表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/33

大地鳴動

 静寂に包まれる部屋で深いため息を吐く。

 さっきは詩織にキツイことを言ったのを今さらながら少し後悔している。このまま詩織に嫌われたままは嫌だし、行動するか。

 

 とりあえず、次の六位がいつ侵攻するか探ってみることにする。空間を操る能力でどこに六位がいるか特定することができるのだ。存在を隠蔽していたらわからないが、侵攻を開始したら存在が大きいためすぐにわかる。


 カズキを中心にして、滴が水面に落ちて波紋が広がるように感知範囲を広げる。

 一応やっとくか程度の軽い気持ちでやったのだが、反応があった。距離は昨日の倍は離れている地点だ。ゆっくりと反応が移動しているのがわかる。


 気の早い事に昨日の今日でもう次とは。封印の影響で力が完全に戻っていなかった魔王達は二年待ったのだ。侵攻が始まったら、早いだろうとは思っていたが随分早い。


 アリスと詩織にこの事を伝えなくては。魔王を探すついでにどこにいるか調べていたので、扉を開き転移する。

 人気のない路地裏に出る。そこでは詩織がアリスの胸に抱かれて頭を撫でられていた。


「………………」


 仲が良いいのはいいことだなあと思いつつじっと見つめていると、視線を感じたのかハッとした顔になり詩織は慌てて離れる。


「べ、別にこれはなんでもないから……」

「……何も言ってないが」

「何の用? わざわざ転移魔法まで使ってまで」


 話題を逸らされたような感じがするが、まあいい。


「一応、謝っとこうかなと。さっきは言い過ぎた。これからはなるべく犠牲をださないようにするつもりだ。……でも、負けたら人族は全滅するってことをよく理解していてくれ」

「……わかった」


 まだ不満そうだが、一応は受け入れてくれたようだ。


「それで、六位が侵攻を始めた」

「……え!? 早くない!?」

「で、今から戦いに行くんだが、どうする?」

「勿論、行くに決まっているじゃない!」

「聞かれるまでもなく私も行くわ」


 力強く言う二人を頼もしく感じる。

 負傷しているアリスのために、回復薬を買いに行き怪我を完治させてから出発する。


「六位の近くに転移する。倒そうとは思うな。足止めができたら十分だ。それじゃあ行くぞ」

「むっ、私達では倒せないという事ですか?」

「まあ怒るな。見ればわかる」


 扉を開いてカズキが最初に通る。続いてアリスが通り、詩織は扉の手前で一瞬躊躇するが目をつぶって跳びこむ。


 扉を通って最初に目についたのは土茶色の壁だった。視界の隅から隅まで巨大な壁が占めている。上を向くと壁は天を衝くように雲を貫きどこまでも続いている。壁の手前の地面は超重量物が衝突したかのように爆ぜて土砂を撒き散らせている。


「な、何なの……これ」

「…………っ!? まさか、これが……!?」


 規格外に大きすぎる壁を前にして驚愕する詩織とアリス。


「ああ、そうだ。こいつが第六位魔王エザフォスだ」


 カズキは目の前にそびえる巨大な壁を指して言う。

 エザフォスからしたらカズキ達はミジンコ程度の小ささだろう。

 アリスと詩織は改めて空を仰ぎあまりの大きさに呆然としている。


 突然地響きが起こり、壁が浮く。空気が吸い込まれていき、身に纏うローブを激しくはためかせる。壁は左方へと動いていき、遥か彼方に落ちる。大地が爆ぜ、衝撃波が遠く離れたここまで届く。

 壁があった向こうにはもう一つ同じ大きさの壁がある。信じられないことだがこの二つの壁はエザフォスの足なのだ。全長が何千メートルあるかわからないほど巨大な魔王だ。


「こんなのどうやって倒せばいいの……」

「七位と比べて、これはあまりにも力の差がありすぎでは……」

「そりゃあ、七位と六位との力の差は結構大きいからな」

「そういうことは早く言ってくれないかしら? ……それにしても、足止めできるかも怪しいしいところね」

「見た感じ身体が土砂とかできているからエザフォスの能力は、大地を操るといったところか。まさか、大地を身に纏ってここまで大きくなるとはな。……長期戦になるから無理はするな。とにかく攻撃しまくれ!」


 言うや否やカズキはエザフォスの足へ駆け出し、抜き放った剣に魔力を集めて長大な魔力の刃を生み出す。跳躍して足に着地すると剣を突き刺す。そのままほぼ垂直の足を駆け上がっていく。

