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死王行軍

『準備は整った。人間よ、己の矮小さを嘆き絶望の内に死んでいくがいい』


 地面から大剣が突き出て、イモルテルが柄を掴み振りかぶる。

 危険を感じたカズキは横っ飛びに剣の軌道上から逸れる。


 振り下ろされた大剣から放たれた衝撃波は軌道上の物を全て破壊しながら王都の端まで届く。

 第七位とはいえさすがは魔王だ。ただの剣の一振りでこの威力だ。他の奴らが巻き添えを喰らわないように位置取りに注意しないといけないな。


 縦や斜めに飛んでくる衝撃波を躱すのはそう難しいものではない。本来なら二刀流で攻撃の手が倍になっていたかもしれないと思うと、奇襲で左腕を消し飛ばしたのは大きい。


 負傷したイモルテル一体なら互角以上に渡り合えただろうが、九位がいる。

 九位の周囲に無数の水球が生成され一斉に放たれる。

 

 イモルテルの斬撃を躱した直後に逃げ場のないほどの弾幕が迫り、聖剣を大振りし水弾を吹き飛ばす。外れた水弾は石畳や建造物を粉砕、穴だらけにし、一瞬にして辺り一帯を廃墟へと変える。


 一撃でも喰らえばただでは済まない斬撃に、そんな水弾の息つく間もない射出が合わさり、迎撃と回避に終始せざるをえない。攻めに転じる隙はなく防戦一方の展開になる。


『どうした人間? 最初の威勢はどこにいった。儂を倒すのではなかったのかのう?』

「心配しなくても、ちゃんと倒してやるよ」

『かかっ。この状況でまだそのような世迷言が言えるか。……気に食わないのう。あの人間を殺して貴様と戦わせてみても軽口が叩けるかのう?』

「――――ッ!! そんなことはさせない! それに彼女は八位に負ける程弱くない!」


 怒りの感情を露わにイモルテルを睨みつける。


『おおっ。良い表情になってきた。……確かに八位だけでは役不足か。……ところで、誰が二体だけだと言った?』





「九位ではなく八位を任されたという事は、少しは信頼されているということかしら。それならちゃんと応えないとね」

『………………』

「死体だから喋らないのね。どうでもいいけどね!」


 言うと同時に八位に向かって何もない空を駆ける。

 魔法障壁の応用で、足元に一瞬だけ障壁を作り、それを足場にしている。


 中空に浮く八位に斬りかかる直前、暴風がアリスの身体を押し去る。

 八位の周囲に大嵐が顕現し、地上に降り立ったアリスは吹き飛ばされないように身体を低くし踏ん張る。ローブがバタバタと風にはためく。


 嵐はただの動きを制限する足枷にしかならない。勿論、攻撃は他にある。

 風の刃が降り注ぐ。風という不可視の攻撃だがアリスは察知し、飛び退いて避けようとするが、強風に身体が流され思うように動けない。

 足が地面から離れるが空を蹴り、風の刃を斬る。避けた風の刃は地面に深い線を刻む。


「――――!?」


 全て迎撃したはずが頬に一筋の赤い線が入る。

 再び襲い来る風の刃を回避し、消し飛ばすが、また傷が増えた。

 どこから攻撃を受けたか考えている間にも不可解な攻撃は続く。

 

 そこで気付く。風が吹いている横方向からしか攻撃が来ないことを。風の刃を迎撃しながら風が吹いてくる方に意識を割くと、小さな風の刃が紛れているのがわかった。

 だがわかったからといって正確に察知できるものではない。


 魔力で探ろうにも、この嵐事態が八位の生み出したものである以上、その中の微細な反応まで見抜くのは非常に困難だ。しかも攻撃を迎撃しながら行うのは不可能といってもいいだろう。

 魔法障壁を張れば攻撃を防げるけど、動きが鈍り良い的になってしまう。このままでは嬲り殺されるだけ。それなら、防御を捨て一気に決める。


「八位を倒してカズキさんの援護に向かわないといけないから、すぐに終わらせる!」


 地面が爆ぜるほどの跳躍をし、一気に空を駆ける。暴風に身体が流されるのも織り込んで、前へ前へとひたすらに進む。

 八位の攻撃が激しさを増し、風の刃に斬り裂かれ血が噴き出すが、構うことなく距離を詰める。剣を振りかぶり眩いばかりの白銀の光を集約する。


 剣に込められた力は魔王を滅ぼせるだけのものだと遅まきながらも傲慢な魔王が気付く。それ故にその一撃を許すことはなく、八位は自らの周囲に暴嵐の障壁を張る。

 まるでミキサーに入れられたかのようにアリスの全身に無数の傷が刻まれる。


「はああああああぁぁぁ――!!」


 細切れにされるよりも速く渾身の一閃が暴嵐の障壁を斬り裂き、八位を一刀両断する。

 嵐が止み八位を倒した。


 傷がない所を探す方が困難な程ボロボロになってまで、八位に勝利して気が緩んでしまったのはしょうがないことだ。

 

 だから、新手の存在に気付けなかった。

 

 四腕の魔王の巨大な拳が振り下ろされるのを察知した時には、アリスは地面に叩き落とさていた。


「――がはっ」


 土煙が舞う中、何が起こったのか確かめるために震える腕で上体を起こそうとする。だが、それよりも速

く煙を吹き飛ばして拳が迫る。


 今度は魔法障壁の展開が間に合い拳を防ぐ。しかし、一発では終わらない。四腕の魔王が怒涛の連撃を撃ち込み、魔法障壁が歪んでいき地面に減り込んでいく。


 段々と一撃一撃の威力が上がっていき、遂に魔法障壁が破られる。それでも連撃が止まる気配は見せずしばらく続いた。


 拳を引いた後の大きく陥没した地面は真っ赤に染まり、アリスの姿は跡形もなく消えていた。

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