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私、乙女ゲームのモブですから、好きに生きていいですよね?!  作者: 春香奏多
B面 ~イラジャールの苦難~
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先輩

魔獣の核についての設定に分かりにくい所があったので修正しました。ストーリーに変更はありません。

 大事をとってルーが一日休んだ翌日の放課後。待ち合わせ場所に指定していた第二図書室へ向かうと、ルーが興味深そうにあちこち覗いていた。


「お、早いな。ちょっと待ってろ。今、開けるから」


 意味が分からず、ぽけっとしているルーを後目しりめに、壁際の本棚へ近づき、一冊の本を手に取った。この本は木製のダミーで地下への扉を開く鍵になっている。ルーが、小さく「ふおっ、忍者屋敷っ!」と呟いている。


「第二図書室には色々仕掛けがある。ここにある本は、殆どが仕掛けを隠すダミーだ。おいおい教えるから、勝手にあちこち触るんじゃないぞ」


 俺が手にしたダミーの本をしげしげ眺めるルーに、念のため、注意しておく。しかし、この第二図書室、元々は初代の学園長が趣味で作った部屋だったらしい。地下へ続く部屋の他、職員室や学園長室へも続く通路があり、ひそかに盗み聞きすることが出来る。


 だからこそ、校内の案内図にも載ってないし、新入生のオリエンテーションでも通過される。今の学園長に交渉して使わせて貰っている。没収した魔獣の核や危ない薬など、生徒に管理場所を知られたくないという理由だ。


 気づけば、俺の注意もそこそこに、ルーは本棚も覗き込んでいる。俺は、どっと疲れてため息を吐き、ルーの首根っこを掴んで地下の階段を下って行った。階下には、ウパニたちが待っていた。


「ヴァニッシュ、遅えぞっ!」

「あれ、その子って……」


 ウパニが不機嫌そうな顔をするが、直ぐにサラティが珍客に気付いて声をかけた。


「そうだ。昨日、話しただろう。新しく風紀委員に入るヴェールだ」

「まさか、ウィアードヴェール?!」

「嘘だろっ!こんなガキがっ?!」


 ウパニたちは、ウィアードヴェールの正体を知らない。俺とルーの2人でゲリラ的にやっていたことだから。それに、ウパニたちは、基本ゲームで設定されたキャラではなく、自分たちで作ったアバターを元に転生している。だから、目の前の小さな少女が、ハゲ坊主の怪しい騎士だとは思わなかったのだろう。


 ましてや、ルーだとも気付いていない。万一、気付かれたら絶対にからかわれるだろうから、絶対、内緒にしておく。ルーは、前世むかしの自分のアバターを知っている上級生に囲まれ、今にも逃げ出しそうだ。勿論、逃げ出せないよう首根っこは捕まえているけれど。


「俺は、タンクだ」


 と、少し離れた所で様子を見ていたチャンダムが、自己紹介をした。ルーは、上から下までチャンダムを眺めた後、首をかしげて聞いた。


「もしや、エンドッペルッ?!」

「おう、久しぶりだな、ウィアードヴェール」


 チャンダムたちは、実際にリアル世界でウィアードヴェールに会ったことはない。当然だ。ルーがプレイヤーだったんだから。但し、ゲームの世界では何度も一緒に戦ったことがある。基本、ヴェールはソロプレイヤーだが、複数で戦った方が倒し易い敵とか、皆の前で新しい技を披露したい時など、俺が率先してヴェールを引き込んでいた。


「次は私ね!タンク、ちょっとどいて!邪魔だから!……ねえねえっ、私、誰だか分かる?」


 ストロベリーブロンドを揺らしながらモナが無邪気に笑う。ルーは、ちょっと引きながらも挨拶を交わした。そうだよな、こいつらゲームのアバターそのままだから、かなりイッテる容姿をしている。俺は、もう見慣れたが、銀髪に白目ってなんだ、中二病かって感じだろうな。


「ベベ……相変わらず」

「いやんっ!見かけは可愛いのに、中身はヴェールのまんま!そっけないぃ~っ!」


 モナが悶えてぎゅっと抱きしめる。止めろ、ルーが苦しんでるだろうがっ!べりっとモナを引きはがす。それから、他の面々も自己紹介を終え、ルーも何とか状況が飲み込めたようだった。それでもまだ、ゲームのアバターだけで自分が俺の恋人だったことや、モナたちが仲間だったことまでは思い出せないらしい。


