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捕まる、捕まろう、捕まっちゃったけど?!

「反対だ」


 その後、合流したマハシュに私がお尋ね者になっていること、捕まったふりをして妖精国へ乗り込むことなどを話すと、一蹴された。だが、ここで引き下がる訳にはいかない。


「ねえ、マハシュ。ギルドに預けたものって何だったの?」

「……シーラは知らなくても良いことだ」


 マハシュと別れて逃げながら、ずっと考えていた。マハシュがギルドに預けたもの。誰かに使われると、魔獣族だけではなく、人族の犠牲も生じるもの。そして、妖精王が探していたもの。


 引き取り期限からみて、妖精王に渡った品物は既に使われたとみて間違いない。しかも、竜王よりも強いイラジャ―ル様は、捕まって帰って来ない。多分だけど、妖精王はイラジャール様に使ったと考えるのが妥当じゃないだろうか。何かイラジャ―ル様の行動を制限するアイテムを。だからこそ、マハシュはギルドに預けてあるものの存在を確認した。そう考えると筋が通る。


「知らなくても推察は出来るわ。もしも、それがイラジャール様に使われたのだとしたら、思考能力を操る類のもの。もしくは、」

「思考を操るってどういうことだ?!」


 私たちの会話に不穏な気配を感じたのだろう。それまで黙っていたウパニたちも加わってきた。


 つまり、イラジャール様が妖精国にいて戻らない理由は2つあると思う。前にマハシュが言っていた通り、イラジャール様が世界の管理者で最強なのであれば、実力行使で捕まえられているというのは除外できる。あとは、何らかの理由で自主的に留まっているのか、もしくは、精神的に操られて留まるよう仕向けられているのか。


「自主的に留まっているなら問題ないけれど、もしも精神的に操られているのだとしたら、例えば、もう一人の『私』を本物だと思わされているのだとしたら、人族だけじゃない、魔獣族や妖精族、他の種族にとっても大変なことになるわよ」

「何故だ?」


 マハシュもウパニたちもピンと来ないらしい。


「もう1人の『私』は妖精国にいて、恐らくは妖精王の庇護下にいる。そんな状況で、例えば人族が、いえ、人族に扮した妖精族でも構わない。誰かが『私』を害したらどうなるかしら?下手すると、害した人ばかりか、最悪、全ての人族を敵に回してしまうかもしれない。人族の殲滅が妖精王の目的だとしたら、それはありうる話でしょ」


 自慢じゃないけど、私はイラジャール様に、それほどには執着されている自信がある。うん。ウパニたちも大袈裟だと笑い飛ばすんじゃなくて、青ざめているからには可能性はあるだろう。


「だが、たとえ人族が滅んでも、魔獣族や妖精族に影響はないはずだ」


 マハシュは、納得がいかない様子で首を傾げていると、カーレが口を挟んだ。


「この世界は、全ての種族がバランスを保つよう設計した。人族は生産、妖精族は自然、獣族は力、そして魔族はリセットだ」


 つまり、人族は穀物や文化的な生産し、他の種族へ供給する。妖精族は自然を操る。魔獣族は不測の事態が起きた時に力でバランスをとる。そして、魔族は世界のバランスが崩れた時に現れ、全てを破壊する役目がある。破壊した後、多少でも人族が残ることが出来れば、また新たな世界が構築される。そうやって循環するように設計したのだ。


 この世界も同様で、もしも人族がいなくなれば穀物は育たず、産業が廃れるだろう。そうなった時、妖精族や魔獣族は何を糧に生きていく?自生している植物を食べるか、自分より弱い個体を食べるか、いずれにせよ世界のバランスは崩れれば、魔族が生まれ、全てを破壊し尽くすだろう。


 マハシュは、漸く事の重大さに気付いたのだろう。ふうっと大きく息を吐くと、静かに口を開いた。


「ギルドに預けていたものは、イラクサの鏡だ」


 イラクサの鏡とは、イラクサという既に絶滅した植物を加工して作った世界に一つ、いや一組しかないアイテムだ。元々、イラクサとはどんな望みでも叶える、いや見せる植物だった。


