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大丈夫かな、大丈夫だけど、大丈夫だった!

すみません、次回の展開を変更したため、この回の最後の部分も書き直しました。お手数ですが、最後の部分から読み返して頂くと助かります。お手数おかけして申し訳ありません。<(_ _)>

 冒険者ギルドの中は、想像していたより殺伐としていた。カウンターには恐らく強盗防止なのだろう。鉄格子がはまり、その奥では受付嬢と思しき女性が1人、客には目もくれず、チャイナ服のスリットからすらりと伸びた足を組み、ファッション誌を熟読している。仕事中だろうにギルドに入ってきた私たちのこともガン無視だ。


 まあ、それもその筈、冒険者といってもひょろっとした疲れた顔のオジサンたちが数人、壁際の長椅子に腰を下ろしてぼそぼそ話をしているだけで、誰も受付嬢に用はないようだった。それでも、男たちは新たに入ってきた新顔の冒険者、つまりマハシュと私に興味深々といった感じで、ちらちら視線を投げかけてくる。


 マハシュは、そんな視線も気にならない様子で、真っ直ぐにカウンターへと向かっていった。と、その時、カウンターの奥の扉が開き、見るからに人族ではない、いや、もっとはっきり言うと水色のサラサラロングヘアから尖った耳が覗いている妖精族と思しき男性が駆け込んできた。


 流石に、無言で本を読んでいた女性も、突然の上司の乱入に驚いて立ち上がり、背中に雑誌を隠した。だが、妖精族の上司は、部下の怠慢を気に掛ける様子もなく、カウンターを抜け、マハシュの元へ馳せ参じた。


「これはこれは、黒龍様!このようなむさ苦しい所へお越し下さるとはっ!」

「預けてあるものを引き取りたい」


 簡潔に用件を告げるマハシュに、男性はぎょっとして目を見開いた。あ、何かマズいことがあるんだね、きっと。しかし、そんなにキョロキョロしたらバレちゃうよ?と思っていたら、案の定、マハシュが目から冷凍光線(※比喩)を発射させた。


「何か不都合でも?」

「あっ、いっ、いいえっ!とんでもございませんっ!ほんとにっ!」


 男は胸の前で両手を握りしめ、冷凍光線が効いているのか、ぶるぶる震え出した。そのうち、凍って口もきけなくなるんじゃないかなと思っていたら、意外にも、カウンターの女性がぺろりと口を開いた。


「マスター、往生際が悪いです……何を預けたか知りませんが、もうここにはありませんよ?」


 前半は、ギルドマスターに向けて、後半はマハシュに向けてあっけらかんと、恐らくはギルドマスターが隠しておきたかったであろう秘密を暴露した。マスターと呼ばれた男は冷凍光線に加え、味方の暴発に吹き飛ばされ、今や虫の息だ。


「どういう意味だ?」


 マハシュは、交渉相手を受付嬢に変更した。背後からオドろオドろしい黒い靄を立ち上らせながら詰め寄ったが、受付嬢は私のせいじゃないし~とドコ吹く風だ。


「この巨大な閑古鳥が見えない?……つまりぃ、このギルドは倒産して国の預かりとなったの。全財産、没収されちゃってね」

「……預けたものは私の所有で、ギルドのものではない」


 ギルドが倒産したなんて前代未聞の話に、頭が真っ白くなったけれども、要は、株や通貨投資みたいなもの?ハイリスク&ハイリターン?


「そうね。だから、ついこの間まで告知してたでしょ?300日以内に取りに来ない場合は、没収されますって。もうちょっと早く来ていればねぇ」


 受付嬢は、言いながら壁に貼ってある色褪せた用紙を指さした。確かに、書いてある。しかも、倒産したのは、ここだけじゃなく、ハルラール連合国にある全ての冒険者ギルドらしい。ハルラール連合国、つまりは妖精王ってこと。うわ、会ったことないけど、ほんとムカつくわぁ。


「何故、冒険者ギルドが倒産する?」


 あ、そうそれ!聞きたいよね、うんうん!だが、受付嬢は、くるりと目を回した。


「何故って、狩る獲物がいないんだもの。薬草摘みや雑用だけじゃ生活できないわよ。腕の立つ冒険者たちは、こぞって商家の護衛に就職したから警護の仕事もないしねぇ」


 長椅子に座っているオジサンたちが、頻りに頷いている。


 ええっと、何で獲物がいないのか?獲物って、多分、魔獣だよね?シルファード王国では、一部の悪戯する悪い妖精も狩るけど、妖精王の庇護下にある連合国では考えられない。魔族は殆ど姿を現さないし、万一、現れたら災害級の被害が出るから一介の冒険者ギルドなんて及びじゃない。


 仮に、魔獣としよう。魔獣がいなくなった。恐らくは、ギルドが倒産する前、つまり、300日以上前に。私が竜王と対決したのは、318日と少し前……ええっと、その頃、何か言ったよね、私。



 

『お前たちは、人族のいない所で魔獣の国を作り、当面、人族との国交は断絶する……少なくとも1千年』




 うわわわわ~~~~っ!!!私、言っちゃってるよ!!!はっきりと!!!


