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助けに行きます、行きたいけれど、行けるかな?

魔獣族の設定と話の展開が違っていたので、統一しました。竜王の部分がちょっと違うだけで、ストーリー展開に変更はありません。あと、視点とか言葉遣いとかちょこちょこ訂正しました。<(_ _)>

「うびゃああああああっ!」


 真っ暗な中、はるか下まで落ちていく感覚が続いたかと思うと、どんっ!と衝撃があり、体が拘束された。よく見ると巨大な鉤爪に掴まれているみたい。取り敢えず、地面に激突する事態は避けられたので、ちょっと安心。


 だって、足元には、暗がりの中、うっすら山の岩肌が剥き出しになっているのが見えるからね。あそこに激突していたら、即死か一生ベッドの住人間違いなしだよ、うん。それに、自分を掴んでいる鉤爪は、黒い爬虫類の足から生えているし、前方には見覚えのある洞窟が見えてきた。


 鉤爪の持ち主は、洞窟の入り口にそっと私を降ろした後、ばさばさと羽音を立ててから近づいてきた。


「間に合ってよかった」

「マッ、マハシュ~ッ!!」


 立ち上がって振り返ろうとするが、膝が笑って動けない。マハシュは、可哀そうにという顔で私を見つめ、そっと労わる様に抱き上げた。


「よ、良く分かったね。私が落ちてるの」

「今しがた、竜王から知らせがあった。『ちょっと』目測を誤ったから受け取りに行け、と」


 あいつ、本当に使えないっ!!イラジャ―ル様が封じて正解だったよっ!!ってか、封じられても大人しくしてないけどなっ!!

 

 マハシュは、怪訝な顔で首をひねったが、私は竜王を心の中で罵るのに忙しくてマハシュの様子がおかしいことに気付かなかった。そして、心の中で盛大に竜王の悪口を吐き出してすっきりした後、にっこり笑ってマハシュに礼を言った。


「マハシュ、ありがとう。いつも助けてくれて本当に感謝してる」


 お姫様抱っこをされているので、そのままマハシュの頬にちゅっとキスすると、マハシュは頬をすりつけてきた。言葉より動作で表現する当たり、動物っぽいというか、やっぱりドラゴンなんだな~と思う。やがて、洞窟の入り口が開き、以前、グランパルス公国の宮城であったジャグティヴィルの侍従さんが現れた。


「ああ、ご無事でしたか。宜しゅうございました」

「ティブラ、ヤツは?」


 ヤツ?と首を傾げていると、洞窟の奥からパタパタ走ってくる音が聞こえた。


「ジャグディヴィルッ?!」


 金色の髪を靡かせ、走ってきた男を見て驚愕したが、マハシュもティブラもやれやれといった顔をした。走ってきたジャグディヴィルは、マハシュの前で止まると、きっとルーファリスを睨み付けた。


マハシュは、私を下ろして前に進み出ると、ジャグディヴィルの頭を撫で、お留守番ありがとうと微笑んだ。おお、ジャグディヴィルの尻尾がぶりぶり揺れている。その後、満足したのか、ジャグディヴィルはティブラに連れられ、奥の部屋へと戻っていった。


「ジャグディヴィルは封じられたんじゃなかったの?」

「イラジャ―ルは、竜王の体組織を遺伝子レベルで分解し、後退させた。つまり、卵の状態まで戻したのだ。つい先日、漸く孵ったばかりだ」


 え?卵まで後退して孵ったってことは、私をここへ送り込んだのは、さっき見たジャグディヴィルじゃないってこと?じゃあ、世界の意志で私にイラジャ―ル様の危機を教えたのは、誰?


 まっ、まさかっ、ゆ、ユーレイッ?!っとか?!ひいぃぃぃっ!ナンマンダーナンマンダーッ!!