 一直線に破壊の軌跡を描くカズキの前方から無数の棘が突き出してくる。それに対して剣を振り上げ、まとめて吹き飛ばす。


 左手と足を突き刺して落ちないようにする。勢いがついている時はいいけど止まると重力に引かれて落ちてしまう。

 エザフォスからの初めての攻撃だが正直言って大したことない。巨体を支えるために魔力で硬度を上げても、元となるものが大地なのだ。


 ここまで密着した状態ではその巨体を生かした大質量の攻撃もできない。せいぜいが体表の大地を変化させて攻撃するぐらいだ。

 だからといって勝てるかと言われれば難しい。戦う前に言った通り、この戦いは長期戦になる。その理由として、下を見るとさっきつけたばかりの傷がもう修復されている。


 修復されるよりも速く攻撃しないといけないが、削りきれるわけがない。修復するのにも魔力を使うし、巨体を維持するのにも相当の魔力がいる。だから、とにかく攻撃し続けエザフォスの魔力を削るしかない。


「はああああああぁぁぁ!!」


 拳撃、掌底、震脚。詩織は一撃一撃に凄まじい魔力を込め、爆砕していく。踏みしめている足場自体がエザフォスの身体だから、止まることなく体表を駆けながらとにかく攻撃と迎撃を続けていく。


 アリスはエザフォスから少し距離を置いて、魔法の光弾を撃ちカズキと詩織のサポートをしている。

 カズキ達がいくら攻撃してもすぐに直るのを見続けていると無駄ではないのかと思うが、エザフォスの進行速度は確実に遅くなっている。


 太陽が東の空に沈みかけた頃。

 エザフォスによって幾つかの町が踏み潰されたが、住人は避難していたので人的被害はない。

 エザフォスとの長く続く戦いでカズキ達は細かい傷だけで、まだまともに攻撃を喰らってはいない。


「はぁ……、はぁ……、はぁ……」

「詩織、大丈夫か? 疲れたんならちょっと休んだ方がいいぞ。その間は僕に任せろ」


 荒い呼吸を繰り返す詩織が心配になり声を掛ける。


「まだ……やれる、から」

「いやいや、無理せず休んだ方がいいぞ。大怪我したら大変だからな」


 喋りながらも間断なく生えてくる土槍を斬り払う。


「この程度、大丈夫。…………っ」


 打ち落とせなかった土槍が肩を掠め血が散る。


「ほら、集中力が切れているんじゃないか?」

「大丈夫だって言っているでしょ!」


 強情にも休むつもりはないらしい。こうなったら、詩織のサポートをしながら戦うべきかな。


「…………!」


 カズキは空を見上げる。夕暮れの赤い空がどこまでも広がっているだけで、その他には何も見えない。

 だが何かが高速で飛んでくるのを感じる。しかも“それ”が内包する魔力量は魔王にも匹敵する。

 カズキは詩織の腰を抱いて扉を開く。


「きゃあ……っ!? な、何するの!?」


 答えることなく扉を通り、アリスの傍に出る。


「! どうかしたの?」

「この場から離れる!」


 アリスの手を取り、遠くに転移する。


「ちょっと、何があったの!? ……というか、いつまで触っているの」

「おっと、悪い。……やっと待っていたものが来たみたいだ」


 詩織の腰から手を放すと、口を笑みの形にしてエザフォスを見る。

 エザフォスも“それ”の存在に気付いたようで、両腕を上げる。ただでさえ大きな腕が肥大化し巨大な盾を作りだす。カズキ達が攻撃している時には一回たりともしなかった防御体勢を取る。


 カズキ達の目にも空に小さな点が見えた。“それ”は流線形のフォルムをした砲弾だった。地平線の向こうから放物線を描いて飛んできたのだ。

 視認した時にはエザフォスの盾に当たる直前だった。


「それは僕の獲物だ。だから――僕がもらう!」


 指を鳴らすと、盾の前に大きな扉が開き、砲弾が扉の中に飲み込まれる。そして、エザフォスの背後に扉が開き無防備な背中に直撃する。


 大爆発が起こり、山のように巨大なエザフォスの上半身が消滅する。

 残った下半身に亀裂が入り、ボロボロと崩れていく。

 それと同時にカズキの力が大きくなるのを感じる。最後は呆気なかったがエザフォスを倒した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