 黒い布地で顔が見えなくて良かった。もし見えてたら、ギルドマスターと同じく、((((;゜Д゜))))ガクガクブルブルしている私が丸見えだった。同志マスターよっ、私も虫の息だよっ!


 竜王も、こういう時だけ約束を守らなくても……いや、魔獣族のためには、ベストな選択だった。誰もが傷つかない方法なんてないんだから。命を狩られる魔獣族と、冒険者を失業した人族だったら、魔獣族の命を取る。うん。何度でも同じことをする。


 その責任はとるけれど、私に出来ることなんて限られているしなぁ。なんて、私が悲壮な顔で覚悟を決めているが、現場にいた当事者であるマハシュは涼しい顔だ。


「我々、魔獣族の命を狩る人族がどうなろうとも構わない。だが、預けたものが失われる、いや、まかり間違って『使われる』のは、人賊だけでなく、提供した妖精族の犠牲も免れぬかもしれぬぞ」


 ええっと、あの~マハシュさん?!それって、ナンデスカ?!……そんな週末、いや終末兵器みたいなの、ただのギルドに預けてたんデスカ?!


 私の想いは、受付嬢にも伝わったらしい。目を見開いて口をパクパクしている。だが、ギルドマスターは、一層、顔色が悪くなり、汗も大量にかいている。そりゃそうだよね。彼は、マハシュを黒龍様と呼んだ。つまりは正体を知っているってことで、それなら何を預けたかも知っている筈だ。それが、もたらす効果も。


「預けたものは、今どこにある?」

「おっ、恐らくはゴブリン銀行かと……」


 おおっ!ゴブリン銀行とは、前世むかしはまった某魔法少年の物語に触発されてゲームに組み込んだものだ。ハルラール連合は妖精国が主体となるので経済に関する一切合切をゴブリン銀行が担っている。預金や貸付、為替は勿論、連合の通貨発行から国税管理など文字通り金銭に関する一切合切だ。


 いっそ妖精王は傀儡で、ゴブリンが国を動かしていると言っても過言ではない。まあ、ゴブリンたちは妖精王に忠誠を誓っているから私腹を肥やして国を傾けることはないけれど、一度、懐に入れたものはゴミでも捨てないのが彼らの習性だ。マハシュの預けたものを取り戻すのは難しいかも。


「行くぞ」


 マハシュは、これ以上、話をしても埒が明かないと思ったのだろう。私に声をかけ、踵を返した。


「黒龍様っ、どっ、どちらへ行かれるのですかっ」


 マスターが声をかけるが、蚊の鳴くような小さな声だった。だが、しんと静まり返ったギルドには、不思議とはっきり響き渡った。マハシュは、足を止め、振り返りもせずに答えた。


「無論、ゴブリン共が犇めく銀行だ。すべてを破壊しても、預けたものは取り戻す」


 ひぃっ!とマスターが引き攣った声をあげたが、マハシュは、構わず、ギルドの外に出ると再びドラゴンに変化し、私を掴んで空へと飛び立った。その際、尻尾でギルドの屋根を壊したのは、絶対に嫌がらせだろう。


 ゴブリンの銀行って、この世界でも例に漏れず、世界一強固な銀行なんだけど、黒龍が暴れたらひとたまりもないだろうなぁなんて考える間もなく、銀行に到着したよ。既に、マスターから連絡が入ったのか、銀行の周囲で小柄なゴブリンたちが逃げまどっている。


 おおっ!マハシュが降り立った風圧で、ゴブリンたちが渦を巻いて吹き飛ばされていく。いや、風圧ってか、ワザと羽をバサバサさせているよね。軽く竜巻になってるよ。これって、あれだよね?いつもより余計に回しております~っ!というおメデタイ掛け声が聞こえてきそうだよね?……と思ったら、足元からキイキイと甲高い声が響き渡った。


「黒龍様あぁぁぁっ!!どうか、どうかぁぁぁっ、お怒りをお沈め下さいませぇぇぇっ!」


 見下ろすと、自分の背丈よりも遥かに長い髪と顎鬚を三つ編みにして、首や腕にぐるぐる巻き付けているゴブリンが膝まづいていた。髪や髭を切らないのもゴブリンの習性で長ければ長いほど優秀なゴブリンとされる。ぱっと見、彼ほど長い毛を持つゴブリンはいないから、頭取か、それに次ぐ重要人物とみた。


 彼は、頭上に振り上げた手を大きく振り回し、ドラゴンの注意を惹いているようだった。よく見ると、黒い巾着袋が握られている。ゴブリンの思惑通り袋に気付いたマハシュは、人型をとると彼へと近づき、差し出された袋を取り上げた。だが、中を見るなり、目を吊り上げてゴブリンをねめつける。