 例えば、亡くなった人を生き返らせることは出来ないが、生きているように見せることは出来る。そうした幻影に魅せられて集まってくる命を糧に生きている植物だったが、とっくの昔に絶滅したものの、その残骸から一対の鏡というアイテムが生まれた。


 これは、『主の鏡』を持つ者が『従の鏡』を持つ者を従えることが出来る。意のままに操ることが出来るアイテムで、それがイラジャール様に使われたのだったら納得できる。だけど、


「他にも盗られたものがあったんでしょ?それは何?」

「……私の記憶だ。常に膨大な記憶を持っているのは大変なので、当面必要のない記憶を封じて預けていた。それが全部盗られていた」


 ドラゴンの記憶は、基本的に雑学だ。その中に何か役に立つことでもあったのだろうか。マハシュも、具体的にどんな記憶だったかは覚えていないらしい。


「ま、兎に角、ここでぐだぐだ言っても仕方ねぇ。妖精国に乗り込む手立てを考えねぇと」

「だから私が捕まるのが手っ取り早いでしょ?」

「「却下!」」


 おや、全員から反対意見が。ウパニが代表して説明してくれた。


「考えてみろ。罪人として捕まれば、その後はどうなるか分からなねぇんだ。さっき自分でも言ってたろ。『お嬢』に何かあればイラジャールが正気に戻っても何をしでかすか。鏡を壊しても『お嬢』が無事でいなければ同じことだ」


 確かに一理あるが、他にどんな手段があるのか。ここは敵陣で味方はいないし、既にシーラが現れたという一報は妖精王へ届ているだろう。だとしたら国境でバレてしまうのは必然。勿論、そのまま大人しく牢屋にぶち込まれる気はないから、頃合いを見計らってイラジャール様を助ける。


 具体的に助ける方法は、現地に行って考えるという場当たり的な計画だが、他に良いアイデアもないのでマハシュたちは渋々、私の計画に従うことになったのだった。




「身分証を見せろ」


 ヨグナ国と妖精国の境にある関所は、随分と立派なものだった。国境の壁は石造りで、1mはある厚さの城壁がぐるりと妖精国を取り巻いている。その厚みがあるからこそ、強固な結界を保てるのだとか。


 ふうんと他人事に思いつつ、ウパニたちが冒険者の証を見せているのを見るとはなしに眺める。私は身分証など持っていないし、そもそも罪人だから必要ない。警備兵たちは、ちらちらとこちらを見ている。うん、思いっきり目立つようにシーラ全開だもんね。


 ここへ来るまでも、そりゃあ一悶着も二悶着もあった。お尋ね者のシーラをよこせとならず者たちがいちゃもんを付けてきたんだよね。しかし、マハシュが出る幕でもなく、ウパニたちが力づくで追い払っていた。伊達に学園の騎士養成クラスを卒業してない。鮮やかなお手並みでした。


「みんなお金が欲しいのね~」とならず者たちを撃退したウパニたちに言ったら、「自分がシーラだってことに自覚を持て!」と叱られた。


 ええ~?!自分ではこれ以上ないほどシーラ……のコスプレをしてるつもりだけどなぁ。ちょっと正気に返ると恥ずかしいほど露出した衣装は、最近やっと見慣れてきた爆乳の谷間が丸見えだし、おへそも見えちゃうショートパンツだもんね。


 脳裏では、峰不〇子やダーテ〇ペア、キューティー〇ニーとか、お色気担当のアニメキャラを朧気ながら思い浮かべて参考にしているけど、まだお色気が足りない?!……試しに、手持無沙汰の新米警備兵たちに投げキッスをしてみると、さっと視線を逸らされた。あれ、やっぱりお色気足りないかな?


