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私、乙女ゲームのモブですから、好きに生きていいですよね?!  作者: 春香奏多
B面 ~イラジャールの苦難~
41/68

最後の部分、ちょっとだけ修正しました。内容に変更はありません。

 その後のクロの調査結果と核開発研究所との間に起きた出来事については、省略する。話しても不愉快になるだけだし、面白いことなど全くないから。結果として、研究所は廃止され、陛下から魔獣の核を利用しないよう法律を制定して貰ったことだけ伝えておけば十分だろう。


 ここは、冒険アクションではなく、恋愛ファンタジーコメディなのだから、うふふあははのドキドキする話が良いのだ。俺も読者も、そして肝心の作者も(!)それを求めているのだ。アクションでドキドキするのは要らないのだ。


「ルー、また怖い夢みちゃった。一緒に寝てもいい?」

「(もちろんです。寒いから早く入って)」


 あの大泣きした日以来、俺は、ルーのベッドで一緒に眠っている。ルーは、完全に俺のことを弟と思っているのか、警戒心も皆無で俺とくっついて眠る。といっても、寝相の悪いルーは、寝ている最中に布団を蹴り飛ばすので、その度に起きて布団をかけなおしている。


 そんな時、ふと、俺はルーの布団係なのか?と落ち込むこともあるけれど、よくよく考えれば、前世でも同じことをしていたし、ルーが風邪を引かないなら良いかと思うことにした。まあ、その代償ではないが、布団をかけなおす度に寝ぼけているルーの唇にちゅっとキスしているのは内緒の話だ。




 そうこうするうち、家庭教師の教える授業にダンスレッスンが加わるようになった。俺は、自分で言うのもなんだが、チートだと思う。大抵のことはこなせるし、乗馬や剣術などの運動も大歓迎だ。ただ、ダンスだけは勝手が違う。ダンスというと、前世で踊らされた小学校の運動会を思い出す。あの、オクラホマなんたらいう男女がセットになって踊るフォークダンス。


 何故だか、女子が全員、俺と踊りたがり、踊れなかった女子たちが踊った女子をズルいと罵り始めた。踊った女子たちはズルくないと反論し、掴み合いの喧嘩が始まったのだ。


 結局、先生に拝み倒され、放課後、女子全員と踊り終わるまで何回も何回も何回も!踊り続けた。その後、暫く男子からは文句を言われ、俺だけ延々と踊り続けたから腕が炎症を起こすほど痛み、その日の弟たちの夕飯が散々になった。しかも、その悪夢は卒業まで続き、最悪の一言に尽きる思い出だった。


 中学に上がると、推薦されて生徒会に入った。生徒会はイベント時、裏方担当するのでフォークダンス免除と聞いて、マジで嬉しかった。そのためだけに3年間、生徒会を続けたといっても過言ではない。


 一方のルーは、そもそも学校へ行っていないからか、フォークダンスの悪夢もなく、マジで踊るのが上手い。前世から音感がある上、体力もある。何より、コスプレイヤーとして名を馳せていただけあって、ダンスのハードアクションにも笑顔で対応できるのがスゴイ。


「う~ん、やはりどうしても身長差がねえ」


 ダンス教師が顎に手を当てて首を振る。現在、ルーは13歳。俺は9歳。その身長差、30cm。向き合って手を組むと、俺の目の前にルーのお腹がくる感じだ。いや、そもそも肩に手が届かない。この世界のダンスは、社交ダンスが基本になっているが、どんなダンスも必ず男性が女性の腰をもってターンしなければならない、のだが、


「うわっ!」

「(ひゃあっ!)」


 何度やってもバランスが崩れて足がもつれ、とうとう、教師がある提案をした。


「男女パートを交代してみたらどうかしら?」


 つまり、ルーが男性パートを、俺が女性パートを踊るという意味だ。ルーは、ノリノリで賛成し、俺は拒否したものの2対1で却下され、イヤイヤ踊ることになった。結果から言うと、大成功だった。


 ルーは俺を器用に振り回し、俺はルーに軽々持ち上げられることにショックを受けた。俺がその日から密かに牛乳を飲み始めたのは言うまでもない。




 それから、暫く俺とルーの平穏でラブラブな日々が続いたけれど、ある日とうとう破られることになった。2匹の珍獣の乱入によって。


「珍獣って何よ、珍獣って!」

「イラジャール、あんたね、あれほどルーを見つけたら連絡しろって言ったのに無視したでしょっ!!」


 そう。サトエリことタラハシー・ダラヤム伯爵令嬢と、ミルミラことクシュナ・パマリ子爵令嬢がルーの侍女として雇われることになったのだった。聞けば、クシュナはタラの従姉妹ということだった。前世でも従姉妹同士だった2人は、出会って直ぐにお互いが分かったという。そして、イラジャールが俺だと言うことも。女の勘って怖いな。


