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私、乙女ゲームのモブですから、好きに生きていいですよね?!  作者: 春香奏多
A面 ~ルーファリスの災難~
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契約しました。

 翌日、夜なべして焼いたクッキーを手に、自警団の事務所へと向かう。王国では、基本的に軍隊がすべてを賄う。国境警備、王宮の警備、そして町の警察部隊。災害時の人命救助も行っている。但し、王都や人口の多い商業都市などでは、警察部隊でも手が回りきらないのが現状で、その辺りは、軍の警察に次ぐ指揮権を持っているのが自警団である。


 自警団は、基本的にその町に留まり、警備を行う。軍を退役した人もいるし、軍に入隊できなかった人もいる。中には、軍隊でそれなりの力を得た後、転勤がイヤだからと自警団に移ってきた人もいる。これから、会う予定のイルデファン・ナードゥも、その口だと聞いた。


「すみません、イルデファン・ナードゥさんにお会いしたいのですが」

「あれ、あんた?」


 いつものフード付きコート、ターバン、目隠しで杖を片手に自警団の事務所の扉を叩く。中から出てきた男は、聖歌隊のことを知っているのか、快く通してくれた。


 案内された部屋で、大人しくソファに座っていると、程なくして50代と思しきムキムキでひげもじゃの男性が現れた。急ぎ、立ち上がって挨拶をしようとしたが、堅苦しいのは苦手だと固辞された。


「では、あの、これを」


 予算がないとはいえ、手作りのクッキーなんてお粗末だったのではないかと気後れしつつも、テーブルにクッキーの小袋を沢山詰めた籠を乗せた。


「これはこれは!実に美味しそうなクッキーですな!」

「私が焼きましたので、お口に合うかどうか」


 私がもごもごと口ごもりながら説明すると、イルデファンは、小袋の一つを取り上げ、クッキーを一枚、口に放り込んだ。暫く咀嚼してから飲み込むと、ひげもじゃの顔に満面の笑みを浮かべる。


「これは美味しいですな!何か、木の実でも入っているのかな?」

「はい。松の実と梅の実を干したものを混ぜ込みました。日持ちもするし、栄養価も高いんです」

「ほう?松の実とは、初めて食べましたが、美味しいですな!こっちは梅ですか!」


 この世界、固有名詞は独自のものだが、食事事情は前世と殆ど変わらない。森で松ぼっくりを見つけた時は、狂喜乱舞して搔き集めた。何しろ松の実は滋養強壮に良い食材だ。それが、ただで手に入る。栄養不良の育ち盛りがワンサといるのだから一粒一粒実を取り出す作業も苦にならなかった。


 梅も、酸っぱいから町の人たちは見向きもしない植物だった。中には青いうちに実を食べて死にかかった人も出たとかで、採取を始めた当初、町の女将さんたちに心配された。でも、黄色く熟すまで置いて、砂糖をまぶして食べればジューシーなデザートになる。勿論、塩漬けして干せば梅干し、砂糖と漬ければ梅ジュースになるし、食べた後の実、天神様まで美味しく頂けるし、梅の酸が胃腸薬になったり、腹痛の薬にもなる。一石何鳥にもなるありがたい食べ物なのだ。


 こういった知識は、王国の人々には知られていないようで、大抵の人はそれを食べ物と認識していない。私自身は、骨の髄までシルファーディアンなので、出来るだけ自然の状態から食卓に出せるまでの工程をシルファード王国に存在したであろう道具を使って調理していたから、植物の状態で何が出来るか一目で分かった。正に、芸は身を助くってやつだ。


「今日はお願いがあってきました」


 ぺこりと頭を下げて話を切り出そうとすると、クッキーを食べ終えたイルデファンが、手を上げて待ったをかけた。


「どうやら重要な話のようだ。儂の信条としては、お互い隠し事をせず、腹を割ってこそ、実りある会話になると思うが?」


 ちらりと、私のコート姿を認めて、けん制する。確かに、これはうっかりしていた。私はフードを取り、巻いていたターバンと包帯も外した。明らかになった視界で、正面からイルデファンを見据えた。


 よく見たら、イルデファンの後ろに、護衛なのか秘書なのか見知らぬ男性が立っており、口をあんぐり開けてこちらを見ていた。


「申し訳ありません。私は、このような無粋な色をしていますので、厄介ごとを避けるために隠しておりました。ですが、悪魔に憑かれた訳ではございませんので、ご理解いただけると助かります」