「お前は何をやってるんだ、早く来いっ!」


 カーレが私の手首にかけた縄を掴んで引いた。いたたた、見せかけで緩く結んでいるけど、急に引っ張らないで~と抗議すると、ウパニから笑うな、口を開くな、何もするな!と命令された。


「シーラっぽくしろと言ったかと思えば、何もするなと言ったり、気分屋さんねぇ」


 やれやれと肩を竦めて首を振ると、お嬢は相変わらず何も分かってねぇなと溜息を吐かれた。まあ、良いかと歩き出すと、前方にゴツイ体格の男たち、いやトロールたちが立ちはだかっていた。何となくボサボサの髪をした醜男で愚鈍な姿をイメージしていたが、きちんと制服を身に着け、髪も短く刈っていると中々どうしてちゃんとした兵士に見える。


「おい、お前がシーラだな。一緒に来い!」


 制服にいくつもの勲章を付けたトロールが有無を言わさず、私の腕を掴もうとした、が、その寸前、後ろから伸びてきたマハシュの腕に捕まれ叩き落とされる。


「彼女は私が捕まえた。そして、私は人族も妖精族も信用しない。直接、妖精王の元へ連れて行く」

「……お前、黒龍かっ!」


 トロールでさえ怯えるのがドラゴンという存在だ。すごすごと退散していく。


「すげえ、流石、ブラックドラゴン!」


 ウパニがひゅっと口笛を鳴らす。カーレが、さもありなんと肩を竦めた。


「ドラゴンは世界最強の生物だからな」

「力では、ね。魔法やアイテムを使ったらどうなるか……」


 みんなで前世むかしのゲームを懐かしみながら話をしていると、背後からおどろおどろしい視線を感じた。恐る恐る、振り返るとマハシュが鬼の形相で睨みつけている。


「あ、いや、あくまで一般論で……」

「そうそう!現実にブラックドラゴンが勝てないアイテムなんぞないよなぁ!」


 あはははと笑って誤魔化す。危ない、危ない。


「それはそうと、なんか人が、いや妖精族が多くない?」

「言われてみれば……それに街中、花やリボンで飾りつけされてるし」

「もしかして、祭りか?」


 妖精国には初めて来たが、常日頃、街頭や店の軒先に豪華な飾りつけはしないだろう、多分。思わず、脳裏に宮城を金のペンキで塗りつぶしたアホを思い出したが、あれは例外中の例外だと思い直す。


「イラジャールとお嬢の結婚式らしい」

「「「はあっ?!」」」


 地獄耳のジェグがぼそりと呟いた言葉に、思わず淑女らしくない声をあげてしまった。ま、まあ、今は淑女じゃないからセーフだけど。


「明日らしいな」


 うわ、マハシュまでサラリと言いやがりました!ってか、早くイラジャール様を助けないと!なんて思っていたら、先ほどとは異なる上等な制服を着た上級精霊たちが音もなく空中から姿を現した。妖精族は、御多聞に漏れず、力が強いほど姿かたちが整っている。とすれば、目の前の一団は、かなりの使い手とみて間違いないだろう。


「冒険者アイス、リオン、リング、そしてシーラ!お前たちを詐欺団の一味として全員捕縛する!」


 誰だ、最初の3人?と思ったけど、よくよく考えたらアイスバーグソードだのブレイズババール、ギルグルディブクっていうのは二つ名だった。というより、私は冒険者登録してないのだけれど。


 なんて、抗議する間もなく兵士たちの手から緑の光が放たれ、あれよあれよと体に巻き付いて身動き取れなくされてしまった。精霊の魔力が込められた縄はチリチリと肌に食い込む。ちらっと見るとマハシュには効かないらしい。流石ドラゴン。兵士たちがどよめくものの、一番偉そうな上級精霊は、直ぐ様、立ち位置を変更し、マハシュに跪いた。


「此度は、詐欺団の逮捕にご協力頂き、黒龍様におかれましては、誠にありがたく存じます。つきましては、我が王、直々に報奨金を手渡したいとのこと。恐れ入りますが、御足労頂けますでしょうか?」


 マハシュは、無言のまま頷き、兵士たちに囲まれた私たちの後を静かに着いてくる。私の隣にいたウパニが、こっそりと呟いた。


「まさか全員逮捕されるとは……」


 兵士たちは、固唾をのんで見守っていた市民に手を振り、陽気に歩いており、こちらの言動には注意していないようだった。


「うん、全てが想定内だね」


 私は、思わずニヤリと笑った。


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