 まあ、焦らず行くしかないだろうな。


「さて、昔の話はそれくらいにして、ヴェール、風紀委員の業務について何か知っているか?」


 暫く考え、その後、風紀委員のメンバーを一人一人眺めた後、首を横に振ったルーに俺たちの役目を説明してやった。ルーは学校に通っていないが、普通、風紀委員と言えば髪形や服装などを取り締まることは知っていたのだろう。間違いではない。事実、この学園でも俺たちが風紀委員になるまでは、同様のことをしていたのだから。


 だが、今は主に魔獣の核や、毒薬、アイテムなどの持ち込みを規制している。そして、リザンの短剣の被害にあったルーには、理解しやすい内容の筈だ。


「ミーナ・ヴァンサントは、リザンの短剣を持っていた。だが、阿呆は彼女だけじゃない。どいつもこいつもゲーム気分を引きずって次から次へと怪しげなアイテムを持ち込む。我々、風紀委員は、それらを没収、管理している」

「これ、今までの戦利品」


 手回しの良いサラティが、さっと分厚い目録をルーに手渡す。


「基本的にはスライム系、トカゲ系の核が多いな。あとは、ゴーレム系……ドラゴンの核?」

「勉学に関係ない怪しいものは、真偽を問わず全て没収している。無論、卒業時には返却を申し出るように言っているがな」


 う~ん、すっかりヴェールのキャラになって、口調もぶっきらぼうだ。いや、でも、見かけは14歳の大人しそうな女の子で、口調がおっさんていうのもギャップ萌えで良いかも。ルーの問いかけに答えつつも、頭の中はルーのことでいっぱいだ。うん、ずっとルーのことだけ考えていられたらサイコーだな。


 なんて、色ボケしていたら、ルーに騎士養成クラスを取り締まるのは無理だと言われた。勿論、そんな無茶をルーにさせるわけがない。今のルーは、剣を持ったこともない女の子だからな。


「ヴェールに探って欲しいのは、花嫁養成クラスだ」


 そう言って目録の後半を見るよう伝える。


「惚れ薬、媚薬、しびれ薬、洗脳薬……暗器に毒薬まである」

「男子がスライムやトカゲのチンケな石を自慢している間に、女子は殺し合っているというのが凄いわよねぇ。いっそ、花嫁養成クラスを暗部養成クラスに変更したらどうぉ?」


 モナが甘い口調で辛辣な意見を述べ、俺が詳しく説明する。


「ヴェールは文官養成クラスだから、花嫁養成クラスと合同授業があるだろう。その時に怪しそうな人物がいたら知らせて欲しい。証拠をつかむのと実際に没収するのは、俺たちがやるから」

「えっ!ヴェールちゃん、騎士養成クラスじゃないのっ?!」


 ウパニが、驚いた声を挙げた。ルーは、不機嫌そうにむっとしている。だが、他の面々も驚いているようだった。


「文句ある?」

「……い、いや。ってか、そもそも何でヴェールちゃん、騎士養成クラスじゃないの?」


 周りも、うんうんと頷いている。さて、なんて説明するつもりか。


「前世も女だったから今世も女で良いか、と。正直、ゲームのアバターになるのは……」

「ま、まあねっ!ヴェールのままの姿で学園にいたら通報されるわよねぇ」

「え~?!俺としては、十代のヴェールは美少年で、その後、世間の荒波に揉まれた果てに、ああなっちゃったって話に萌えたのに~っ!」


 それから、モナとウパニがヴェールのヴェールを暴く!とか言い、それぞれの勝手な妄想を語り出した。どうでも良い話なので、2人は捨て置き、ルーに注意事項を説明する。


 曰く、媚薬等の薬以外に美肌やニキビに効果のある化粧品、ダイエットに効果のあるサプリに注意するようレクチャーを受けた。特に、少量でも効果が大きい商品には留意するようにと。ルーはうんうんと頷いているが、やっぱり心配だな。ルーの身に危険が及んだ時、直ぐに分かれば良いのだが。