 再び、ぺこりと頭を下げると、イルデファンが陽気な声をあげた。


「いやいや、なんとお綺麗な御髪おぐしでござるか!儂らは、野蛮な武力集団。迷信など露ほども信じておりませぬので、ご安心を!なあ?」

「……そうですね。迷信に振り回されていたら自警団なんてやってられませんから」


 背後に立つ人も、ふっと微笑んで、イルデファンに同意した。ほっとした私は、改めて自己紹介をする。


「私は、ルーと申します。少し前に家を失いまして、聖歌隊の真似事をして日銭を稼いでおります」

「儂は、自警団の団長を務めているイルデファン・ナードゥ、後ろにいるのは、副団長のイフマール・ジッタ」

「お初にお目にかかります。以後、お見知りおきを」


 イフマールと名乗る男性は、イルデファンより若く、銀縁眼鏡の良く似合う美丈夫さんだった。豪快なボスと、根回しする裏ボス的な感じで、信用できそうな2人だった。


 あ、ちなみにルーファリスという名は、如何にも貴族っぽい名前なので、ルーだけにした。実際、仲間内でも、顔なじみになった商店の女将さんたちにもルーと呼ばれているので、その方が分かり易いだろう。


「知っておるよ。今や、この町で知らぬ者はいない、時の人。儂らも良く寄らせてもらっている」

「……ありがとうございます」


 過大評価だと思いつつも、ここは子供らしく素直に受け取り、にこおって笑顔のおまけもつけておく。


 勿論、イルデファンたちにとっては、過大評価でも何でもない。いつの時代も、子供が犠牲になるのは世の常で、家をなくしたり、親から逃げ出した子供たちは、行く当てを失い、町をうろつくのは仕方のないことだと黙認されてきた。


 中には、大人になって力をつけ、自警団に入るなり、自分で商売を始めるなりして真っ当な生活を送る子もいたが、大抵は、犯罪集団に引きずり込まれて、そのまま犯罪者になるか、もしくは幼いまま命を失う子供が殆どだろう。


 だが、目の前の子供は、数か月前に突然現れたかと思ったら、あっという間に子供たちをまとめあげ、聖歌隊という収入を得て自分たちの家まで作ってしまった。イルデファン達のように、それを快く受け入れる者もいれば、気に食わない者もいる。


 そこまで考えれば、ルーの用件も分かろうというものだ。


「本日は、自警団の人に警護を頼みに来ました。これは、前金です。あと、月々にお支払い出来るのは、この半分もないのですが……」


 自警団を雇ったことがないので、相場が分からない。取り合えず、今、出せるお金をありったけ袋に詰めて持ってきた。自警団の人にとっては、一ヶ月分の給金にも満たないだろうが、それでも何とか交渉できないかと思ってやってきたのだった。


「ふうむ。しかし、この程度の金額では自警団は雇えんな」


 やっぱりか、と思って項垂れていると、副団長さんから、くすくす笑い声が聞こえた。


「まあ、そう焦らないで。自警団は雇えませんが、自衛方法を指導することは可能です」

「本当ですかっ!」


 項垂れていた頭を勢いよく上げたら、ぐきっと音がした。いや、鞭打ちになっても構わないよ!早く教えて教えてと空想の尻尾をぶんぶん振りまわす。


「無論。但し、指導するだけだから料金は不要だ」

「え、でも、それじゃあ、あんまり……あ、じゃあ前金だけでも!」


 テーブルに乗せた袋をずずずいっとイルデファンの方に押しやろうとしたが、手を押さえられてしまった。彼はにこにこしながら、首を振っている。と、イフマールが背後から口をはさんだ。


「こちらにも指導するメリットが、あります。君たちの聖歌隊は、町の犯罪率軽減に大いに役立っている。君たちを守ることは、つまり犯罪抑止に繋がるということ。もう一点は、こちらが幼い頃から指導することで、自警団のメンバーを育成する役目も担えるということ。ウィンウィンの関係だから料金は必要ないですね」


 確かに、一理ある。それならば、もう甘えてしまおうと頭を下げた。


「ご厚意、受け取りました。ありがとうございます。では、明日にでも、聖歌隊の代表者を連れてきて、詳しい打ち合わせをさせて下さい」

「ちょいまち!ルーが代表じゃねえのか?」


 驚いた様子でイルデファンが、声をかけた。そりゃそうだよね。普通は、代表者が挨拶に来るのが当然だろう。


「私、獅子の月までは王都にいる予定ですが、その後は町を出ていこうと思って。聖歌隊は、私がいなくても十分やっていけますしね」


 今はまだ誰も、子供たちと、目の前の2人しか私の色を知らない。けれど、町の人たちに知られたら、間違いなく、追い出されるだろう。私一人なら構わないが、聖歌隊の子供たちもグルだと思われて追い出されたら泣くに泣けない。


 元々は独りでホームレスをするつもりだったのが、成り行きで大所帯になってしまっただけである。最初の出発地点に戻るだけだから、大丈夫だ。何の問題もない。


 あははと笑ってみたが、目の前の2人は渋い顔をしている。まあ、しょうがない。これも人生ですから。


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