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試験という名の

「準備はできたみたいだな。……それでは、己の存在全てをかけて戦え!」


 ギルマスの合図と同時に、魔法の掃射をし、突撃してくる冒険者。火、氷、風、雷、土など魔法が雨のように飛来するが、カズキはほとんどを避け、避けきれないものは魔法剣で斬り払い、難なく対処する。

 魔法の掃射は、前衛部隊が接近するまでの時間稼ぎにすぎず、すぐに斬りかかってくる。


「死ねぇぇぇぇ!」


本音を隠すこともしない潔い一撃だ。躱して反撃をしようとしても、時間差で斬りかかってくる二人目、三人目の斬撃を魔法剣で受け、拳で弾く。


「硬っ! 金属かよ!?」


 魔力で肉体を強化しているため、素手で剣を受けても傷一つ負うことはない。

 休む暇もなく剣、槍、斧、鎚が振るわれる。周囲を囲まれ、常に複数人で襲いかかってくる。しかも、後方から前衛の隙間を抜いて正確無比な魔法の狙撃まであるため、カズキは苦戦を強いられる。


 それでも、多少のダメージは無視して反撃をする。魔法剣で一人を袈裟切りにする。斬られた冒険者は倒れて動かなくなる。


「この人でなし! お前には血も涙もないのかよ!」

「お前らには言われたくない! よく見てみろ、死んでないから」

「あ、本当だ。……これは、魔力切れか」


 その間にも一人斬り伏せる。どれだけ数が多くても一人ずつ倒していけば勝てる。

魔法剣で斬られても死なないことを理解し攻勢が激しさを増した。わざと刺されてそのまま掴みかかってきたので、つい殴り飛ばしてしまった。骨を何本か折ったが死にはしないだろう。無謀と呼べる攻撃の性で何発かもらうが、その分斬り伏せて戦闘不能にした。

 

 こちらを圧殺するように人数を活かした激しい攻撃が続く中、カズキは異変に気付いた。

二十人くらい斬り伏せたはずなのに、一向に冒険者の数が減らない。カズキの勘違いではない。今斬った奴の顔に見覚えがある。既に斬って戦闘不能した奴だ。


 目の前の敵だけでなく、戦場全体に目を向けると、謎が解けた。戦闘不能になった前衛が後方に投げ飛ばされ、魔力回復ポーションを飲まされ小休止をして、前線に復帰している。


「…………。おい、それは反則じゃないのか!?」

「反則? 何を言っているんだ? これは実戦形式だ。お前は実戦で仲間が倒れても放っておくのか?」

「いや、それは……しないけど……」

「そうだろ? なら、戦闘不能になった仲間を治療して前線に復帰させても何の問題はないはずだ」


 カズキの指摘に後方にいる<賢者>が正論で答える。ギルマスを見るが黙認された。完全にアウェーじゃないか。くそったれ! とにかく回復させる隙を与えず倒さないといけないみたいだ。


「それにしても、この数相手に後れをとらないか。……僕も参戦するか」


 今まで待機していた<賢者>が杖をカズキに向ける。


「無様に踊れ! フリクションキャンセル!」


 <賢者>が魔法を使った瞬間、カズキの足元の摩擦係数がゼロになる。つまり、地面に立っていられなくなり足が滑って体勢を崩す。その隙を逃すような者はこの場にはおらず、鋭い刺突が腹に命中し身体が折れる。


「ごっふ……」


 まともに槍で突かれても傷はできないが、ダメージはある。囲んでいる冒険者から斬撃、刺突、殴打を絶え間なく浴びせられる。その間、カズキは人形のように身体を踊らせられていた。最後に大上段からの戦鎚が轟音と共に叩き込まれ、カズキの頭が地面に埋まる。


 即座に前衛部隊が引くと、最初の魔法攻撃は小手調べだったと言わんばかりの超火力が次々とカズキに命中し衝撃波が吹き荒れる。余波で訓練場の魔法障壁にひびが入り、ギルド職員が慌てて障壁の強化に奔走する。


 魔力が切れるまで魔法爆撃は続いた。やり過ぎて観客がドン引きしていた。

 カズキのいたところは砂煙が激しくどうなったのかはわからない。冒険者達は何かやりきったような晴れ晴れとした表情をしている。


「死んだか……」

「あっ、馬鹿。フラグ立てんじゃねぇ」


 砂煙が吹き飛ばされ、訓練場に隕石でも落ちたようなクレーターができていた。そのクレーターの底から跳び出てきたのは、ボロボロになったカズキだった。


「……くっ、はーはっはっはっは! てめぇらよくもやってくれたな! ボーナスタイムは終わりだ!」


 頭を打って何かが振り切れたのか、ハイテンションになっている。カズキの身体から溢れる魔力が威圧感を伴って、冒険者を襲う。


「怯むな! 攻撃は通っている。少しずつ削っていくんだ!」


 <賢者>が雷撃の槍を放つ。光速の一撃は狙い過たずカズキの眉間を捉える。だが、魔法障壁に阻まれ届かない。


 カズキの膨大な魔力でもって強化された肉体は音の壁を容易に突破する。一瞬で前衛部隊に肉薄すると、三度光が瞬く。三人の冒険者が斬られ倒れた時には、さらに四人が斬られていた。

 

 カズキの圧倒的速度を前になすすべもないかに思われたが、腐っても数々の修羅場をくぐってきた猛者達だ。すぐに適応し攻撃を防ぐようになり、後方からの狙撃まで加わり完全に態勢を立て直す。カズキを食い止め後方や倒れている者を回収するために近づいてきた冒険者を守るように壁を作る。


「ちっ、全員を相手にするのは、やっぱり難しいな。……なら、潰しやすいところからやる!」


 壁は厚く正面から突破するのは困難だが、何も問題はない。後方部隊の背後に扉が生じるとそこからカズキが姿を現す。空間操作の能力で前衛部隊の壁など関係ないとばかりに空間転移したのだ。


「よぉ、さっきはよくも散々魔法を撃ちこんでくれたな」


 突然背後に現れたカズキに、後方部隊は顔を引きつらせながら振り向く。近接戦が得意でない魔法使い達の運命は決まっている。

 

 ばっさばっさと斬り倒していくカズキを止めようと、前衛が駆けてくるが、訓練場を二分するように黒い壁が出現する。突破しようと武器を振るうが全て黒い壁に阻まれる。カズキが作り出した空間を断絶させる壁を破壊することは、ここにいる冒険者達には不可能だ。

 

 前衛の足止めに成功し、後に待っているのは後衛部隊の蹂躙だ。<賢者>以外は地に伏せている。その<賢者>も今カズキに斬られたが、倒れない。


「くくっ、無駄だよ。表面の摩擦係数をゼロにした。これで僕への攻撃は通らない」


 <賢者>の言う通り、刃が滑って斬ることができない。


「じゃあ、これならどうだ?」


 極小の扉を生じさせ、剣を突き入れる。すると、<賢者>の腹から刃が出てきた。


「ま、まさか、体内からだと!? ……がふっ」


 最後まで粘った<賢者>も膝をつき倒れ、これで後方部隊は全滅させた。

 援護もなく復帰もできない前衛部隊に対しては扉を使った縦横無尽な攻撃によって蹴散らした。

 こうして、冒険者全員を斬り伏せて勝利した。

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