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私、乙女ゲームのモブですから、好きに生きていいですよね?!  作者: 春香奏多
A面 ~ルーファリスの災難~
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お願いしました。

「妖精さまは、本体以外に、どんな生物にでも変化することができます。私、ルーファリス・マルカトランドは無知で世間知らずです。ごめんなさい……っと、出来たっ!」


 あれから妖精さまに滾々と説教をされ、どこからか取り出した紙とペンで10回反省文を書かされた。だって、ゲームの妖精さまは、如何にも妖精です♪という可愛らしさ満点の、羽根つきの人型タイプだったじゃんかよ。他の姿の妖精さまなんて出てこなかったじゃん。ぶつぶつ。


「何か言ったか?」

「いいえ!何でもございませんわ、偉大なる妖精さま!」


 よしよし、と頷いた猫型妖精は、私の供物を文句言いつつもぺろりと食べ終え、私の書いた反省文を前足で取り上げた。うわ、二足歩行の猫だよ。アタゴ〇ルの世界だ。ヒデ〇シだ。色と大きさが違うけど、図々しさは似ている。


「ふうん。お前、ガキんちょの癖に、字だけは綺麗なんだな」

「そりゃあもう!血の滲むような努力をしましたからね!」


 シルファード王国の文字は、すっげえ練習した。わざわざ王国で標準仕様とされた羽ペンを購入してまで!紙も、機械で出来る奴じゃなくて、一枚一枚手すきで作った紙で練習した。羽ペンは、力を入れすぎると先端が潰れて流麗な字が書けないし、紙も癖が分かっていないとペン先が引っかかるので、すぐにぼたぼたインクが垂れてしまう。


 つまり、前世で苦労した甲斐があったという訳だ。えへん!


 あり?何やらヒ〇ヨシさま、いやいや、妖精さまが変な顔をしていらっしゃる。はっ!もしかして、供物にあたったのでは?と思い立ち、咄嗟に体調を伺ってみた。ぽこっと猫パンチされました。


「あほかっ!妖精さまは、人間ごときの毒物ぐらい察知できるわぁ!それより、願い事は良いのか?直に夜が明けてしまうぞ?」

「あ、そうだった!お願い事は、来年の獅子の月までシャヒール・ナトゥラン公爵の奥方とご子息をお守りください!私、ルーファリス・マルカトランドの差し出せるものであれば何でもお持ち下さい!」


 日本式に土下座をして、声を張り上げた。だって、この国のマナーって膝を折るくらいで、それだって王族対応なんだけど、妖精さまなんだからもっと一番敬意を表せる挨拶をしたい。だったら、人間のマナーと関係なく、頭を地面につけるという行為が一番最上級のような気がした。


「ふうん。来年の獅子の月、までねぇ」


 そう、来年の獅子の月には、陛下に待望の息子が生まれる。そうすれば、公爵閣下一家の王位継承権が下がる訳で、ゲームの中でもそれ以降の襲撃はない。反対に言えば、それまでであれば、今回の襲撃が阻止できたとしても、何度でも襲撃があるかもしれない。それを見越して、王太子が生まれるまで2人の命を守るという願い事にしたのだった。


「人間2人を守るのであれば、願い事は2つになる。つまり、代償も2つ必要となるが?」

「当然のことです。命は1つしか差し出せませんが、他にも、えっと、あ!私を食べて下さい!そうすれば、お肉と魂と2つに……」


 途中で、妖精さまの冷たい瞳に出会い、言葉尻がすぼんでいった。


「人間を食う趣味はねえよ。まったく。俺の代償は2つ。お前の髪と目だ」


 髪と目……ってことは、髪を引き千切って目玉をくり抜けば良いのか?では、まずナイフを、


「だ・か・らっ!その猟奇的な発想は止めろっ!俺には人毛や眼球を愛でる趣味はねえ!俺が欲しいのは、色だ、色っ!」

「……色というと、えー、白髪と白目になるとか?」

「惜しい。黒髪と黒目になる」


 なんだ、そんなことならお安い御用である。どんどん好きなだけ持って行って欲しい。


「お前、本当に分かっているのか?この国では、黒は忌み嫌われている色だ。黒髪と黒目なら尚のこと迫害されるぞ。自分の親から、住んでいる屋敷から、追い出されるかもしれないんだぞ。それでも良いのか?」


 そんなことならバッチオッケー!全然大丈夫です!ふんーっと鼻息を吐いて、胸をそらせてみたが、相変わらず、妖精さまは残念な子を見るような顔をされた。


 まあ、私だって分かっている。恐らく、多分、絶対に私の髪と目の色が変わったら、誰もが私を薄気味悪く思うだろう。この国では、私の知る限り、黒髪黒目の人は見たことがない。歴史上でも、何百年も前に悪魔に憑りつかれた人が黒髪黒目という記述が残っているだけだ。


 つまり、突然、色が変わったりしたら、まず間違いなく悪魔に憑かれたとされるんだろうなあ。下手すると、魔女裁判で処刑されるかもしれない。でも、私1人の命で2人の命が救えるなら、躊躇うことなど何もない。オールオッケ―である。


「……よし、分かった。そこまで言うなら願いを叶えてやろう」

「ははーっ、ありがたき幸せにござりまするぅ!」


 再び、土下座をし、顔を上げた時には、猫の姿の妖精さまは、どこにもなかった。そして、山の向こうから顔を覗かせた朝日が、私の黒く染まった髪を照らした。


「願い事は、あと1つ有効だ!必要になったら、俺の名を呼べ!アラハシャ・ソワカとな!」


 空に声が響いて、その後は完全なる静寂に包まれた。遠くで、ちちちと鳥の囀りが聞こえる頃、アラハシャというのが、『世界の意志』を意味する言葉だと思い出した。



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