「この世界にも携帯かスマホがあれば、直ぐに連絡が取り合えるのになぁ」

「電気は出来ましたからね。ただ、基盤を作るほどの技術がまだ……」


 この世界に電気はあるが、携帯やスマホ、PCですら夢のまた夢といったところか。ああ、くそ。やっぱり魔法くらい使えるようにしとくんだったと後悔しても後の祭りだ。と、その時、ルーがきょとんとした顔で呟いた。


「あ、じゃあスライムの核を使えば?」

「スライム?」


 怪訝そうに問いかける俺たちに、ルーはあっさりスライムの核を半分に割り、引き寄せて見せた。砕いた核を分散させてゲーム内でクエストしていたから、その応用とも言えるだろうが、一部を復活させると残りを引きあうなんて設定はしていなかった。


 例えば、スライムの核の場合、粉々に割っても全てを一か所に集めて水を垂らせば復活する。けれど、一片でも足りなければ復活しない筈だった。モナたちは面白そうに色々試しているが、これは誰が考えたのか?ルーは、子供の頃、知り合いから聞いたと話したが、ゲーム設定にはない使い方だった。


 つまり、この世界にはなかった設定が新しく出来たということだ。


 勿論、世界は刻々と動いている。数年前までなかった電気が作られたように、新しい発明が日々、生まれているが、元々の設定そのものが変わったのは、何を意味するのか。それを誰が、幼いルーに教えたののか?偶々だったのか、それともルーに教えることで意図することがあるのか。


 またピースが足りない。というか、足りないピースばかりが増えていく。とりあえず、スライムのかけらは、ルーと分け合うことにした。ルーに何かあった時、すぐ駆け付けられるように、と。



 

「ちょっと目を離すと、これだ」


 放課後、第二図書室に取り巻きを連れて現れたルーに、開口一番不機嫌な声が出てしまった。しかも、今のセリフ、前世むかしも言ったことあるな、何度も。


「まあまあ、良いじゃないの!俺としては、可愛い女の子大歓迎!」


 ウパニがチャラそうな口調で言い放ち、大袈裟に紳士の礼を披露する。すると、ルーの後ろにいた女生徒3人が、きゃあっと黄色い声を挙げた。以前、ルーに短剣がかすめた際、一緒にいたクラスメイト達だ。


「戦力は多い方が良いでしょ。彼女たち、なかなかなものよ。こちらから正騎士シャンディ、ガイラ、パトマ。ヴェールの右にいるのはアナ、それと……」

「コットンキャンディ・ルーラ、何故、お前がここにいる?」


 モナが女生徒たちを紹介する中、イヤな奴を見つけて思わず、睨みつける。くそ、やっぱり1週間の自室謹慎処分だけじゃ甘かったな。しかも、ルーの腕にしっかりとしがみついている。ルーを『彼の御方』だと分かったのか?いや、それならもう1人、ルーの反対側の腕にぶら下がっている奴を威嚇するはずだ。


 ということは、まだ気づいていないらしい。でも、それをよしとしているルーは、彼女を受け入れているということだった。くそ、メンドくせー。


「……なに?」


 ぼうっとしていたルーが、怪訝そうな顔で俺を見ている。何か気づいたんだろうか、と思うが、そんな芸当がルーに出来る筈もないな。だって、ルーだしな。


「いや、何でもない……どうせまた明後日の方向を考えてるんだろ」

「え、何て言ったの?」


 何を考えているのか、ニマニマしていているルーを見ていると、時々、ため息が漏れる。まあ、俺の方が圧倒的にルーに惚れてるんだから仕方ないか。ふん。


「所で、どうして急に戦力拡大になった?」


 急遽、増えた人員に椅子が足りず、上の第二図書室から机と椅子を持ち込み、漸く落ち付いた頃、チャンダムが話を切り出した。それまで沈黙していたヴィンディクティブ・アナこと、サヴィ・チャンドラがゆっくりと口を開く。


わたくし噂を聞きましたの。この学園で、昨年、問題になったサプリと同じ原材料の商品が出回っており、しかも、サプリや化粧品、プロテイン、凡そ多くの商品に混入されている、と」


 話を聞きながらも、チャンドラ商会のことを思い起こす。王都でも指折りの豪商で、下手な貴族よりよっぽど金持ちで、力も持っている。今年、跡継ぎとして最有力候補の秘蔵っ子が一年遅れで入学してきたのは、単純に乙女ゲーに参加する為か、それとも他に目的があるのか。


