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前夜

「アリス、詩織、そろそろ移動しようと思うんだが大丈夫か?」

「ええ、それでどこに行くの?」

「私も大丈夫」


 付いた土を払いながら立ち上がる。


「町まで行く」


 町に繋がる扉を開いて、カズキ達は扉をくぐって町まで転移する。


「……悪魔?」


 詩織の言う通り目の前に下級悪魔がいる。

 普通に町中に悪魔がいるのはおかしいことだろうが、魔王が通過した後の悪魔に滅ぼされた町なら残っていても不思議ではない。


「なんでこんなところに来たの?」

「面倒事を避けるためだよ。もしかしたら僕が魔王って事がバレているかもしれないから、人がいないところを選んだだけだ」


 言いながら下級悪魔を斬り捨て、近くの家屋の屋根に跳び乗る。

 悪魔に襲撃されて壊された建物が多数あるが、無事な建物も結構ある。


「町中に何体か残っているな。ちょっと片付けてくるから、泊まれるところを探しといてくれ」


 カズキは一方的に告げると、屋根の上を駆けてすぐに視界から消える。


「カズキさんが一番疲れているのだから、私達に任せて休んでいればいいのに」

「そうだよね。なんだかんだ一人でやっちゃうから」


 呆れてため息を吐くと、今日泊まるところを探しに歩き始める。


 無傷で残っている宿屋があったのでそこに泊まることにした。

 宿にあった材料で詩織が作った料理をおいしくいただいて、部屋に入り人心地ついたところで明日の戦いについて話だ。


これが最後の戦いになるので、後悔のないようにとことん話し合わなければいけない。

 まず最初に、カズキの作戦を伝える。


「最大の問題点であるアビスの時間操作の能力だが、これに対する術は用意してある。というかこれの対策ができてないと勝てるわけがないからな。最初は、何かでアビスの注意を逸らして、不意を打って消滅するその瞬間まで気付かれないよう一瞬で消滅させる。なんて考えていたけど、改めて対峙してあれ程の存在を完全消滅させるまで一秒は掛かると思うんだよね。さすがにそんな隙を作れる訳もないから、この案は却下ってことになるわけだ」

「長々と駄目な案話す意味あった?」


 呆れたように言う詩織に、カズキは大きく頷く。


「ある。アビスの能力を封じない限り、勝ち目がないってわかっただろ?」

「わかったけど、どうやって能力を封じるの?」

「私もそれは気になるな。能力を封じる魔法や道具なんて聞いたことがないから」

「それはそうだろう。そんなものはないからな。……ところで、僕の能力は何かな?」

「空間操作でしょ。それがどうしたっていうの?」

「僕の空間操作の能力でアビスの時間操作を封じる!」


 カズキが自慢げに言い放つが、アリスと詩織の頭には?が浮かぶ。どうやったら空間操作で封じれるかがわからないようだ。


「まあ、わからないのも無理はない。どうやるかだが、空間操作で、ある一定空間内の時間の流れを正常に保つ。これで、アビスは時間を止めることも戻すこともできなくなる」

「本当にできるの? できたとしても、アビスの方が強いのだから無理矢理能力を使うこともできるんじゃないの?」


 アリスの言うことはもっともだ。空間操作の能力の範疇を少し逸脱した使い方で無理をしているのに対して、アビスは元々時間に干渉する能力。しかもカズキの力はアビスの足元にやっと届いた程度だ。


「アリスの言う通り能力を完全に封じることはできない。だが、時間という不可変のものを変えるより、限定空間の時間を正常に保つだけの方が力が少なくてすむ。無理矢理突破して能力を使おうとしたら、絶対に隙ができる。戦闘中にそんな隙の大きいことはしないだろうから、大丈夫だ」

「わかった。それでようやく戦えるわけね」

「ああ、それで……」


 開戦の狼煙を上げた後は、真っ向勝負をすることになる。

アビスの戦闘能力は未知数だ。はっきり言って何をしてくるかわからない。時間操作なんて強力な力を封じるために、戦闘中はカズキも空間操作の能力を使えなくなる。


単純に力で劣っているカズキ達がまともにやりあっても勝てるかわからない。能力が強力だから、能力抜きの戦闘能力が低いなんてことないかなあ。そうだと助かるんだけど。


「そもそも、アビスがカズキさんの言う通りに明日現れるのかしら?」

「来るだろ。例え罠だとわかっていても、強者の余裕ってやつで全てを捻じ伏せてくるだろうさ」


 その傲慢さが命取りになるってことを教えてやるつもりだ。


「ねぇ、本当に勝てると思う?」


 両手を胸の前で合わせて詩織が不安そうに言う。不安を拭うために勝てると言ってほしいのがわかる。


「当然だろ、って言いたいところだが、正直言って勝てる確率は低い。まあ、今さら勝てるか負けるかなんて考えてもしょうがない。僕達が選ぶのは勝利一択だ。勝利以外の未来はいらない。そうだろ?」

「うん、そうだね。戦う前から弱気じゃ勝てるわけないね」

「ええ。この中の誰か一人でも欠けることなく勝ちましょう」


 詩織は拳を握りしめて気合を入れようとしている。アリスが念を押すようにカズキを見てくる。


 アリスが何を言いたいかはわかる。自分の身を犠牲にしてアビスを倒すようなまねはするな、といったところだろう。勿論、僕としても死にたくはないからそんなことをするつもりはない。


「ああ、そうだな」


 アリスの目を見てしっかりと答える。だが、カズキの言を信じていないのかアリスは疑わしそうに見てきたが、ため息を吐くと視線を逸らす。


 アリスには悪いが、何を言われたところで意見を変えるつもりはない。誰も死なないのが一番だが、そんなことを言えるような甘い相手ではない。もしも、誰かが犠牲になるのなら、それは僕の役目だ。絶対にアリスと詩織を二度と死なせはしない。


 カズキは決意を硬め、何かやり残したことがないか考える。


「……そういえば、こういう時悔いが残らないようにやりたいことはやっとけっていうのあるけど、……まあ全部終わった後にしておいた方がいいかな?」

「そうね。その方が絶対生きて帰りたいと思えるわね」

「うーん、それなら私も後でいいかな」


 詩織が少し悩んでいたようだが、いいと言っているのでまあいいんだろう。カズキ達は明日の決戦に備えて早めにベッドに入った。


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