「恐らくだが、分解された時、以前の竜王は、一度死んで卵まで後退した。そう考えれば残留思念だけが世界の意志へ飛ばされたと考えられなくもない」


 うーん、幽霊じゃなくて残留思念ねぇ。まあ、いいか。いずれにしてもイラジャ―ル様が危機的状態にいるのは間違いないし、さっきのジャグディヴィルだって卵から孵ったばかりのヒヨッドラゴンだけどと思えば可愛いもんだ。


 とはいえ、生まれ変わって記憶もないのに、私のことは相変わらず嫌いらしい。本能的に何かを察知するのだろうか、それとも単にマハシュへの独占欲か?まあ実害がないならどうでも良いけどさ。


「あ、そうだ!以前、マハシュが教えてくれたトンネル工事って、目的とか到着地って分かる?」

「トンネル?」


 何のことか分からないといった風にマハシュは眉を顰めた。突然、現れて、脈絡もなく話をされたって困るよね、うんうん。


「ほら、グランパルスの兵士が来て、宮城へ行くために鉄道に乗ったじゃない?その途中で、マハシュがハッパの爆発音がウルサいって……その話をしたら、イラジャール様が調査に出向いて、それで妖精国に捕まってしまったらしいのよ」


 マハシュは、動じることなく、ポットでお茶を淹れ、私に一つカップを手渡し、自分にも一つカップを持って私の向かいに腰を下ろした。マハシュの長い指がカップを覆いつくす。そのまま反応のないマハシュに苛立ちを覚えつつも、カップから匂い立つお茶の、甘い香りを吸い込んだ。


「イラジャールが妖精国に捕まったのが事実だとして、それがどうしたんだ?」

「どうした、って、捕まったんだよ?!助けに行かなきゃ!!」


 ドラゴンであるマハシュにとって、大切なのは『シーラ』であり、正直なところ、イラジャールがどうなろうとも痛くも痒くもないのかもしれない。けど、私には大切な人であり、窮地に陥っているのであれば微力でも助けに行きたい。


 そんな乙女心を力いっぱい力説してみるけど、相変わらず、マハシュの反応は弱い。眉間に皺を寄せ、理解できないという様子で首を傾げた。


「そもそも、イラジャールが窮地に陥る訳ないだろう?誰よりも強い、世界の管理者なんだから」

「え?……世界の、管理者、って?」


 世界の管理者って、前世でやってたオンラインゲームの管理者ってことかな?強制退場させることが出来たり、ルールを変更出来たりするから、ある意味で最強だけど、でも、ここは仮想ゲーム世界じゃない。


「イラジャール様は最強だけど、でも、しょせんは人族だから妖精王には敵わない、でしょ?」


 確認するように語尾を上げると、マハシュは、フンと鼻を鳴らした。


「妖精王より竜王の方が遥かに強い。その竜王を屈服させ、封じたのは誰だと思う?」

「……イラジャール様、だったり?」


 恐る恐る答えると、マハシュは厳かに頷いた。


「世界の管理者は、全能だ。その気になれば、妖精王の足止めなど何の障害にもならない」

「ってことは、つまり……」

「イラジャールは、自らの意志で妖精国に留まっている、ということになる」


 束の間、脳裏に妖精たちと楽しく暮らしているイラジャール様の姿が浮かんだが、慌てて首を振った。


 いやいや、きっとイラジャール様の事だから妖精国でお仕事があるんだ。だから、帰って来られないに違いない。でも、もしもそれが本当なら連絡があるのでは?やっぱり……いやいや、でも!


 一度、心に浮かんだ疑念は、振り払っても振り払っても拭い去れない。居ても立っても居られず、なんとか打開の道はないかと声を張り上げた。


「そもそも!ジャグディヴィル(の残留思念)が、私をここへ送り込んだんだよ。イラジャール様を助けた暁には、我を褒めた称えよ、とか何とか言ってたし……大体、ヤツは、トンネルを掘って何をしようとしていたの?」


 そうだ、一番最初は、グランパルス公国で密かに掘られたトンネルだった。確かに、妖精国がトンネルの存在を知ったら激怒するかもしれないけれど、それはグランパルス公国、或いは竜王に向けるべきものであってイラジャール様が捕まるのは辻褄が合わない。


 だが、マハシュは、分からないと首を振った後、竜王の侍従だったティブラを呼びつけた。


「竜王は、ガウラッディ山にトンネルを掘っていた。何が目的だったのだ?」


 ティブラは、暫し考える様子を見せていたが、もう話しても構わないと判断したのだろう。おもむろに口を開いた。


「竜王様の真の目的は、妖精王様と結託し、人族を排除することでした」


ええ~?!レアメタルの採掘でもなく、ヨグナ国の乗っ取りでもなく、人族の排除っ?!