「ちょっと、聞いてるの?!」

「そんな偉そうな口を叩いて、良いと思ってるのか?」

「なによ?まさか権力を笠に着て脅そうっての?」


 タラが、執念深く、口うるさい女だということは学習済みだ。ちゃんと対策も打ってある。にやりと笑って手にしていた写真をちらっと見せた。それだけで、タラは何の写真か分かったらしい。


「なっ、なっ、なんであんたがっ!!」


 どもりながらもタラの顔が赤くなる。クシュナも、何の写真か分かったらしい。あ~と呟いて降参した。


「ふん、自分だってお楽しみだっただろ?優しい優しいイラジャ―ル様はな、お前の楽しみを邪魔しないよう侍女として召し抱えるのを遅らせてやったんだ。非難されるどころか、感謝して貰っても良いくらいだな」


 ぐぬぬぬとタラが口をつぐみ、勝敗が決まったところで、ルーが入って来た。


「(みんな、楽しそうっ!私も混ぜてっ!……イラジャ―ル様、何もってるんですか?)」

「ぎゃあああああっ!!なっ、なんでもないのっ!つまんないもんだからっ!!」


 言うなりタラは俺から写真の束を捥ぎ取ってぐちゃぐちゃに丸めた。何も知らないルーは、きょとんとしている。ルーは、どんな表情でも可愛いな。うん。


 因みに、今、タラが俺から奪い取って丸めた写真は、騎士団の訓練写真だ。騎士団は、王都の練習場だけでは手狭になったため、王都郊外に新たに訓練所を建設した。それが、たまたまタラの住むダラヤム伯爵領の隣だったのは、勿論、偶然ではない。


 前世のタラは、騎士団長のカマイラがイチオシで、『カマイラの筋肉を愛でる会』という名の気持ち悪い集まりを催していたぐらいだ。領地の隣接する場所に騎士団の訓練場が出来たと知ったタラは、ほぼ毎日のように訓練場に押しかけ、子供の振りをしてカマイラに抱きついたり、負ぶわれたり、そりゃあもう大人の女性がやったら完全アウトだろという傍若無人ぶりだった。


 写真は、その証拠を収めたもので、バラッドに視察という名目で訓練場へ行かせ、その際、撮らせたのだ。タラが、ルーの侍女よりカマイラの筋肉を取るのは自明の理だった。まあ、カマイラにしてみたら、人懐っこい子供だなと思うくらいで、タラと恋愛に発展する筈もない。転生者の中身がロリでもない限りな。


 それに、タラも筋肉バカだが、30歳以上年上のカマイラと本気でどうこうするつもりもないだろう。故に、ある程度、筋肉を堪能したらルーの侍女になりたがるのも分かっていたし、こちらも侍女が必要な時期だったので、この辺が限界かと思って召し抱えた。全て計算ずくだ。


 そう、俺は現在12歳。来年、学園へ入学するので、家を出なくてはならない。ずっと、陰に日向にルーを守ってきたが、不在では、それも難しい。加えて、俺が家を出ると同時にルーは、ゴーハルバク侯爵家の養女になる。


 公爵家と釣り合いが取れる家、なおかつ、政治的にも牽制しておきたい家として、ゴーハルバク侯爵家が選ばれた。正直、ゴーハルバク侯爵は古狸で一癖も二癖もある老獪な人物だ。ルー独りで養女に向かわせるには心もとないので、タラとクシュナを招集したのだ。事前調査では、2人とも護身術は勿論、接近戦の訓練や、暗器や毒薬対策なども万全らしい。お前ら、一体どんな訓練してるんだ?


 あ~それにしても、何で全寮制なんだろうな?馬車で通ったって10分もかからないのに、どうして自宅通学が出来ないのか……ああ、そうだ。全部、俺のせいだ。乙女ゲーなんだから寮生活のドッキリもあるだろと思ったからだ。くそ、本当に前世むかしの自分は役に立たないな。ふん。


 正直、オヤジに相談した事がある。公爵家の地位を利用して俺だけ特例で自宅通学に出来ないか、とか、いっそ学園に通わなくても良いんじゃないか、とか。ただ、オヤジも伊達に長年、俺のオヤジをやっている訳じゃない。全寮制の学園に通う利点を挙げた。


 それを言われると、全寮制の学園に通わざるを得なくなる利点だ。ほんと、ムカつく。




「ルー、久しぶりに怖い夢見た。一緒に寝ても良い?」

「(はい、一緒に寝ましょう)」


 明日、俺は学園の寮に入り、学年が終わる1年先までルーに会えない。それを考えると、本気で悪夢だったからあながち嘘ではない。9歳になるまで毎日、ルーと一緒に寝ていたが、ルーが生理を迎えてからは、別々に寝るよう命じられた。俺は一緒でも構わなかったので、普段通りにルーの部屋へ行こうとしたらオヤジがルーの部屋に見張りを立て、頑として俺を入れさせなかった。


 そういうとこ、オヤジも徹底している。あと、オフクロから女性の悩みを滾々と説教され、一人になりたいこともあるのよっ!!とブチ切れされた時に、ルーにも1人の時間が必要なのかと納得した。


