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第七位魔王イモルテル

 いよいよ作戦開始の時間となり、各勢力が一斉に進軍する。

 それをカズキとアリスは誰にも見られないように隠れながら傍観する。

 

 進軍を開始すると、王都から死体兵が溢れ出して津波のように押し寄せてくる。数だけを見れば、戦いにすらならず死体兵に飲まれるだけだろう。

 

 しかし、結果を見れば死体兵の津波を真正面から突っ切って進んでいた。

 死体兵はほとんどが訓練もしていない民だ。身体が壊れるのも厭わない身体能力を発揮したところで、猛者達の敵ではない。

 

 勇者達も死んでいるとはいえ、人相手に迷いなくとは言えないが戦えている。二年もあれば一人前の戦士になるか。だが、神に魔王を倒すために召喚されたにしては実力不足は否めない。


 もしかしてだけど、僕が魔王になったのに一枚噛んでいるんじゃないか。勇者召喚はついでで、本命は魔王を人側の戦力として利用することでは。でもこの策は大博打だろ。うまくいけばいいけど、下手したら魔王側の戦力を上げることになる。大博打に賭けなければいけないほど余裕がないのだろうけど。

まあ、どうだろうとやることに変わりはない。あくまで自分のために戦うだけだ。


 帝国兵の装備だけが他と違い異色を放っている。銃火器で武装している。自動小銃っぽいものの掃射で死体兵を薙ぎ払っている。魔力を弾丸の形にして撃っているらしく威力は高い。一発でも当たれば人体に風穴が開き、さらに後ろにいる二、三体を撃ち抜く。殲滅力が他と比べ群を抜いて高く、帝国が頭一つ抜いた進軍速度だ。


 列車もあったし、この世界の技術レベルは捨てたものではないみたいだ。対魔王用の兵器を作っててくれればいいんだけど、さすがに魔王を倒せるレベルの兵器は作れないかな。


 津波を一直線に喰い破って行く様は、全員精鋭として集まっただけあって強いといえば強い。この場にいる戦力の半分が死ぬ覚悟で挑めば第七位なら倒せるかもしれない。でも、今回勝てても次の第六位、第五位、……と戦うごとに戦力が減る中勝ち続けられるとは到底思えない。


 突出した戦闘力を持つ者を探していたら、一人いた。拳圧で何十体もの死体兵が空に舞い、震脚の衝撃波で大地を砕き敵を蹴散らす。

 どんな怪力の持ち主かと思い、目を凝らして見ると華奢な少女だった。


「あれは詩織。結構やるようになったみたいね」

「ん? 知ってるのか?」

「ええ。神に召喚された勇者がどれ程のものか確かめに行って。そこで仲良くなったのよ」

「へ、へー、そうか」


 明後日の方を向いて答えるカズキ。額に汗が滲み、態度のおかしいカズキの横顔を見て、


「詩織、すごく心配していたからちゃんと会わなきゃ駄目だよ?」

「……まあ、そのうちな」


 曖昧な返事をするときは大抵行動するつもりはないものだ。

 カズキとアリスが話している間も戦況は刻一刻と進み、死体兵の波を抜け王都まで辿り着いていた。空から襲い来る下級悪魔を次々と撃ち落として問題なく進んでいる。


 このまま魔王の元まで辿り着く勢いであったが、空から舞い降りた三体の上級悪魔に先頭の数人が文字通り潰され、強制的に止められた。


「上級悪魔が出てきたし、そろそろ行くか」


 頷くアリスと共に扉に入り、王城上空に出る。

 カズキの極大の斬撃が、アリスの白銀の極光が王城を跡形もなく消し去る。

 煙が舞う王城跡に降り立つ。


「やったのかしら?」

「いや、まだだ。でも痛手を負わせたはずだ」


 煙の向こうに大きな人影が見えた。


『人間の中にこれほどの力を持つ者がいるとは。なかなかやるのう』


 重々しい声が響き、煙を吹き散らして、見上げる程の巨大な異形の骸骨が現れる。

 毒々しい紫の骨の魔王は不意打ちの一撃を受け左腕はなくなり、半身にヒビが入っている。


「おいおい、もう王手を掛けられてるっていうのに随分余裕そうだな?」

『当然のこと。この第七位魔王イモルテルが貴様ら人間風情に負けることはないからのう』


 イモルテルがそう言うと、黒雲の中から異様に長い手足の細い悪魔が一体、地中から大蛇の姿の悪魔が一体現れる。


「……この展開は予想してなかったな。死体を操る能力とわかっていたんだから、この状況も考えておくべきだったか」

「何……? あの悪魔、上級悪魔にしては……」


 カズキはさっきまでの余裕の表情を消し、気を引き締める。アリスは新たに現れた二体の悪魔の強さを察して驚愕する。


『ほう? 人間こやつらを知っているのか。ならば、貴様らに勝ち目がない事を理解できよう』

「カズキさん、あの悪魔はもしかして……」

「ああ、魔王だ。それも第八位と第九位だ。まさか二千年前の戦いで死んだ魔王の死体を持っているとは驚いた」


 二対一で楽勝で勝てると思っていたが考えが甘かったようだ。


「アリス、八位の足止めを頼む。僕は七位と九位の相手をする」

「一体だけなら、足止めと言わず倒してもいいのでしょう?」

「……ああ、無理はするなよ」


 強気な発言をするアリスに頼もしさを感じる。


『愚かにも儂に勝つつもりか。よいだろう、人間貴様の策に乗ってやろう。八位お前は邪魔にならんようそいつを片付けろ』


 イモルテルの指示に従って細い体躯の魔王が王都から離れていく。それをアリスが追い、王都から遠く離れた地を戦場にする。

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