 再び、予想外の話を切り出され、フリーズしかけるも、頑張って稼働させる。ちらっとマハシュを見ると、驚く様子もなく、ふうっと息を吐いた。


「この世界が生まれてからというもの、人族の数が爆発的に増えました。それまでは数万の単位だったのが、いきなり億単位へと。勿論、人族は質より量、我らは量より質ではありましたが、あまりに増え過ぎました」


 淡々とした口調で話すティブラさんだったが、人族に対する怒り、いや、恐れを抱いているのを感じた。この世界は生まれて20年ちょっとしかないけれど、ドラゴンや他の長命種は何千年と記憶がある。それは、ゲームの世界の記憶だけれど、ティブラさんたちにとっては現実でしかない。


「加えて、それまでは暗黙の了解だった棲み分けも、魔獣や妖精を狩るため大勢の人族が我らの住処に乗り込み、踏み荒らしていきました。無論、我らも反撃しましたが、払っても払っても、いや払えば払うほど人数を増やして襲撃してくる。そして、次々と大型の魔獣族が狩られていきました」


 幾度となく動物たちを絶滅させた私たち地球人は、今も変わらない。むしろ、ゲームで何の抵抗もなく魔獣たちを狩っていた記憶は、何の罪悪感も抱かせず、興味の赴くまま魔獣たちを屠っているのだろう。


 同じ地球人として、いや、この世界の基となるゲーム制作に携わった者の1人として、大変申し訳ございませんっ!!と叫んで、スライディング土下座をしたい気分だった。まあ、私1人の謝罪なんて何の意味もないけども。


「竜王は、人族の数を減らしたかったのだ。その為には、お互いが殺し合ってくれれば面倒がない。そう考えたのだろう。だが、そのために魔獣の大量の核を使用したのは本末転倒だ。たとえ、人族が滅んだ後、核が復活したとしてもな」


 ひっ!!人族絶滅っ!!思ったより壮大な計画だった。しかも、マハシュの淡々とした口調から、本気だと窺い知れる。


「ごめんなさい。同じ人族として謝っても謝り切れないわ」


 精いっぱいの誠意を表すため、椅子から降りて膝に着くほど頭を下げ、ようとしたが、マハシュに肩を掴まれ、マハシュの膝の上に座らされた。うむ、ドラゴンのスキンシップは過剰だな。


「シーラが謝ることではない。世界の管理者が怠慢なだけだ」


 えー、話の流れからすると、その世界の管理者ってイラジャール様のことだよね?ここはゲームの世界と違って、そう簡単に変更できないんだよ。地球だって、どれだけ法律を整えても犯罪がなくなることはなかったし、況してやイラジャール様は王様でもないんだし。


 心の中で密かにイラジャール様を弁護してみるが、当事者であるマハシュたちにとっては単なる言い訳でしかないだろう。私は、とりあえず、今ある事実を述べて建設的な方向へもっていこうと口を開いた。


「もしかしたらイラジャール様、今は妖精国で人族を取り締まっているのかもしれないね。だから、忙しくて帰って来られないのかも!」

「それはない」


 うわ、一刀両断でバッサリ切られた!うう、負けないぞっ!


「見てないのに、どうして断言できるの?!」

「見なくても分かる。あいつは、シーラを放置して別の女にうつつを抜かしているのだからな」


 え?……ちょ、ちょっと待って。別の女って、それってどういうことっ?!


 私の髪を撫でているマハシュは、憐憫の瞳を向けている。


「イラジャールのことは忘れろ。また2人であちこち冒険して歩けば良い。な?」


 マハシュが大型犬よろしく顔を舐めてくるが、私の脳みそは、許容量を超えフリーズしたばかりか、ぶっつりと電源を切ってしまった。暫く休息が必要です。おやすみなさい。


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