勇者召喚……?
最初に、この作品を完結まで書くことを宣誓します。
こう宣言するのは最近完結まで書けないことが何度もあったからです。
初めて書いた作品は最後まで書くぞ! と思って完結まで書けたので大丈夫だと思います。
月曜日、それは休日が終わりを告げ、憂鬱な日の始まりだ。
「学校行きたくないなぁ……」
僕――風間カズキは、心底面倒くさそうに呟く。
ぼやきながらでも学校に行く理由としては、休んだりしたらお小遣いを減らされるからだ。これは何としても避けたい。ラノベやゲームを買えなくなるからだ。娯楽のない人生に何の意味があるのかと言いたい。
眠たげな目をこすって、教室の扉を開ける。
「おはよう、カズキ。遅刻ギリギリだね」
僕が教室に入って最初に声を掛けてきたのは、目を見張るほどの美少女だ。学校で一、二を争うほどの美少女に挨拶をされたら、普通どもってまともに挨拶を返すこともできないだろう。しかし、彼女――夏目詩織とは小学校からの付き合いだ。いわゆる、幼馴染というやつだ。長く艶やかな黒髪、一度見たら忘れない美貌、スタイルも完璧だ。
幼馴染でもなければ、平凡な容姿で、これといって得意なものもないショウに声を掛けてくることはないだろう。
「おう。別にいいだろ? ギリギリ間に合ってるんだから」
「はぁ、また夜遅くまでゲームでもしてたの?」
「いや、ラノベを読んでた。キリが良いところでやめようと思ったんだが、最後まで読んでしまった」
悪びれもせず答えるカズキに、詩織はあきれて首を振るだけにとどめる。
詩織と話していると、クラスの男子から嫉妬が込められた視線が向けられる。「何でオタクのくせに夏目さんと仲が良いんだ!?」「夜道に気を付けるんだな、誰かに刺されるかもしれないからなぁ、ふふっ」と、心の声が聞こえてきそうだ。いや、一部に殺気まじりに本当に言っている奴もいる。若干怖いけど、本気で言っているわけじゃないだろう。そう、信じたい。
もし、幼馴染じゃなかったら、あちら側になっていただろう。昔の僕、マジでグッジョブ。だが注意された程度で自分の生き方を直そうとは思わない。人生は刺激あるからこそ楽しい。僕の刺激の多くは趣味だから、やめることはできない。
「カズキ、俺の勧めたラノベは良かっただろう? 特にヒロインが最高だよな」
「ああ、本当に面白かった。ヒロインは、まあ良かったけど僕の趣味じゃないな」
「そうか、気に入ってくれたみたいで嬉しいよ。今度、続きを持ってくるよ」
「うん、よろしく」
カズキに声を掛けてきた男子生徒は、天童日向。イケメンで文武両道、大抵の事はそつなくこなせる能力を持つ。女子からの人気は当然のように高く、何度も告白されているみたいだ。だが全て断っている。それも当然だろう。そもそも女子たちは日向の恋愛対象に入っていないのだから。
「二人とも、もう少しでホームルーム始まるから早く座った方がいいよ」
詩織に注意されて、大人しく席に着こうとした時――
教室の床一面に光り輝く模様が現れた。それは、まるで魔方陣のように見える。
「なに……!?」
「これは……異世界召喚か!?」
「ああ、それしかないだろ! まさか本当に異世界に行けるとはついてる!」
「チートとか最強系がいいな! でもあまり強すぎて刺激に欠けるのも問題があるな」
「俺は理想とする種族がいればいいよ。他は二の次だな」
突然の事態に騒ぐ生徒をしり目にカズキと日向が目を輝かせ興奮気味に語り合う。
「何で普通に話してるの!?」
「そりぁ、異世界もののラノベをたくさん読んだからかな? 心配しなくても害はないよ」
カズキは詩織を安心させるように言う。
魔方陣が発する光が強さを増していき、異世界への召喚が近づいてくる。
期待に胸を膨らませその時を待っていると――
『見つけた』
「ん? 詩織何か言った?」
「ううん、何も言って……っ!? 翔! それ、なに?」
詩織が震える手でカズキの足元を指差す。カズキが視線を下に向けると、直視できないほど眩しい魔方陣がある。だが、カズキの足元の魔方陣だけは四角に切り取られたようになり、光の差さない闇がある。
「…………は?」
なんだこれ? よくわからないけど、背筋が寒くなるような不気味な感じがする。
その場から離れようと足を踏み出そうとしたが、不意に地面の感触が無くなり、身体が落ちていく。闇の中へと。
「――――っ」
咄嗟に右手で穴の縁を掴み、なんとかぶら下がる。しかし、非力なカズキの筋力では身体を持ち上げることもできず、汗が滲み徐々に指が滑っていく。
助けてと叫びたいが、四指に神経の全てを集中させているためその余裕すらない。さっきまでの高揚感が嘘のように感じる。今感じるのは得体の知れないものに対する恐怖だ。暗闇の中へ落ちたらどうなるのか、どうなる? 死ぬ? それとも、これも異世界召喚の一環で危険はないなんてことがあるだろうか? ……わからない。
耐えられたのはほんの数秒だっただろうが、何分も経ったように長く感じた。それももう終わる。遂に限界を迎え、宙に放り出される。
暗闇の中、見上げる光に手を伸ばすが届くはずもなく、恐怖に歪んだ表情のまま落下していこうとした時、サッと影が差す。限界まで身体を乗り出して詩織が手を伸ばしてくる。その手を掴もうとするが、むなしく空を切る。
「カズキ――――!!」
叫ぶ詩織の姿が急速に小さくなっていき、光の差さない暗闇の中どこまでも落下し続け、意識が闇に包まれた。
――ここで風間カズキの人生は終わる。