 でも、今夜は、どうしても一緒にいたかったので、オヤジに許可を貰った。勿論、絶対に手を出さないと念書まで書かされ、どうにかこうにか中へ入ることが出来た。


 久しぶりに入るルーの部屋は、子供っぽさがなくなり、大人の女性の部屋になっていた。そりゃそうだよな、俺はまだ13歳だが、ルーはもう17歳。来年にはデビュタントになって、大人の仲間入りをする。それまでに、俺がいない間に、他に好きな奴が出来たら、そう考えると、今すぐ、ルーの純潔を奪って俺のモノにしてしまい衝動に駆られる。


 念書なんかどうだって良い。ルーが嫌がって泣き叫んだって……は、無理か。ルーの泣き顔と言うと、今でも問答無用で最期に別れた日の顔が浮かぶ。正確には泣いていなかった。けど、苦しそうに眉を顰め、眼の縁に涙が浮かぶ。ずっと噛み締めていたのか赤く腫れた唇は、何かを言いたげに動くが、結局、言葉にならず、そのまま踵を返して去っていった。


 もう二度と、そんな顔をさせない。俺にも、他の誰にも。そう誓って、今までずっと生きてきたんだ。つまらない俺のプライドで、またルーを泣かせることは出来なかった。


「(イラジャ―ル様?)」


 何でもないと首を振って、布団を持ち上げて待っているルーの元へ走っていく。並んでベッドに入るものの、緊張して上手く話せない。ルーは、いつもの調子で、のんびりと話しかけてくる。


「(イラジャ―ル様、明日からの学園生活、楽しみですね)」

「……ルーも行ってみたかった?」


 ルーを養女に出したくないからと学園に行かせなったのは、俺だ。もし行きたかったと言われたら、どうしよう?心臓がばくばくする。


「(う~ん?興味はありますけど、通わなくても良いかなぁ。私、学校って一度も行ったことがないから、集団で生活って良く分からないし、多分、失敗しそうだから)」

「そんなことないよ。ルーなら何だって上手く出来るさ」

「(ふふ、ありがとうございます)」


 そういえば、ルーは前世も学校に行ったことがなかった。だったら、一度くらい行かせてあげるべきだったのか?いや、でも、やっぱり養女はない。しかも、ルーは4歳上だから俺の入学と入れ違いで卒業する。そうなると8年も離れ離れだ!あり得ない、絶対!


 でも、俺が在学中なら?ルーと2人で学園生活って良くないか?頭の中で妄想していると、ルーが膨れて肩を叩いてきた。


「(もうっ!ちゃんと聞いてるんですか?!)」

「あ、ごめん。ちょっと、考え事してて……今、何て言ったの?」

「(何でもないですっ!もう寝ますっ!)」


 ぷんと剥れて寝返りを打つと、俺に背を向け、寝たふりを始めた。俺は慌てて起き上がり、ルーに圧し掛かった。


「ごめんって!今度はちゃんと聞くから、もっかい!ね、もっかい言って!」


 耳元で懇願すると、ルーの体がびくっと震えた。あれ?これって、どっかで……と、真っ赤になったルーが、ゆっくりと仰向けになる。俺の腕の中でルーと視線が絡み合う。ああ、そうだ。前世むかしルーと恋人だった頃、よくあったシーンだった。


 いつも仕事が忙しくて、ルーの話がおろそかになることがあって、そんな時、ルーが膨れてそっぽを向き、俺が圧し掛かって耳元でごめんと謝る。すると、仰向けになったルーが手を伸ばしてきて、触れ合った唇がだんだん深くなっていって、


「……う、わっ!おっ、俺、ちょっとっ!」


 言うなり、ベッドから跳ね起き、トイレへ駆けだす。扉を閉めて続きを思い出す。今のルーより全然小さいけど、形の良いまろやかな胸の柔らかさや、すんなり長い足が絡まる感触は、本当に触れているようだった。俺は、外に聞こえないよう、声を押し殺した。


 その頃、ルーも急に火照った体を持て余していた。そして、誰にも聞こえないよう呟く。


「(あれ、何で今イラジャール様にキスしたいと思ったんだろ?私のイチオシは、シャヒール様だったのに……あ、実際にシャヒール様とキスしたいとか全然考えてませんよ?カマリ様がいるし、図々しいけど、お父さんみたいだからなぁ)」


 うんうん、と独りで頷き、それから、ふうっとため息を吐いた。


「(イラジャール様、攻略対象者だもんなぁ。学園で、ちゃんとした貴族の、もっと可愛い女の子たちに囲まれたら、絶対好きになっちゃうよね。3年後にはヒロインちゃんも入学するしなぁ。いっそ今夜、イラジャ―ル様を襲って子供だけでも……なぁんて無理だよねぇ。そんな発想が、オバちゃんだって!……あ、戻って来た。寝たふりしなくちゃ)」


 そうして、学園入学前夜、同じベッドで2人は悶々としながら夜を明かしたのである。余談だが、何もなかったと聞いたカマリは「我が息子ながら情けないヤツ!」と憤慨したとかしないとか。


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