」

 ひらりと躱し懐に入ると無造作に腕を振るう。すると、胴体が弾け飛び悪魔は動かなくなる。


「ウソー。コイツ、ヤバイナー」

それを見た下顎のない悪魔が緊張感の感じられない平坦な声を上げると、翼を広げ飛び立つ。


「……あー、逃がすのはまずいかな」

 地面を踏み砕いて悪魔へ向かって一直線に跳ぶ。そして、その無防備な背中に蹴りを放ち叩き落とす。潰れた悪魔の姿を確認して地面に着地する。


「ふうー、まさか下級悪魔風情が襲いかかってくるとは……うまく人間に化けられているということか」


 全てを思い出した。そう、風間カズキの人生は終わったのだ。もう人間ではない。悪魔になったのだ。それもただの悪魔ではない、悪魔達の王――魔王だ。魔生の始まりといったところだろうか。


 魔王になったわけだが、僕は僕のままだ。僕の人格はそのまま残っている。しかし、人間だった時と全く同じというわけではない。何千年も生きてきた魔王の記憶を持っているのだ。たかが十六年しか生きていない僕がその影響を受けないなんてことはない。実際に今もまるで魔王みたいな発言をしてしまっている。


 そもそも何でこんなことになっているのか。二千年前の戦いでこの魔王が神に負けて滅びかけていたからだ。魔王の魂が消滅し、空っぽの器になっていたが、魔王の適格者として僕が選ばれたわけだ。何で僕かは偶然みたいだ。


 死んでなお目的を果たそうとする執念は恐ろしいなあと思う。元の魔王とは別人では目的を果たせないのではと思うが、選ばれるだけあって魔王の目的達成に反対はない。


 目的は、七体存在する魔王を滅ぼし、自分が頂点に君臨すること。

つまり、自分以外の六体の魔王を滅ぼして自分が最強になりたいということだ。これは、力を求める悪魔として当然のことだが、自分より上位の存在に歯向かう悪魔は普通いない。この魔王はそのあたり異端なのだ。


 おそらく、異世界に召喚された理由も復活した魔王達を滅ぼしてくれ、といったところだろう。やることは変わらないし、むしろ普通に召喚されるよりも強大の力を手に入れている今の方がいいだろう。


 今の自分はこの世界で最強クラスの力がある。それこそ、国の一つや二つ滅ぼせるだけの力を持っている。それだけの力を持っていても、一人では全ての魔王を滅ぼすことは不可能だ。


 もう無理ゲーすぎて、家でゴロゴロしていたい。毎日が休日みたいなものだし、誰に何を言われるわけでもないし、怠惰に日々を過ごしてもいいが、そうしたら、人類絶滅する。なんで僕がと愚痴りたい気持ちはなくはないが、まあ面白そうだからやるけどね。普通に暮らしていたら、世界を救う機会なんてないだろうし。

 

 重要な事だが、七体いる魔王の強さは同じではない。第一位から第七位まで明確に強さが決まっている。だから、自分より上位の魔王には勝てない。だから、人間の力を借りることにしたのだが、当然のごとくうまくいかなかった。


 人間を滅亡させようとする敵の言葉を信じるわけがなかったからだ。騙したり、脅迫したりと色々と試したがほとんど失敗に終わったが、一つだけ成功と言えるものがあった。


 人間の子供に神の力を与えたのだ。神の力は滅ぼした神から奪い取ったものだ。神が与える加護より強力なもののため、ほとんどの人間は大きすぎる力に耐えきれず死んだが、数人だけだが成功した。


子供なのは小さい頃から洗脳した方がより強固で優秀な駒として使えるからだ。そして、いざ実戦で使おうとしたが、神に敗れ魔王達は封印されてしまった。


 二千年も経って寿命で死んでいるだろうし、肝心の魔王も封印されて目的を達成することもできない。こんな状況では期待はできないが、一応確認ぐらいはするか。

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