「足りぬ」

「じっ、実はぁぁぁっ、妖精王様が探しておられました故ぇぇぇっ、献上致しましたぁぁぁっ!」


 マハシュは、ギルドマスターに浴びせた冷凍光線よりも冷たい絶対零度の視線を向けると、眉一つ動かさずにゴブリンを蹴り飛ばした。ゴブリンは、ボーリングの玉よろしくゴロゴロ転がっていき、後ろに控えていた仲間のゴブリンたちをピンよろしく跳ね飛ばしていく。


 コントみたいで思わず笑ったけれど、直ぐに笑いは引き攣っていく。何故なら、マハシュが再びドラゴンになったかと思うと、本気で石造りの銀行を破壊し始めたからだ。世界一強固なはずの建物が、積み木を崩すみたいなあっけなさで壊れていく。


 自分の職場が破壊されるのを目の当たりにしたゴブリンたちは、パニックに陥って地面に頭をぶつけたり、破壊された石を投げつけ合ったりしている。町の人たちは、巻き込まれないよう建物の中で息をひそめている。私も、石が落下してこない距離まで避難した。


「いたぞっ!こっちだっ!」


 低い怒号が聞こえたかと思うと、道のあちこちから剣を携えた男たちが集まってきた。中華風の衣装に鎧兜を身に着けた一団は、ヨグナ国の兵士だろう。それ以外にも、思い思いの甲冑や兜などを身に着けた男たち。こちらは街の自警団か、それとも冒険者か。いずれにしても、大暴れで銀行を壊滅させている黒龍を捕縛すべく集まったのは間違いない。


 私は、男たちの怒声に負けぬよう大声を張り上げた。


「マハシュ様っ!」


 落ちてくる石壁を避けながら、人が集まってきた事に気付いてないだろうマハシュに声をかける。だが、そのせいで男たちの注目が私に向けられた。


「お前っ、何者だっ!」


 うわ、一斉に剣を向けるの止めてぇ~っ!こちとらひ弱なニートで、趣味はコスプレなんだよ。筋肉ムキムキのオッサンたちに敵うわけないし……と内心、脂汗がだらだら滴り落ちているけど、兎にも角にも、舐められたらアカンッ!


 腰に下げていたドラゴンソードを抜いて構える。取り敢えず、時間を稼げば、後はマハシュが何とかしてくれるだろう。ビバ、他力本願っ!……なんて、元はマハシュが銀行を破壊するから集まってきたのだから、完全なとばっちりだけど、うん。


 その時、背後でバサバサと聞きなれた羽音と、強風が吹き荒れ、マハシュが降り立った。うぷっ、風で髪がぐしゃぐしゃだよ、も~。ブラシないのになぁ。ぶつぶつ文句を言いつつ、ささっと手櫛で直していると、その隙にマハシュがさっと前に進み出る。


 だが、マハシュも遠巻きに取り囲んでいる兵士たちも何も言わない。無言の緊張が辺りを支配し、一触即発の空気がヤバいと感じる。勿論、戦闘になればドラゴンに敵う筈がない。しかも、マハシュは今現在、自分の所有物を妖精王に盗られたと知り、怒り狂って石造りの強固な銀行を破壊したばかりである。誰彼構わず、手加減なしで殺してしまうだろう。


 私は咄嗟に、足元で気絶しているゴブリンを掴み、兵士たちに向かって投げた。投げられる寸前、意識を取り戻したゴブリンは、体育座りの要領で足を抱え込み、丸くなって兵士たちに向かってゴロゴロ転がっていった。


 兵士たちは、ゴブリンを避けるべく、さあっと綺麗に割れていく。その為、ゴブリンは、どこまでもどこまでも転がっていき、やがて見えなくなった。あれ絶対、自分で転がっていったよね。私、そんなに馬鹿力じゃないからね。誰もがゴブリンの行方を見送った後、そもそもの奇行をした私へと視線が戻る。


「えー、暴力は良くないです。穏便に話し合いましょう」


 スマイル0円、ショタッ子王子の真似で兵士たちに邪気のない笑顔を向ける。すると、群衆からは、ざわざわと不穏な反応が返ってきた。好意的な声、訝しがる呟き、更には好戦的な怒声まで。マハシュも、彼らの声を聞き取ったのか、咄嗟に臨戦態勢へと戻る。


「あんたは、美女戦士シーラか?」


 私の前に立っていた、なんとなく偉そうな勲章を沢山付けた兵士が誰何してきた。ええっと、顔を隠していた筈なのに?と疑問符が浮かんだけれど、黒い布はマハシュの羽ばたきで、とっくのとうに足元へ落ちていた。ただの布に「しがみつく根性がない!」と文句を言った所で後の祭りだ。


 この場合、選択肢は2つ。


1)シーラと認める。

2)あくまでシーラのコスプレイヤー、シーランとして振る舞う。


 間違えたら、恐らく半分、いやそれ以上の兵士を敵に回すかもしれない。さて、正解はどっちっ?!


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