「去年、具体的にどんな問題があったのですか?」


 ふいに、去年の事件を問いただされて、思わず、今は何もはめていない腕へと手をやる。他のメンバーも眉を顰め、口をつぐんでいる。誰が言い出すか躊躇っていると、ウパニが諦めた様子で肩を竦め、訥々(とつとつ)と話し出した。


「騎士養成クラスの生徒3人が、筋肉増強剤を使って発狂したんだ」

「ええっ?!……それって、どうして?」

「いや、発狂したってのは、違うな。ぶっちゃけ、魔獣化しておかしくなったんだ」


 ウパニは軽い口調で話すが、あの時の辛さは当事者たちだけが知っていれば良い。後輩たちにむやみやたらと話して、亡くなった者たちを面白おかしく語られたくはなかった。


「魔獣化って、どうやって?この世界では、魔法もないし、噛まれても殺されても魔獣になることはないですよね?精神を操る魔獣もいないし……」


 ルーのクラスメイトの1人が疑問を口にする。他の生徒たちも分からないと、彼女に同意している。


「その増強剤には、魔獣の核が混ざっていたんだ」


 ウパニの与えたヒントに、サヴィ・チャンドラが答える。


「数年前まで、我が国と隣国の共同で核開発研究所がありましたの。我がチャンドラ家も資金、及び核の提供を致しましたが、最終的に核は利用できない、してはならないという法律ができ、研究所は閉鎖されました」


 俺を睨みながら告げるチャンドラは、数年前の陛下に核開発を中止させたことを根に持っているのだろう。だが、それすら、詳細は国民に伝えていない筈だし、ましてやチャンドラ商会の親玉が、愛娘に自分たちの役割を正直に話す筈もない。


 恨まれるのはお門違いだと反論する。あの時の惨劇は二度と繰り返させない。


「魔獣の核を利用しないというのは、この世界のことわりだ。まして、今はまだ世界が安定しない状況。理を蔑ろにして世界を破滅へと進めるのなら、それはそれで構わないぞ。ただ、俺が生きているうちは、全力で世界の理を守るつもりだがな」


 俺の言葉に、去年の事件を知っている他のメンバーたちも冷たくチャンドラを見据えている。結果、チャンドラが根負けして肩を竦めた。


「分かったわ。今はそれで構わない。我が家も大人しく手を引くわ。でも、納得できない輩は少なからず存在するし、今も地下で非合法な研究が続けられているわ。今回の一件も、その延長でしかない」

「分かっている。俺もただ手をこまねいている訳じゃない。出来得る限りの手は打っているつもりだ」


 一触即発といった雰囲気に、チャンダムが割って入った。


「アナ、ヴァニッシュも俺らも今は未成年で学園から出るのも難しい状況だ。だが、あと1年経てば学園を卒業することが出来る。そうしたら俺らの天下って訳だ」


 にやりとほくそ笑んだチャンダムは、未来の将軍というしたたかさがあった。流石のチャンドラも反論できず、その隙にモナとサラティに全てを白状しろと丸め込まれる。


 曰く、魔獣の核を人体に取り込むことに成功した奴がいるらしい。それも、研究所で行っていたレベルより遥かに確かな技術で。それはつまり、去年の事件の犠牲者たちの事なのか、それとも、更にレベルアップした技術なのか。


 モナやウパニたちが詰め寄ると、最悪の回答が返ってきた。


「研究者たちによると去年のはテスト薬、今回、その弱点が改良され、とうとう人体向けの試薬が完成したそうよ。そして、彼らが実験の場に選んだのは学園の生徒たち」

「どうして学園の生徒なの?」

「理由は2つ。先ず、成人した人間より成長期にある学生の方が順応性が高いそうよ。もう1つは、研究所を潰した者たちへの復讐ね」

「つまり学生たちにサプリや薬と称して売りつけ、実験する一方で俺に復讐するつもりか」


 チャンドラの話を聞きながらも、早急に手を打つ必要があると思い知らされた。ちょうど去年の事件に関して、大体の概要がつかめてきたところだ。それと一緒に叩き潰してやる。


 そう動いたことで、ルーをまたもや危険な目にあわすことになろうとは、思いもよらないことだった。


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